この恋で、夜を越えて

吉柳ひさめ

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三章

見解

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黙って煙草を吸う宏雅は、テーブル上で低音で震える携帯を見つめていた。

……また電話だ。
もう、誰からか見当がついていた。

「出はらないんですか?」

葵に聞かれて、宏雅は渋々と言った感じに手を伸ばして、携帯を確認した。
大きなため息をひとつ。

「どうした、東堂」

『お変わりありませんか、宏雅様』

物静かに、けれど理知的に、老執事が挨拶を述べた。

『岩崎様との、ご懇談の件です』

東堂が恭しく言った。やはり、と思う。

「さっき本人から電話があった」

『それは、仲が宜しい事で』

少し弾んだ口調になる東堂に、宏雅は顔をしかめて言った。

「違う。俺たちは……そういうのじゃない」

『そうでしょうか?』

「そうだ」

『そうとは、聞いておりませんが……』

東堂は電話の向こうで、軽く咳払いをした。

『財閥子女へのお手付きは、大きな責任が生じますよ、宏雅様』

「そんなの……わかっている」

不貞腐れ気味に、宏雅は答えた。

『個人的見解を述べても、宜しいですか?』

珍しく、東堂が踏み込んで来た。

「言ってみろ」

『私は、此度のご縁組に賛成でございます』

「……なぜ?」

『家柄、血筋は言うまでもなく、財閥に連なる者の重圧や立ち振舞いを、彼女はよく理解されていらっしゃいます。必ずや宏雅様の支えとなるでしょう』

『培われた能力や美貌だけでなく、若くご健康……子宝に恵まれる可能性も高く、財閥当主の妻たる資質を兼ね備えてらっしゃる。医師という、崇高なご職業も素晴らしいです』

「崇高……」

思わず宏雅が、言葉を繰り返す。
榊家本邸へ、葵を連れて行った宏雅に『水商売の女は宜しくない』と東堂が、小言を言ったのを思い出した。

「だが、お前は実際に会ってないだろう?」

反論するように宏雅が言った。

『お会いされた方に、彼女の印象を伺いました』

ごく当然のように言う、東堂。

「それは誰だ?」

『ジェイド様です』

さらりと答える東堂。宏雅は、苦痛に耐えるように眉間にしわを寄せた。

「……いつから、あいつは榊家のご意見番になったんだよ」

嫌そうに目を細めて、宏雅は尋ねた。

『大変、魅力的な女性だと』

宏雅を無視して、嬉しげに言う東堂。

「あいつが褒めない女、この世にいるのかよ……」

ぼやく宏雅。

『ご実家に頼らぬ志の高さ。お若く美しく、一番悪い時期の宏雅様をお支えくださった、心根の優しさを鑑みれば、ジェイド様がご推薦なさるのも、無理ありませんね』

“杏奈?かなり良い女だな。おまえ、あの主治医と寝てるのか?羨ましいね”

笑い飛ばしていたジェイドを思い出す。宏雅は、藤原のようにずきずきと、頭が痛くなってきた。

「俺は、孤立無援って事だな」

宏雅は、呻くように言った。

「もう良い……本人と当日話す」

諦めのため息をつきながら、電話を切った。
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