幸せになっても良いですか? 完

鈴木なお

文字の大きさ
1 / 7

積まれた札束

しおりを挟む
「どうしよう…。」

銀行のATM前に車を駐車して記帳したばかりの通帳を見つめる。

最後に記帳した箇所には無数の0が並び、振り込まれた金額の多さを実感した。

それを見て出た1言目が「どうしよう…。」なのだから、どうにもこうにも私は凡人なのだろう。

「…。」

無言で通帳を見つめ、通帳を持つ指に少し強さがかかる。

効果音を付けるのならギュッという音が的確だろうか。

「…。」

そういえばギュッて効果音は、人を抱きしめた時にもでる音だよねなんてふいに思ったりもした。

窓から入ってくる秋の風が少し冷たくてより一層、人恋しさを悪化させる。

きっと数か月後には指先に降り積もる大気の温度はもっと冷たくなるに違いなかった。

そして口から出る息は真っ白になって、指の先端は桃色になって、冬に私は包まれてると思う。

まだ秋なのに冬のことをシュミレーションするなんて気が早いねと彼に言われそうだ。

「…。」

また、通帳に記帳された数字を見つめる。

相変わらず0の多さが目に付く。

子供の頃、よく通った図書館には魔女について書かれた本があってよく読んでたっけ。

それでその本を読んでいたから等価交換という言葉も知った。

「…。」

ふいに思った。

もしもこの通帳の0を複数、天に捧げたら彼に会えるんじゃないかって。

「…バカみたい。」

自分の成長していない子供っぽい考え方に泣けてくる。

思わず通帳を閉じた。

通帳を閉じるとより一層、彼との距離が遠くになった気がする。

なぜそういった考え方をもったのかというと、彼がくれた最後のプレゼントがこのたくさんの0だったからだ。

私の気が動転した時、私は通帳に並んだ彼からの0をリズミカルに指でなぞって数えた。

「1っ、2っ、3っ。」

並んだ0、それはまるで彼が最後に残した足跡のようにも見えた。

子供の頃、ケンケンパという飛び方をしたっけ。

通帳に続く0の数字を彼の足跡と重ねる度に私はケンケンパを彼としたかったなと思いだすのかもしれない。

通帳を見つめては続く0の足跡と戯れる度に私は彼を思い出す。

私は彼の子供時代をよく知らない。

だから彼と付き合っていた時のことで私の心はいっぱいだ。

彼からの0の数字を見る度にもっと互いの子供の頃を話していれば良かったなと思ったりもする。

彼、彼、彼、と続いてしまったが彼は私の元交際相手だ。

「…。」

車の窓を閉めた。

窓から見える夕焼けは美しく、外気はヒンヤリと冷たい。

夕方は綺麗だけど冷たいから人恋しくなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

契約婚のはずが、腹黒王太子様に溺愛されているようです

星月りあ
恋愛
「契約結婚しませんか? 愛を求めたりいたしませんので」 そう告げられた王太子は面白そうに笑った。 目が覚めると公爵令嬢リリカ・エバルディに転生していた主人公。ファンタジー好きの彼女は喜んだが、この国には一つ大きな問題があった。それは紅茶しかないということ。日本茶好きの彼女からしたら大問題である。 そんな中、王宮で日本茶に似た茶葉を育てているらしいとの情報を得る。そして、リリカは美味しいお茶を求め、王太子に契約結婚を申し出た。王太子はこれまで数多くの婚約を断ってきたため女性嫌いとも言われる人物。 そう、これはそのためだけのただの契約結婚だった。 それなのに 「君は面白いね」「僕から逃げられるとでも?」 なぜか興味をもたれて、いつしか溺愛ムードに突入していく……。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

愛のない契約結婚~絶対に離婚するつもりだったのに、年下CEOに愛されすぎておかしくなりそう~

cheeery
恋愛
「絶対に離婚してみせる」 大手商社で最年少課長を務める桐谷美和は、過去の裏切りにより心を閉ざし仕事に生きてきた。 周囲から「氷の女」と恐れられる彼女だったが、ある日実家の会社が倒産の危機に瀕してしまう。 必要な額は八千万円。絶望する美和に救いの手を差し伸べたのは、新人部下の四宮怜だった。 「8000万、すぐに用意する代わりに結婚してください」 彼の実の正体は財閥の御曹司であり、うちの新社長!? 父を救うため、契約結婚をしたのだけれど……。 「借金を返済したら即離婚よ」 望まない男との結婚なんて必要ない。 愛なんて、そんな不確かなものを信じる気はこれっぽっちもないの。 私の目標はこの男と離婚すること、だけ──。 「離婚?それは無理でしょうね」 「借金のことなら私がどうにか……」 「そうじゃない。断言しよう、キミは必ず僕を好きになるよ」 ふざけんな。 絶対に好きになんてなるもんか。 そう誓う美和だったが、始まった新婚生活は予想外の連続で……。 家での四宮は甘い言葉を囁く溺愛夫で……!? 「あなたが可愛すぎてダメだ」 隙あらば触れてくる彼に、頑なだった美和の心も次第に乱されていく。 絶対に離婚したい妻VS絶対に逃がさない夫。 契約から始まった二人の恋の行方は──。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...