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ラジトバウム編
20話 なつかしい響き
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ひと段落ついてから、俺たちはお互いのことを話し始めた。
「二人はどうして冒険士に?」
とハイロが聞いてきた。
「そりゃまあ……平たく言えば、生活のためだな。俺はもっと楽な生活がしたい。で、フォッシャは……あるカードを探してる。お互いカネが必要だから、協力してるんだ」
「あるカード、とは?」
「世にも恐ろしい、国一つ滅ぼしかねない、超危険なカードワヌ。はやく回収しないとえらいことになるワヌ」
「そんなカードが……!? それは大変ですね、早く見つかるよう、私も協力します」
「ま、なんとなくすぐ見つかるような気がするから、大丈夫ワヌ」
「なんなんだその自信?」
「でもエイト、最近フォッシャたちは働きすぎワヌよ。ちょっとは息抜きしたほうがいいワヌ。せっかくハイロが仲間になったんだから、今日くらいはおやすみするワヌ」
「……そうか? ……ま、フォッシャがそう言うなら」
クエストを仮受注した状態だったのだが、フォッシャの言うことも一理ある。
俺は冒険士カードからクエスト中断の手続きをする。
「じゃあせっかくカードショップにいるんだし、カードのことを教えてくれないか? ハイロ」
「えっと……では、なにから教えましょうか」
「全部教えてくれ」
「全部って……ぜ、全部ですか?」
「ああ。基本的なルールを、1から100まで。何も知らないんだ、俺」
「えっと……カードの種類とか、手札の枚数とか、そういうのもなにも……?」
「ああ、知らない」
「つまり……まるっきり初心者ってことですか?」
「そういうことだな」
ハイロは口をポカンとあけて、目をぱちぱちとまばたきし、声を荒げて、
「な、なに言ってるんですか!?」
「なにって、なにが?」
「だ、だって! え、エンシェントの試合はどうしてたんですか!?」
「見よう見まねでやったんだよ。他の試合見てさ」
「……み……」
「運がよかったんだよ、運が。ただのまぐれさ。運といえば、先生が見つかってラッキーだったよ。ヴァーサスのことはフォッシャも詳しくないしな」
ハイロは俺の言っていることが信じられないといった風だった。
だがカードゲーマーというのは、他のジャンルのカードゲームにうつってもある程度すぐに順応できるものだ。
まだどこか納得いかなげだったが、ハイロもそのうち気を取り直して、説明をはじめてくれた。
「わかりました。とにかくじゃあ、基礎から。えっと、まず……予選でやった形式はエンシェント式です」
「エンシェント式……」
古代式、というような意味か。
「はい。ああやってプレイヤーも一緒になってたたかう、昔からある由緒正しいやり方です。予選では時間短縮のため、3on3、ウォリアー二枚にトリック二枚で戦うルールでした」
「ふむふむ」
「それで、例えばこういうカードショップでやっているのは、通常のボードヴァーサス。こちらはデッキを組んで、もっと多くのカードを扱うことになります」
「それだよ……! それを待ってたんだよ!」
とつぜん大声をだして机を叩いた俺に、居眠りをこいていたフォッシャを起こしてしまった。
「へ?」
とハイロも困惑している。
「俺はこっちの方が好きだな。危なくないし」
そうカードゲームだ。これこそカードゲームだよ。
エンシェントはどっちかっていうと格闘技とか、いや格闘技ではないんだけど危なさでいったらそっち方面の競技だよ。
「そ、そうですか。ですがカードへの敬意やオドに捧ぐ儀式としては、やはりエンシェントの方がより大事ですし、人気も……」
「いやオドの儀式とかはあんま興味ないからいいっすわ……」
「よくないワヌよ! そっちの方が大事なんだワヌ」
あくびしながらフォッシャは言う。
「えっと……フォッシャちゃんの言う通りです。カードはもちろん遊びとしてもできますが、カードとオドへの敬意はなにより大切なことです」
「はいはいオドオド。カードへの敬意ね? それなら大丈夫っす」
「エイトはな~んかオドを軽く見てるとこがあるワヌ」
「わかりましたよ……オド様様」
「で、では、さっそくゲームをやってみましょうか。やりながら、ルールについて解説します」
「あー……ごめん、俺カードぜんぜん持ってないんだ。フォッシャのとあわせても、20枚ちょっとしかなくて……」
とはいえそれでも仕事で拾ったり、時々カードショップで買ったりして、以前よりかは増えている。
「そうなんですか? でしたら……」
ハイロは鞄をゴソゴソと漁ると、カードホルダーを取り出した。
彼女がホルダーをさわってなにか操作をすると、机のうえにデッキが出現した。
「練習用のデッキがあるので、お貸ししますよ。私も2軍デッキでやるので、力のバランスも取れるはずです」
「おお……! 二軍デッキ! 三軍デッキ! なんてなつかしい響きか……!」
おもわず涙が出そうになってしまった。目頭をおさえる俺を、ハイロとフォッシャが訝(いぶか)しげに見ている。
ハイロが一礼して「よろしくお願いします」と試合前の挨拶をしてきたので、俺も同じように返す。
ルールや簡単なプレイング方法を教えてもらいながら、実際にゲームを行っていく。
ハイロの説明はわかりやすく、俺の質問にも的確に答えてくれる。
かなりの熟練者なのだろう。さっき初めて会ったときは自信なさげでオロオロしていたのに、カードゲームとなると目つきがかわり丁寧に解説してくれた。
「……と、これでダイレクトアタックが成立するので、私のオドライフが1削れるわけです」
「なるほど……ハイロは教え方うまいな!」
「エイトさんの飲み込みが早いんですよ」
「ハイロは俺の師匠だな、カードの師匠」
「し、師匠だなんて……!」
ハイロは照れて、手札で顔を隠す。
なんだろう。このなんともいえないあたたかい気持ちは。というか、こんなに長い時間女の子と話したことが、かつてあったかなぁ。
いかん、また涙腺がゆるんできてしまう。今日はやっぱりフォッシャの言うとおりなんだか疲れてたのかもしれない。
「あ、あの、私だいぶ熱が入って、堅苦しい指導になってしまいましたよね。すみません……」
「いや全然良かったよ」
「カードのことになるといつも我を忘れて話してしまうんです。それで周りから浮いてしまって……気をつけてはいるんですが」
「他の人がどう思うかはしらないけど、俺はむしろ嬉しいね」
「えっ……そんな……ウザかったですよね……?」
「そんなことない。だって、俺もそうだから。さっきのハイロ、すごく楽しそうで、カードが好きだってことがよくわかる。尊敬するよ」
俺もハイロの立場だったら、指導に熱が入っちゃっただろうな。
「……あ、ありがとう……ございます……」
俺たちは時間を忘れ、フォッシャも気持ちよさそうに寝ているのですぐにもういちど対戦することにした。
さすがに重いので、椅子をもうひとつ持ってきて、フォッシャにはそこで寝てもらっている。ギャルの店員さんが座布団を持ってきてくれて、寝心地がよさそうだ。
同じくまた礼から、対戦をはじめる。
こうしてカードショップでカードをさわっていると、ふだんの大変さや、こっちにきてからの苦労も忘れて、ただこの時間を純粋にたのしめる。
元いた世界となにも変わらないような感覚だ。
そう考えると、なんだか安心して気分が良くなり、自然と笑みがこぼれてしまう。
そういえば女の子とカードゲームするのって、はじめてだな。
ちょっとやりづらいというか、緊張しちゃうな。なにせ俺がもといた世界じゃ、カードゲームプレイヤーの多くは男だったし。
カードをさわってる手や指が綺麗だ。なんかプニプニしてそうでかわいいな……
い、いかん! 何を見とれてるんだ俺は!? バカか!? 試合に集中しろ!
――心頭滅却、心頭滅却!!
もといた世界じゃ、筋骨隆々のマッチョマンからギャングみたいな派手な見た目のやつ、殺し屋みたいな風貌のやつらと、本気の勝負でしのぎを削りあってきたんだ。
――誰が相手だろうと、心を惑わされるな!
そして対戦相手への敬意も忘れないようにしないと。
よし、大丈夫だ。俺はいつも通り戦える。
ハイロの高度なプレイングの択(たく)に、自分も感覚が研ぎ澄まされていき、ゲームに意識が集中していく。
ハイロが今だしたあの一見能力値の低い雑魚ウォリアーカードにも、なにかの狙いが隠されているのだろう。このヴァーサスというカードゲームを始め立ての俺では、何を狙っているのかまではわからない。
だがわかることもある。ハイロは強い。いや強いなんてもんじゃない。まちがいなく、かなりの手だれ。
これほどの猛者は俺が元いた世界にもそうはいなかった。
ちら、と俺はハイロの顔をみる。まばたき少なに考え込み、盤面に意識を集中しきっている。
局面の何手先までも考えているのだろう。
ゲームを通して、緊張した空気が伝わってくる。
------
けっきょく試合は長引いて、かなりの長丁場になってしまった。
どれだけの時間が経ったのだろうか。窓から外をみると夕暮れの日差しがさしており、店内の人も少なくなっていた。
「ごめん! ちょっと休憩! 休憩タイム! ……ハイロ?」
さすがに体力が切れ、俺は耐え切れずに一息ついた。今日は休みのはずだったのに、これでは仕事より疲れてしまう。
ハイロはまだ集中を保っているらしく、俺の呼びかけにかなり遅れて気づく。
「…………え? あ、すみません! 何か言いましたか?」
「ちょっと休憩しないか? 試合時間長すぎて、ちょっと腹減っちゃってさ……」
本音を言うと緊張疲れなんだけどな。
女の子とカードゲームしたことがなかったから、目のやり場に困ったりなんかいい匂いするしで、ペースを乱しまくって余計疲れてしまった。
ハイロはいったんこっちに気がついたものの、すぐに盤面に視線をもどし、意識をまたそちらに集中させていたようだった。俺の休もうという提案は、まったく聞こえていないらしい。
「……ハイロさーん? 聞いてるか? おーい」
「……え、エイトさん、ヴァーサスをはじめたのが最近って、本当ですか?」
切羽詰(せっぱつま)ったような真剣な表情でハイロは訊いてくる。
「まあ、そうだな」
「すごい……と、というか才能ありますよ! おもったとおりです。やっぱり一回戦勝てたのはまぐれじゃなかったんですよ!」
「ふーん……ま、でもあいつのおかげじゃね?」
俺はホルダーから審官のカードを呼び出し手に取る。
その後、俺たちはハイロを歓迎して、レストランにいきささやかな食事会をひらいた。
歓迎会なのでハイロのことをもっときけばよかったのだが、どうしても自然と冒険士の仕事において役立つ情報や、ヴァーサスのカードゲームにたいする知識の会話になってしまった。
そういった話にフォッシャは関心を示さずに、食事に集中してかなりの量をたいらげ、おかげでかなりの出費になってしまった。レストランで食事なんて、すこし前なら考えられなかったことだ。
「二人はどうして冒険士に?」
とハイロが聞いてきた。
「そりゃまあ……平たく言えば、生活のためだな。俺はもっと楽な生活がしたい。で、フォッシャは……あるカードを探してる。お互いカネが必要だから、協力してるんだ」
「あるカード、とは?」
「世にも恐ろしい、国一つ滅ぼしかねない、超危険なカードワヌ。はやく回収しないとえらいことになるワヌ」
「そんなカードが……!? それは大変ですね、早く見つかるよう、私も協力します」
「ま、なんとなくすぐ見つかるような気がするから、大丈夫ワヌ」
「なんなんだその自信?」
「でもエイト、最近フォッシャたちは働きすぎワヌよ。ちょっとは息抜きしたほうがいいワヌ。せっかくハイロが仲間になったんだから、今日くらいはおやすみするワヌ」
「……そうか? ……ま、フォッシャがそう言うなら」
クエストを仮受注した状態だったのだが、フォッシャの言うことも一理ある。
俺は冒険士カードからクエスト中断の手続きをする。
「じゃあせっかくカードショップにいるんだし、カードのことを教えてくれないか? ハイロ」
「えっと……では、なにから教えましょうか」
「全部教えてくれ」
「全部って……ぜ、全部ですか?」
「ああ。基本的なルールを、1から100まで。何も知らないんだ、俺」
「えっと……カードの種類とか、手札の枚数とか、そういうのもなにも……?」
「ああ、知らない」
「つまり……まるっきり初心者ってことですか?」
「そういうことだな」
ハイロは口をポカンとあけて、目をぱちぱちとまばたきし、声を荒げて、
「な、なに言ってるんですか!?」
「なにって、なにが?」
「だ、だって! え、エンシェントの試合はどうしてたんですか!?」
「見よう見まねでやったんだよ。他の試合見てさ」
「……み……」
「運がよかったんだよ、運が。ただのまぐれさ。運といえば、先生が見つかってラッキーだったよ。ヴァーサスのことはフォッシャも詳しくないしな」
ハイロは俺の言っていることが信じられないといった風だった。
だがカードゲーマーというのは、他のジャンルのカードゲームにうつってもある程度すぐに順応できるものだ。
まだどこか納得いかなげだったが、ハイロもそのうち気を取り直して、説明をはじめてくれた。
「わかりました。とにかくじゃあ、基礎から。えっと、まず……予選でやった形式はエンシェント式です」
「エンシェント式……」
古代式、というような意味か。
「はい。ああやってプレイヤーも一緒になってたたかう、昔からある由緒正しいやり方です。予選では時間短縮のため、3on3、ウォリアー二枚にトリック二枚で戦うルールでした」
「ふむふむ」
「それで、例えばこういうカードショップでやっているのは、通常のボードヴァーサス。こちらはデッキを組んで、もっと多くのカードを扱うことになります」
「それだよ……! それを待ってたんだよ!」
とつぜん大声をだして机を叩いた俺に、居眠りをこいていたフォッシャを起こしてしまった。
「へ?」
とハイロも困惑している。
「俺はこっちの方が好きだな。危なくないし」
そうカードゲームだ。これこそカードゲームだよ。
エンシェントはどっちかっていうと格闘技とか、いや格闘技ではないんだけど危なさでいったらそっち方面の競技だよ。
「そ、そうですか。ですがカードへの敬意やオドに捧ぐ儀式としては、やはりエンシェントの方がより大事ですし、人気も……」
「いやオドの儀式とかはあんま興味ないからいいっすわ……」
「よくないワヌよ! そっちの方が大事なんだワヌ」
あくびしながらフォッシャは言う。
「えっと……フォッシャちゃんの言う通りです。カードはもちろん遊びとしてもできますが、カードとオドへの敬意はなにより大切なことです」
「はいはいオドオド。カードへの敬意ね? それなら大丈夫っす」
「エイトはな~んかオドを軽く見てるとこがあるワヌ」
「わかりましたよ……オド様様」
「で、では、さっそくゲームをやってみましょうか。やりながら、ルールについて解説します」
「あー……ごめん、俺カードぜんぜん持ってないんだ。フォッシャのとあわせても、20枚ちょっとしかなくて……」
とはいえそれでも仕事で拾ったり、時々カードショップで買ったりして、以前よりかは増えている。
「そうなんですか? でしたら……」
ハイロは鞄をゴソゴソと漁ると、カードホルダーを取り出した。
彼女がホルダーをさわってなにか操作をすると、机のうえにデッキが出現した。
「練習用のデッキがあるので、お貸ししますよ。私も2軍デッキでやるので、力のバランスも取れるはずです」
「おお……! 二軍デッキ! 三軍デッキ! なんてなつかしい響きか……!」
おもわず涙が出そうになってしまった。目頭をおさえる俺を、ハイロとフォッシャが訝(いぶか)しげに見ている。
ハイロが一礼して「よろしくお願いします」と試合前の挨拶をしてきたので、俺も同じように返す。
ルールや簡単なプレイング方法を教えてもらいながら、実際にゲームを行っていく。
ハイロの説明はわかりやすく、俺の質問にも的確に答えてくれる。
かなりの熟練者なのだろう。さっき初めて会ったときは自信なさげでオロオロしていたのに、カードゲームとなると目つきがかわり丁寧に解説してくれた。
「……と、これでダイレクトアタックが成立するので、私のオドライフが1削れるわけです」
「なるほど……ハイロは教え方うまいな!」
「エイトさんの飲み込みが早いんですよ」
「ハイロは俺の師匠だな、カードの師匠」
「し、師匠だなんて……!」
ハイロは照れて、手札で顔を隠す。
なんだろう。このなんともいえないあたたかい気持ちは。というか、こんなに長い時間女の子と話したことが、かつてあったかなぁ。
いかん、また涙腺がゆるんできてしまう。今日はやっぱりフォッシャの言うとおりなんだか疲れてたのかもしれない。
「あ、あの、私だいぶ熱が入って、堅苦しい指導になってしまいましたよね。すみません……」
「いや全然良かったよ」
「カードのことになるといつも我を忘れて話してしまうんです。それで周りから浮いてしまって……気をつけてはいるんですが」
「他の人がどう思うかはしらないけど、俺はむしろ嬉しいね」
「えっ……そんな……ウザかったですよね……?」
「そんなことない。だって、俺もそうだから。さっきのハイロ、すごく楽しそうで、カードが好きだってことがよくわかる。尊敬するよ」
俺もハイロの立場だったら、指導に熱が入っちゃっただろうな。
「……あ、ありがとう……ございます……」
俺たちは時間を忘れ、フォッシャも気持ちよさそうに寝ているのですぐにもういちど対戦することにした。
さすがに重いので、椅子をもうひとつ持ってきて、フォッシャにはそこで寝てもらっている。ギャルの店員さんが座布団を持ってきてくれて、寝心地がよさそうだ。
同じくまた礼から、対戦をはじめる。
こうしてカードショップでカードをさわっていると、ふだんの大変さや、こっちにきてからの苦労も忘れて、ただこの時間を純粋にたのしめる。
元いた世界となにも変わらないような感覚だ。
そう考えると、なんだか安心して気分が良くなり、自然と笑みがこぼれてしまう。
そういえば女の子とカードゲームするのって、はじめてだな。
ちょっとやりづらいというか、緊張しちゃうな。なにせ俺がもといた世界じゃ、カードゲームプレイヤーの多くは男だったし。
カードをさわってる手や指が綺麗だ。なんかプニプニしてそうでかわいいな……
い、いかん! 何を見とれてるんだ俺は!? バカか!? 試合に集中しろ!
――心頭滅却、心頭滅却!!
もといた世界じゃ、筋骨隆々のマッチョマンからギャングみたいな派手な見た目のやつ、殺し屋みたいな風貌のやつらと、本気の勝負でしのぎを削りあってきたんだ。
――誰が相手だろうと、心を惑わされるな!
そして対戦相手への敬意も忘れないようにしないと。
よし、大丈夫だ。俺はいつも通り戦える。
ハイロの高度なプレイングの択(たく)に、自分も感覚が研ぎ澄まされていき、ゲームに意識が集中していく。
ハイロが今だしたあの一見能力値の低い雑魚ウォリアーカードにも、なにかの狙いが隠されているのだろう。このヴァーサスというカードゲームを始め立ての俺では、何を狙っているのかまではわからない。
だがわかることもある。ハイロは強い。いや強いなんてもんじゃない。まちがいなく、かなりの手だれ。
これほどの猛者は俺が元いた世界にもそうはいなかった。
ちら、と俺はハイロの顔をみる。まばたき少なに考え込み、盤面に意識を集中しきっている。
局面の何手先までも考えているのだろう。
ゲームを通して、緊張した空気が伝わってくる。
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けっきょく試合は長引いて、かなりの長丁場になってしまった。
どれだけの時間が経ったのだろうか。窓から外をみると夕暮れの日差しがさしており、店内の人も少なくなっていた。
「ごめん! ちょっと休憩! 休憩タイム! ……ハイロ?」
さすがに体力が切れ、俺は耐え切れずに一息ついた。今日は休みのはずだったのに、これでは仕事より疲れてしまう。
ハイロはまだ集中を保っているらしく、俺の呼びかけにかなり遅れて気づく。
「…………え? あ、すみません! 何か言いましたか?」
「ちょっと休憩しないか? 試合時間長すぎて、ちょっと腹減っちゃってさ……」
本音を言うと緊張疲れなんだけどな。
女の子とカードゲームしたことがなかったから、目のやり場に困ったりなんかいい匂いするしで、ペースを乱しまくって余計疲れてしまった。
ハイロはいったんこっちに気がついたものの、すぐに盤面に視線をもどし、意識をまたそちらに集中させていたようだった。俺の休もうという提案は、まったく聞こえていないらしい。
「……ハイロさーん? 聞いてるか? おーい」
「……え、エイトさん、ヴァーサスをはじめたのが最近って、本当ですか?」
切羽詰(せっぱつま)ったような真剣な表情でハイロは訊いてくる。
「まあ、そうだな」
「すごい……と、というか才能ありますよ! おもったとおりです。やっぱり一回戦勝てたのはまぐれじゃなかったんですよ!」
「ふーん……ま、でもあいつのおかげじゃね?」
俺はホルダーから審官のカードを呼び出し手に取る。
その後、俺たちはハイロを歓迎して、レストランにいきささやかな食事会をひらいた。
歓迎会なのでハイロのことをもっときけばよかったのだが、どうしても自然と冒険士の仕事において役立つ情報や、ヴァーサスのカードゲームにたいする知識の会話になってしまった。
そういった話にフォッシャは関心を示さずに、食事に集中してかなりの量をたいらげ、おかげでかなりの出費になってしまった。レストランで食事なんて、すこし前なら考えられなかったことだ。
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