【完結】魔王の腹心と厄介な男!

花より団子よりもお茶が好き。(応募用)

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◇拾続・花嫁と魔王の腹心◇

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「だったら、だったら最初っから追いかけてくんなと言わんかいボケ!」
「そうは言っても伝える暇がありましたか?」
「うぐっ」
「それに何を言ってもきかないのは分かっておりましたので」
「うぐぐっ」

 ぐうの音も出なくなるカボチャ。

「ごめんなシュケル~」

 カインは眉をハの字にして、苦笑する。

「フフフ、謝る必要はありませんよ。少なくとも異界への足止めになりました。カインが来てくれなければ私は今頃こちらにいなかったかもしれませんので」

(おいちょっと待て、僕は!? 僕の存在は!?)

「そっか良かった~!」と笑うカインにシュケルは穏やかに礼を言う。
 その様子に、これだからコイツはとムカムカムカムカしながらカボチャはその矛先をマハル達へ向けた。

「そっちはそっちでいつまで喧嘩してるんですか!」

 すると二人はその場に正座と胡座をし、だってと言って互いを指差す。

「マハル様が……!」
「タージが……!」

 二人同時に言い分を話そうとするのをシュケルが止めた。

「フフフ、落ち着きなさい。それにマハル、年下の婚約者を泣かせるなど恥ずかしいとは思いませんか?」

 実はタージはマハルより五つ下なのだ。
 この事実に関して何故シュケルが知っているのかと言うと、カインが砦のバルコニーに現れる前にタージと二人で会話をし、その時にシュケルが尋ねたからである。
 マハルはギクッとして押し黙った。

「タージさん、貴女からどうぞ」

 シュケルに促され、タージは居住まいを正して話し出す。

「わたくしは、わたくしはずっと幼少の頃からマハル様だけを想って今日こんにちまでまいりました。わたくしどもの世界では十四で成人しますゆえ、将来のために早い方が良いと両親らの勧めもあり、わたくしも納得して十四の頃に赤の実を取り込んだのです。そして一度はこの身体を手にしました。十六の頃に理由も教えて貰えぬまま、マハル様に元に戻せと言われた時も、文句の一つも言わず黒の実を体内に取り込みました――あ、ちなみに黒の実は赤の実の逆の効果があり、このも便利です」

 急に出てきた新アイテムの存在に一同は「便利なのか……?」と面食らう。
 だがそれよりも、十四の頃にやら十六の頃にやらという話の方が衝撃だった。

「え、ちょっと待って、シュケルが動けなくなったあれを?」

 カインは顔面蒼白に恐る恐る尋ねる。

「はい」

 頷いたタージにカインは気分が悪くなるのを覚えながら、マハルに何か言おうとして待て、と言うようにカボチャにその口を手で塞がれた。

「そのあと数ヵ月も経たず、やはり以前の方がまだ良かったと言われて、わたくしは直ぐにこの身体へと……こんなに、こんなにマハル様の望むようにと努めて参りましたのに、わたくしを煩わしく思うだけでは飽き足らず、他の方を巻き込むなど」

 目を真っ赤にさせて、はらはらと涙を流すその姿に一同、同情し得ない。
 詳細を知らぬ魔王も、なんとなく事情を察してカボチャ達と一緒にマハルをじとーと見詰めた。

「マハルと言ったか……お前、恥ずかしくないのか」
「魔王さまの言う通りです。なんかもう本当に怒りを通りこして軽蔑と呆れとこんな男やめとけって感情しかわかないです」
「俺もカボチャと同じ」

 弱ったマハルは違う違うちょっと待てと慌てて話し出す。

「そうではない! ワタシはただ、最初はただワタシのせいで身体を変えたのが忍びなく嫌なら身体を戻してよいと、けれど戻ったら戻ったでタージがやたらと妙なやからに好かれ始め妙な虫がつかぬようにとするにも限界が、だが今の身体になったらなったで余計、そもそもタージにはワタシ以外にも数えきれぬ程の許嫁が……!」

 おっと、雲行きが怪しくなってきた。

「それは、わたくしが赤ん坊の頃に父様とうさまが勝手にいろんな方と……御家の仲に傷をつけるわけにもいかず致し方なく、ですがわたくしはマハル様一筋!」
「嘘をつけ、百はいただろう相手が!」
「いえ、父様いわくもっといると、手当たり次第に約束したそうなので正確な数はちょっと……」
「なっ!?」

 マハルは思わず絶句した。

「えぐいですね」
「そこまでくると本命は本当に自分なのか、疑心暗鬼にもなるだろうな」
「俺も心折れるかも」

 カボチャ、魔王、カインは今度は可哀想な眼でマハルを見つめる。

「と、とは言え、全て婚姻前に清算いたしました! そう申したではありませぬか!」
「と言いながら、最後の思い出にと迫られて断りきれずに流されそうになったのはいったい誰か、ワタシが割って入らねばどうしていた!」
「誤解です!」
「そもそも清算したと言うなら何故、式の前夜にワタシは数人の男女に命を狙われねばならなかったのか」
「そ、そんな」

 初耳だったのかタージは口元をおさえて眼を丸くした。

「だいいちこれまでにも……えぇいお前の周りにはろくな者がいない!」

 完全にブーメランだが一同は今だけは黙っておいた。

「だからワタシは、どうせ夫婦めおとになるなら運命の相手が良いと、かねてからの想い人の元へ……それの何が悪い」

 罰が悪そうに顔を背けるマハル。

「運命?」とカインは呟く。

 するとそれに反応したのはタージの方だった。

「はい、マハル様はかねてよりシュケル様に助けられた事に恩義を感じ、彼との出会いは運命だったのだと話しておりました。大人になったら初恋の人を迎えに行くのだと」

 いったいその話をどんな心境でわざわざ許嫁に話していたのか謎である。
 だいぶ話がややこしくなって来たが、ずっと穏やかな物腰で、話に耳を傾けていたシュケルがようやく口を開いた。

「マハル、貴方の気持ちはありがたいのですが、貴方も本気ではなかったのでしょう」

 するとマハルはバッとシュケルへ振り向いて違うと弁解する「ワタシは本気で!」だがシュケルは首を振った。

「そうだとしても私が困るのですよ。何故なら」

 シュケルは魔王の腕を引く。

「私はこの方と心を許しあった仲なので」

 ――場が、凍った。

「フフフ、そうですよね。魔王さま?」
「あぁ確かに、余もお前がいなくなると困る」

 カインは涙目であわあわと(どういうことだよ!?)とカボチャに助けを求めるが、カボチャも(こっちが訊きたいですよ!)と瞳を戸惑わせる。
 流石のカインも〝心を許した仲〟というのがどういう意味か分からないほど、鈍くも疎くもバカでもない。

(え、え、俺自分がセオドアの恋人だと思ってたけど違った!? 俺の勘違い!?)
(シュケルと魔王さまが!? いやない、絶対ない! この数百年僕が気付かなかったなんて、あってたまりますか! そもそも……!)

 だが、混乱し過ぎて二人は何も言葉に出来ない。

 マハルは「そんな……」とその場へ手を付き、その端正な顔立ちに絶望の色を浮かべた。
 そんなマハルに、シュケルは視線を合わせて屈む。

「マハル、貴方の初恋の相手になれて私も嬉しい限りです。ただ初恋と言うのは実らないからこそ良い思い出になるもの……それに」

 シュケルはタージを見た。

「貴方にはもう既に、心から大切にしたい者が、本当はいるのではないですか?」

「え?」とタージは息をのんだ。

 マハルはゆっくりと起き上がる。
 眼をそらしながらも、タージへぎこちなく手を差し伸べた。

「帰るか……」

 一瞬だけその言葉の意味に戸惑って、けれど直ぐ、タージは喜んで手をとった。 

 そんなこんなで、砦の中にある鏡の前へ集まる一同。
 マハルは面々と順に目を合わせると「すまなかった」と頭を下げた。シュケルには申し訳もたたないと。
 シュケルは「お気にせず。よくあることです」とこたえる。
 まるで何事もなかったかのように。それにマハルは片眉を下げ、じゃあと踵を返す。

 カインは「今度から相手の話はちゃーんと聞くんだぞ~!」と、手を振り。
 カボチャは「……正直これでいいのか、全く腑に落ちませんけどね。なんなら戻ってから上手くいくのか心配なくらいですけど、とりあえずもう二度と相手の意にそぐわない事はしないように」と、少しげっそりした顔で言う。
 魔王は魔王で「伴侶を大切にな」と、腕を組み軽く手を振った。

 マハルはタージと手を取り鏡へ向かう。
 ――結局、シュケルに指摘された事は全て図星だったのだ。
 けれど正直こうなる事はどこかで分かっていたのかもしれない。それにしても初恋の相手は自分との約束さえも覚えていなかったと、少し寂しく思う。
 こちらへ来た時と同じように鏡が夜空のような紺色に揺らめいた。

「マハル」

 背後からシュケルの穏やかな声がかかる。

「――本当は、覚えておりましたよ。あの約束を」

 マハルが振り向いた時には――もう既にその姿はなかった。
 あるのは見覚えのある煌びやかな大きな楕円の鏡。
 戻って来たのだ。風の大陸へ……。
 誰かが二人の姿に気付いて、周りへ声をかけ、ざわざわと血相を変えて集まってくる。

 マハルはタージの手を少しだけ強く握って言った。

「一つだけ、間違っていたぞ」
「え……?」

 タージは不安げに見上げる。

「……初恋の人を〝迎えに行く〟などと、言った覚えはない。ただ、〝会いに行く〟と言っただけだ。初恋などと、一度も言っていない――昔も、今も」

 マハルの声は何かを絶ち切るように、そしてタージへ何かを伝えていた。
 物凄く回りくどいその言葉。
 一瞬、何を言われたのか分からなかったタージだが、じわりとその意味に気づいて、嬉しさから瞳に涙がにじむ。
 彼女は、くしゃりと笑って目元を拭う。

「……はい、はい!」

 小さく、でもまっすぐに頷いて、両手でマハルの手を包み込む。
 そして――マハルも、そっとその手を握り返した。

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