カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
36 / 169
ラジトバウム編

19話 おちつける場所

しおりを挟む
 次の日ギルド支部へ向かうと、建物に入る前に気になる言葉が聞こえた。
 俺は足をとめて耳を傾けた。複数の男と女の声が入り乱れて、なにかを話している。

「あの新米冒険士が、ボルテンスのやつに勝ったらしいぞ」
「俺はたまたま予選を見に行ったんだが、あいつただもんじゃないぞ。とんでもねえレアカードを持ってやがった、誰も見たことがないみたいだったぜ」
「なんだ、カードが強かったのか」
「でも、それっておかしくない? 新米冒険士なのに、どこでそんなカード見つけたんだろ」
「まさか盗んだとでも?」
「そうじゃないけどさ。るろう人らしいし、なんかちょっと怪しいっていうか……」
「たしかにな……おっと」

 俺とフォッシャが入るなり会話も止まった。背中に視線を感じるが、俺は彼らを無視して通り過ぎる。

「なんワヌ、あいつら。エイト、気にすることないワヌよ。フォッシャがオドの法則をしっかり守ってるから、オドのご加護があるんだワヌ。あのカードと出会えたのだって、オドのお導きなんだワヌから」

「大丈夫、気にしてないよ。それより仕事に集中しようぜ」

「ラジャーワヌ!」

 わざわざ支部にこなくても、冒険士カードからクエストは受注できる。が、ここにくれば受付の女性に、おすすめの簡単な任務を教えてもらえる。
 俺とフォッシャはここで仕事を受けることが多い。正直なところどんな任務が楽なのか、あるいは大変なのかよくわかっていない上、膨大な量のクエストの中からひとつを探すのも大変なのだ。

 受付の女性からクエストの情報が書かれた紙を手渡されたところで、横から誰かが近づいてくるのがわかった。

「あらあら、自称ミラジオンと闘って生還した勇者様じゃない」

 この壮麗な衣装がよく似合っている女性は、たしかローグとか言ったか。
 嫌味をこめて俺に話しかけているようだが、あまりに美しすぎてまったくムカつかない。むしろ、どう思われていようとこんなお方に話しかけてもらえて、心のどこかで喜んでいる自分さえいる。

「たいそう腕前には自信があるでしょうに、そんな簡単な任務を受けるのねえ。こっちの大型モンスター撃退任務なんてどうかしら? それとも勇者様には簡単すぎるのかしらね、ふふ」

 笑い方も上品に、口元に手を添えている。動きのひとつひとつが艶(あで)やかだ。なにか皮肉を言われているようだったが、緊張してしまって、全く頭に入ってこなかった。

「エイトなにボーっとしてるワヌか? なんか言い返してやるワヌ」

「あ、ああ。えっと、失礼します」

 俺は受付の女性とローグに一礼して、逃げるようにその場を離れる。
 フォッシャはなにか不満げな表情だったが、すぐにあとからついてきた。

-----

 表通りを歩いていると、フォッシャがとつぜんつぶやいた。

「なんかだれかに後をつけられてるような感じがするんワヌよねえ」

 そう言われて後ろに目をやるが、だれかがこちらを見ている気配はない。

「そうか? 俺は気づかなかったな……」

「オドの感じでわかるんだワヌ」

 またそれか。その感じとやらがどこまで正確なのか、試してみるいい機会かもしれない、と俺は思いつく。

「一応調べてみるか」

 それから、芝生のある広場に俺たちはやってきた。
 ベンチに腰かけ、花や自然の木々が風にゆらぐのを眺める。

 ここなら視界も開けていて、だれかがこちらを見ればすぐにわかる。

「やっぱり、ついてきてるか?」

「もしかしたら、一回戦のエイトの戦いぶりをみたファンかも」

「ファンん~?」

「話しかけるタイミングを伺ってるんじゃないワヌか?」

「用があるならさっさと来ればいいのに」

「さいきんフォッシャたち仕事してばかりだから、遠慮してるのかも」

「じゃあ、ヒマそうにすればいいんだな」

「あ~やることないな~。女の子が話しかけにでもきてくれないかな~」
 ちら。とあたりに目をやるが、子供たち方が広場で遊んでいるだけで、特に変化はない。
 こないじゃねえか!

 なんか自分で言っててかなしくなったわ。

「なら、室内にいってみるか。そこでなら、向こうをおびきだせるかも」


-----


 今度はカードショップに来た。
 ここにくると、なんだか落ち着くな。俺の元いたところのカードショップと同じ雰囲気だからだろうか。

 ここの店の常連ってわけでもないのに、懐かしい、とさえ思えてくる。

 奥の対戦コーナーで、隅のテーブルについている女の子がこちらを見ているのがわかった。
 俺と目が合うと、あわてるかのようにすぐに目線を逸らした。フォッシャが珍しかったのだろうか。

「……あ。君、たしか……」

 帽子に覚えがある。この子、何度か会ったことがある気がする。

 俺のつぶやきに気づくと、女の子はあわあわとしだして、「自然に、自然に……」となにか独り言をいいだした。

「あ、あの!」

 少女がいきなり立ち上がって大声をだすので、まわりで対戦している人たちまでその音に驚いて注目した。

 少女はそれに気づいて、しゅんとおとなしくなる。

「え……えっと、ばーさす、しますか……」

 帽子のつばをおさえて、顔を隠す。俺に言っているのは、たぶん間違いない。

「あ、いや……」

「す、スオウザカエイト選手」

「しってるのか。俺のこと」

「し、知ってます。エンシェントの試合、見ていました。冒険士の方……ですよね」

「冒険士って言っても、駆け出しだけどね」

 俺は自分たちがだれかに尾行されているかもしれないということを忘れて、女の子のいる席に歩み寄る。
 なにげなく言った言葉に、意外にも女の子は反応を示した。

「じゃ、じゃあ……その、私、もしよかったら……」

 とそこに、やたらと明るく大きな声が割って入ってきた。

「ありりゃ~!? いつぞやのカード少年くんじゃん! またきてくれたんだ! あり? ハイロちゃんとおともだち?」

「……こんにちは」

 とりあえず、俺は挨拶をする。誰というまでもないだろう、あのギャルの店員さんだ。
 ハイロというのが俺の前にいる女の子の名前なのか。そのハイロがなにかいいかけてたのに、店員さんはタイミングが悪い。

「よく俺のこと覚えてましたね」

「そりゃね! 男の子のカードゲーマーってめずらしいし!」

 ……なんだって?
 なにげなく発された店員さんの言葉に、耳をうたがう。
 男の子のカードゲーマーが、めずらしい? 本当にそう言ったのか。

「チミは見所がある! このカードなんてどう? オススメだよ! いまなら安くしておくよ~それともこっちの初心者用スターターデッキがいいカナ!?」

「え、えっと……」

 嵐のようなセールスに、俺はたじたじになってしまう。
 ていうかスターターデッキって単語聞くの、何年ぶりだよ。

 するとハイロが、真剣な目つきでギャル店員さんの持つカードをじっと見つめた。
「……魔法カード『背水の陣』ですね。オドコスト3、レアリティはR(レア)。プレイヤーのオドライフが少ないほど味方のウォリアーカードを強化する」

 ハイロの口から、すらすらとカード解説の言葉がでてくる。この人、かなり詳しいんだな。

「そちらのスターターデッキにはレアリティPR、アビリティステータスポイント1300の『慈愛の死神』が一枚入っていて……」

 ハッと我に返ったのか、ハイロは途中で解説を止める。

「す、すみません悪いクセが……!」

「おお~」

 店員さんも感嘆の声をあげる。

 別に恥ずかしがらないでもいいのに、ハイロはしょぼんと縮こまってしまったので、俺はフォローをいれる。

「いや、わかりやすい解説だったよ」

 タイミングよく、店員さんは話を変えてきた。

「てか押し売りウザかったよねゴメンゴメン。ついはりきっちゃってさ~。あ、そういえばチミ冒険士なんだっけ。じゃあハイロっちとは冒険士つながりなんだね!」

「え? そうなの?」

「あり? ちがうの? ハイロちゃんも冒険士だよ」

 なにかに気づいたのか、あっと店員さんは声をだす。

「じゃあカードゲーマー同士仲間になっちゃえばいいじゃん! ナイスぁいでぁじゃねこれ!?」

 む、無理やりだな。さすがにいきなりそんなこと言われても、ハイロも困るだろうに。

 しかし、予想外にもハイロはこの話にのってきた。

「私なんかでよければ……ぜひ」

「って、いいの!?」

「お手伝いできることもあると思います。いちおう、私も冒険士なので」

「それって、仕事の仲間になってくれるってこと?」

「は、はい」

「本当に? そりゃたすかるな!」

「あーあいいトコなのにお呼ばれしちゃったよ。カード少年、たくさんかせいでたくさんカード買っちゃってよね! しくよろ~」

 彼女がいなくなると嵐が去ったかのように、静けさがもどった。

「なんなんだ……あの人は」

「あかるくて、おもしろい方ですよね」

「おもしろいっていうか……珍しいタイプの、カードショップ店員さんだと思うな。珍しいっていうか……すごく……珍しい」

 ていうかあんなカードショップ店員はじめて見たわ!

「そうかもしれませんね」

 なにかウケたのか、ふふ、とハイロは笑う。

「そういえばハイロさん、精霊杯の会場にいたよね。カード好きなの?」

「は、はい。デザインが好きなんです。かわいいし、かっこいいし……対戦するのも楽しくて。あ、あの、私のこと覚えててくれたんですね」

 ま、そりゃ覚えてるわな。俺って元の世界じゃ、ぜんぜん女の子と接点なかったから、ちょっと顔見ただけでも覚えちゃうんだよな。

「じゃあ、カードのこととか色々教えてもらってもいいかな。俺、戦闘とかも自己流だからさ」

「は、はい! 私でよければ……」

「俺はスオウザカエイト。って知ってるんだったか。まあよろしくな」

「よろしくお願いします、エイトさん」

「フォッシャにも挨拶してやってくれ」

「その子がフォッシャ……ちゃんですか? かわいいなぁ」

 ハイロは俺の膝元にのっていたフォッシャをのぞきこむ。
 ひょこっとフォッシャは顔をつきだして、

「よろしくワヌ!」

「しゃ、喋った!?」

 驚くハイロ。やっぱりそういう反応なのかという感じだ。

「いいよな、フォッシャ」

「もちろんワヌ! かわいい女の子大好きワヌ!」


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

魔石物語 - 魔石ガチャとモンスター娘のハーレムパーティーで成り上がり -

花京院 光
ファンタジー
十五歳で成人を迎え、冒険者登録をするために魔法都市ヘルゲンに来たギルベルトは、古ぼけたマジックアイテムの専門店で『魔石ガチャ』と出会った。 魔石はモンスターが体内に魔力の結晶。魔石ガチャは魔石を投入してレバーを回すと、強力なマジックアイテムを作り出す不思議な力を持っていた。 モンスターを討伐して魔石を集めながら、ガチャの力でマジックアイテムを入手し、冒険者として成り上がる物語です。 モンスター娘とのハーレムライフ、マジックアイテム無双要素を含みます。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始め

イニシ原
ファンタジー
ダークスローライフで癒しに耐えろ。 孤独になった勇者。 人と出会わないことで進む時間がスローになるのがダークスローライフ。 ベストな組み合わせだった。 たまに来る行商人が、唯一の接点だった。 言葉は少なく、距離はここちよかった。 でも、ある日、虹の種で作ったお茶を飲んだ。 それが、すべての始まりだった。 若者が来た。 食料を抱えて、笑顔で扉を叩く。 断っても、また来る。 石を渡せば帰るが、次はもっと持ってくる。 優しさは、静けさを壊す。 逃げても、追いつかれる。 それでも、ほんの少しだけ、 誰かと生きたいと思ってしまう。 これは、癒しに耐える者の物語。 *** 登場人物の紹介 ■ アセル 元勇者。年齢は40に近いが、見た目は16歳。森の奥でひとり暮らしている。 ■ アーサー 初老の男性。アセルが唯一接点を持つ人物。たまに森を訪れる。 ■ トリス 若者。20代前半。アーサー行方不明後、食料を抱えて森の家を訪れる。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...