【完結】魔王の腹心と厄介な男!

花より団子よりもお茶が好き。(応募用)

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◇捌・揺れる想いと嫉妬◇

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「マハル様の、許嫁にございます」

「い、許嫁~!?」

 カインが驚くと、彼女は更に付け加えた。

「はい、お家同士深い繋がりがございまして、マハル様とは幼い頃から仲良くさせていただき、わたくしとの婚姻は兼ねてから決められていたことにございます」

「え、てことはマハルが逃げてきた相手って……」

 タージは居心地悪そうに答えた。

「……わたくしにございます」

 タージが言うにはまさに結婚前夜、マハルは突如姿を消したのだと言う。そして何処に消えたか心当たりがあったタージは異界の門を使いマハルを追ってこちらへ来たのだと。

 カインは真ん丸の瞳を見開いて驚いた。

(えぇ、マハルのやつこの子のどこが不満だったんだよ……)

 見るからにしとやかで奥ゆかしく美しい。非の打ち所がなさそうだというのに。

「とにもかくにもマハル様のなさっている事はわたくし達の世界では重罪にございます」
「じゅ、重罪?」

 話についていけなくなっているカインにシュケルが助け船を出す。

「望んでいない相手に無理やり宝玉の実を使うのは犯罪行為だそうですよ」

 なるほど、そりゃそうだとカインは納得した。
 タージの肩がふるふると震え、絞り出すように言う。

「わたくしはてっきり……お二人が相思相愛だとばかり。それ故にお二人の仲睦まじい姿を拝見さえすればマハル様へのこの想いにも諦めがつくと……そして父様方を説得するつもりで……ですが、これでは話が違いまする!」

 タージは立ち上がると、ほどけかかっていた袖の長い上衣を、たすき掛けし直す。

「わたくしの婚約者がしでかしたこと、わたくしが責任を持ってあなた様をお助けします!」

 せいのっと、タージは先程の巨大な岩の小槌を持ち上げた。

「フフフ、ありがたい申し出ですね。ところでこれが済んだらお二人にお願いが」
「なになに!?」
「なんなりと!」

 シュケルが自分にお願いごとなど滅多にない、カインはぱっと嬉しそうに顔を向けた。
 一方タージは何かしらの責任をとれと言われるのではと緊張する。

「お二人とも帰っていただけますか?」
「「え?」」

 それは二人にとって思いもよらぬ言葉だった。

「まずカイン、あなただけでも城へ戻ってください。次にタージさん、あなたはあなたのあるべき場所へお帰りください」

 そして付け加える。

「マハルについてはご安心を、必ずあなたのもとへ自ら帰りましょう」

 どういう事かと動揺する二人に、いつものようにシュケルはフフフと笑う。

「そろそろお二人を護れるのも時間の問題でして」

 その言葉の意味にカインは気付けなかったがタージだけは違った。
 砦からそう遠くない所で彼らは今も尚、激しい交戦を繰り広げているのだ。おそらくマハルはシュケルを巻き込まないよう。カボチャもできる限りこちらを巻き込まないようにしているだろうが……それにしたって一切の衝撃もこちらへ及んでこないというのは不自然だ。

「……分かりました。あなた様を信じまする!」
「えぇ!? 俺は納得できてないんだけど!?」

 タージはその巨大な小槌を柱へ向かって振り落とした。
 柱の角にコツンと触れただけに見えたが、その瞬間に小槌ごと十字の柱は地上までひびが及び、全てが一瞬で砕け散る。
 自ずとシュケルの身体が空へ投げ出された。

「シュケル!?」

 いつもの腹の底の見えぬ微笑みを浮かべたまま、シュケルが背中から落ちていく。

「うそだろ、どうして!」

 どうして動かないんだとカインは飛び出そうとした。

「わたくしにお任せを!」

 カインを遮ってタージが先に飛び降りる。

「わ、バカぁ!」

 続いてカインも二人を追って飛び降りた。

 白の衣と桃色の衣が風にバタバタと翻られながら、タージはシュケルへ手を伸ばした。

「あと、もうちょっと……!」

 シュケルの指先へ触れるまさにその瞬間。

「っシュケル!」

 何者かの手によって引き離された。
 タージはその姿へ向かって手を伸ばし叫ぶ。

「マハルさまああ!」

 目があったマハルはギクリと頬をひくつかせた。

「っタージ!?」

 シュケルを横抱きにしたマハルから、タージはどんどん離れていく。それに追い付いたのはカインだった。

「大丈夫か!?」

 タージの背中と膝裏へと腕を回しガシッと抱き寄せる。

「どうしてここに!?」 
「どうしてもこうしても」

 カインは落ちながらくるりと身を捻り、同様に崩れ落ちる柱の残骸へ足をかけ、残骸から残骸へとひょいひょいと飛び移り上がっていく。

「落ちてる女の子をほっとけないって!」

 すたっと一番上の残骸へ飛び移ると、カインは機嫌よく言う。

「これが本当の〝お姫さま抱っこ〟だな」
「え?」
「だって、大陸の長の娘ってことはお姫様なんだろう?」
「え、えぇ?」
「じゃあやっぱりお姫様抱っこだ」

 確かにタージはお姫様抱っこをされていた。
 はたと意識するととたんに恥ずかしくなりタージの顔がぽっと赤らぐ。

「落下しながら何してんですか!」

 遠目に叫ぶカボチャの声にハッとする。

「そうだった!」
「わたくしに任せてくださいまし!」

 タージは体勢をうつぶせに変えると地面へ向かって両手をかざした。

「来い、地上の大地よ! 我に力を貸したまえ!」

 「はぁああああ」とタージの気迫と共に大地の一部が盛り上がり、くだけ散った柱の瓦礫を巻き込みカイン達の元へせり上がってくる。そして二人を乗せて走り出した。


 ◇◇◇



「――シュケル!」

 カボチャと交戦しながら、すぐに柱の異変に気付いたマハルが叫んだ。

「っな、シュケル!?」

 一瞬遅れてカボチャも気付く。シュケルだけでなくカインともう一人誰かが落下していると。
 身を翻し、瞬時に追い付いたマハルは、シュケルをその両腕に受け止める。だが予想だにせず目の前で落ちていった馴染み深い顔に驚愕した。

「なぜ、彼女がここに?」
「貴方の婚約者でしょう。助けなくていいのですか?」

 シュケルの言葉にマハルは「違う!」とムキになる。

「タージはただの幼馴染みだ。それに彼女は……」

 言ってるそばからタージとカインは走る大地の道に運ばれ離れていく。

「そんな簡単にくたばるような可愛げなどない」 

 一方カボチャはというと、両方なんとかせねばと考えたせいで出遅れた。シュケルはマハルに先を越され、更に声をかけ助けようとしたカインともう一人は自力で難を逃れたので、手持ち無沙汰となっていた。

「っっっなんっなんですかもう! まっったく、いいとこ無しじゃないですか!」

 悔しげに拳を握ってマハルをキッと睨み付ける。

「これもそれも全部貴様のせいです!」

 ぎゃんぎゃぎゃんぎゃ喚くカボチャにマハルは「なんなんだ」と眉をしかめ、横抱きにされたシュケルはカボチャへ声をかけた。

「カボチャ、なんでもすぐ人のせいにするのは貴方の悪い癖ですよ」
「シュウウケエエル! さっきからお前はいったいどっちの味方なんですかああ! そんな奴にかんったんっに身を任せてんじゃないですよ……! 簡単に!」
「私はどちらの味方でもありませんよ」

 その言葉にカチンときたカボチャは、眉間に青筋を立て怒りをあらわに叫ぶ。

「こっちは心配して……っていうか随分元気そうじゃないか! そんなに元気なら自力でなんとかしやがれ、なんでさっきからずっと……バカやろう!」

 ――叫んだあと、カボチャはわずかに拳を震わせた。
 ぎゅっと握った拳から爪が掌に食い込みそうになり、赤い瞳が悔しげに揺れる。
 唇を噛み、僅かに震える。怒りの感情とそれだけではない何かで。

「フフフ、無理をいいますね」
「そうだ無理を言うな」

 マハルにまで真顔で言われ「はぁ!?」とカボチャは眉をつり上げた。

「シュケルは宝玉の実を体内へ取り込んだのだ。母体が出来上がるまでおよそ一時いっときほどかかる。その間は一切の身動きがとれん」
「一時って言ったら……およそ二時間じゃないですか……長い、長過ぎる!」
「しかもその間、身体が作り替えられる苦しみに耐えなければならない。少しは労われ」

 フンっと偉そうに鼻を鳴らしたマハルにとうとうカボチャの堪忍袋の緒が切れた。

「二時間……二時間もそんな、どうりで、どうりで……この、くされげどおおおそんなもん人にやらせんでてめえええがやらんかああああああ!」

 カボチャは魔力を込めた例の攻撃をマハルへ向け乱射する。だがいくら撃ってもあっさりとマハルに躱された。

(本気でやれたら、こんな奴ごとここら一帯を消し炭にできるのに――カインとシュケルさえいなければ)

 正直カボチャが本気になれば魔力の扱いが下手なのもあいまって、制御出来ずにそれこそ尋常じゃない規模の被害を出してしまう。
 それを本人も分かっているので多少、手加減せざるを得ない。とは言えその手加減も下手なのでそこらに不必要に見るも無残な穴が増えているわけだが。

「カボチャ、私なら心配いりません。カインと共に帰ってください」

 おまけにシュケルのこの反応。いったい何を考えてそんな事を言ってるのかカボチャにはさっぱり分からん。
 しかも余裕そうなのがこれまた腹が立つ。先程の話を聞く限り、シュケルの様子を見る限り、余裕綽々といった状況ではないだろうに。

「それともう一つ頼まれてもらえませんか」
「うっさいですね! はいそうですかって帰れるわけないでしょうが!」

「シュケル、頼み事ならワタシが」

 それは難しいですねと空中で談話し始めた二人にカボチャの苛立ちはもはやピークに達する。 

「ゆるっさん!」

 単純な魔力の殴り合いでは周辺一帯を破壊し穴だらけにしてしまう(もうしているが、ついで言うと単純に魔力で殴ってるのはカボチャだけ)そう判断した次の瞬間。

「子供の姿はやめだ! 確実に仕留めてやる!」

 背がカインより一回りも高くなり、細身の体に程よく筋肉のついた引き締まった体格。それに合わせて服までも変わる。
 精悍な顔立ちだが、どこか童顔さが残る、そんな二十代ほどの青年――これが彼の真の姿だ。
 その両手には空を覆う夕焼けのように燃え上がる弓と矢が握られている。
 それはカボチャの魔力を凝縮し、時折透明に揺らめいた。魔力で出来た決して折れる事のない不滅の矢。

「僕は大人姿になると魔力量が極端に減りますが……」

 その弓と弦を引き締まった腕でぎりぎりと極限まで天高く引き絞る。

「コントロールは抜群に良くなるんですよ!」

 子供の甲高い声からがらりと落ち、荒々しく低い声で解き放たれた二本の矢、駆け上がるように大きな弧を描きマハルに向かって降下する。
 間髪を入れず、カボチャは三本の矢を引き絞った。
 矢の速度もさることながらマハルの動きも速い。二本の矢が近付く前にシュケルを両腕に抱えたまま疾風のごとく茜色の空を駆ける。

「浅はかな。万一シュケルに当たったらどうするつもりでいるんだ」
「バカか貴様! コントロールが良くなると言ったのが聞こえなかったようですね! この矢は追尾型、例えどんな妨害があろうとも何処までも獲物を追い掛け必ず目標のみを仕留める!」

 カボチャが言う通り、何度避けようとも逃げようとも二本の矢は迷うことなくマハルを追い続ける。

「たとえ貴様がシュケルを盾にしようとも」

 鞭のようにしなやかな動きで躱し、高速で移動し続ける対象物へ、カボチャは真っ直ぐ狙いを定める。

「狙うは貴様、ただ一人!」

 三本の矢が勢いよく放たれた。


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