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二章
両手に花
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午後二時を少し過ぎ、葵は幼稚園帰りの息子と手を繋ぎながら、のんびり歩いていた。
「今日な」
斜め掛けにした通園バッグにつけたキーホルダーが、子供の楽しげな足取りに合わせて跳ねる。
「みいちゃんと、さなちゃんが、ケンカになったんよ」
「ええ、なんでやの?」
葵が聞き返すと、息子は少し首を傾げ、葵の手を握り返した。
「あのね……僕の隣に座るのは私や、って言い合いになったんよ」
葵は、笑みを浮かべながら、隣で歩く息子を見つめる。
長い睫毛。
涼やかな目元。
そして人見知りせず、女の子への心遣い――折り紙を教えたり、泣いている子に手を差し伸べる優しさも持っている。
「そっくりやん、誰かさんと。遺伝って怖いわ……」
思わず、心のうちを呟いてしまう。
ごほんと咳払いをして、葵は尋ねた。
「それで、どうなったん?」
「右に、みいちゃん、左に、さなちゃん、でええやん?って僕が言うたら、そうやね!三人で座ろ!ってなったんよ」
葵は思わず微笑む。
色男の血を確実に受け継いだ、その息子の判断力。
「両手に花やん。羨ましいわねえ。その子達は、どんな子?」
「みいちゃんは、目がぱっちりしてて可愛い。さなちゃんはお洒落が大好きで、髪に毎日違うリボンしてるんや」
息子のあげた特徴は、外見ばかりである
「ええか……人は見た目や無いで、中身やで。中身で選ぶのが賢いのや」
葵は言うが、榊宏雅を恋人に選んだ時点で、自分の言葉に、全く説得力がないことを知っていた。
「中身?」
「そう。心の綺麗な人を選ぶんや。優しい、尊敬できる、信用できる、そういう人やで」
葵の胸に、ふと宏雅の姿が浮かんだ。
「……でも、見えへんやん、心は」
息子の無垢な瞳が、葵を見上げる。
「そうねえ……心は言葉にも滲み出るよ。後は、目は心の窓、なんて諺もあるなあ」
「葵ちゃん、やっぱり物知りやねえ」
息子は、感心しきりで、嬉しそうに微笑んだ。
「今日な」
斜め掛けにした通園バッグにつけたキーホルダーが、子供の楽しげな足取りに合わせて跳ねる。
「みいちゃんと、さなちゃんが、ケンカになったんよ」
「ええ、なんでやの?」
葵が聞き返すと、息子は少し首を傾げ、葵の手を握り返した。
「あのね……僕の隣に座るのは私や、って言い合いになったんよ」
葵は、笑みを浮かべながら、隣で歩く息子を見つめる。
長い睫毛。
涼やかな目元。
そして人見知りせず、女の子への心遣い――折り紙を教えたり、泣いている子に手を差し伸べる優しさも持っている。
「そっくりやん、誰かさんと。遺伝って怖いわ……」
思わず、心のうちを呟いてしまう。
ごほんと咳払いをして、葵は尋ねた。
「それで、どうなったん?」
「右に、みいちゃん、左に、さなちゃん、でええやん?って僕が言うたら、そうやね!三人で座ろ!ってなったんよ」
葵は思わず微笑む。
色男の血を確実に受け継いだ、その息子の判断力。
「両手に花やん。羨ましいわねえ。その子達は、どんな子?」
「みいちゃんは、目がぱっちりしてて可愛い。さなちゃんはお洒落が大好きで、髪に毎日違うリボンしてるんや」
息子のあげた特徴は、外見ばかりである
「ええか……人は見た目や無いで、中身やで。中身で選ぶのが賢いのや」
葵は言うが、榊宏雅を恋人に選んだ時点で、自分の言葉に、全く説得力がないことを知っていた。
「中身?」
「そう。心の綺麗な人を選ぶんや。優しい、尊敬できる、信用できる、そういう人やで」
葵の胸に、ふと宏雅の姿が浮かんだ。
「……でも、見えへんやん、心は」
息子の無垢な瞳が、葵を見上げる。
「そうねえ……心は言葉にも滲み出るよ。後は、目は心の窓、なんて諺もあるなあ」
「葵ちゃん、やっぱり物知りやねえ」
息子は、感心しきりで、嬉しそうに微笑んだ。
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