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ラジトバウム編
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しおりを挟む所用を済ませてから、ハイロのいる宿へと着く。
と言っても、俺たちの泊まっている宿とおなじで、しかも隣の部屋だ。俺たちとパーティを組んでから、すぐに引っ越してきた。
だがここ最近は忙しかったのもあって、入り口まで寄ったことはあるがまだ部屋の中に入ったことはない。
ノックをすると、ハイロが扉の隙間からぴょこと顔をだして、意外そうな顔をする。
「エイトさん! どうしたんですか?」
「えっと……は、ハイロにプレゼントがあるんだ。お、お世話になってるお、お礼にと、おもって」
俺は目を合わせられず、口ごもりながらに言う。
なんでこんなかっこわるい挨拶になってしまうんだろうなぁ。女性経験の乏しさがモロにでてしまっている。
「えっ。そ、そんな……」
ハイロは嬉しさ半分、戸惑い半分だという表情になる。
落ち着け俺。ちゃんと選んだんだから自信をもて。
「開けてみてよ」
「う、嬉しいです。すごく……ありがとうございます」
俺から受け取った赤いリボンに白い箱というベタベタなデザインのプレゼントを、ハイロがその場で開封する。
「これは……! カードパック箱買(はこが)い2点セット!」
「迷ったんだけど、これをもらって喜ばないカードゲーマーはいないかなぁ、とおもって……」
「ハ、ハハ……」
「あ、あれ。ほかのパックのほうがよかったかな」
「い、いえいえ! すごく嬉しいです! 開けちゃうのがもったいないくらいです……大切にします。ありがとうございます、エイトさん」
一瞬微妙そうな表情になったように思えたけど、よろこんでくれたみたいだ。
女の子にプレゼントって言われてもどうしたらいいかぜんぜんわからないからな。ハイロはカードゲーマーだから、助かった。
「あの。今日はこのあとご予定はありますか?」
「いや……特にはないかな。今日はフォッシャと見回りをしてたんだけど、はぐれちゃったみたいでさ」
いつの間にかフォッシャのやつ、姿を消していた。
「それは心配ですね……連絡はしてないんですか?」
「いやあいつのことだしどっかほっつき歩いてるんだろ。いつものことだからいいよ」
「そうですか……。じゃあすこしうちで、一休みしていかれたらいかがですか? いまちょうどパイがあるんです」
「い、いいの?」
実のところ、朝から街を歩き回っていて少し疲れている。
「はい。あまり片付いてませんが……。どうぞ休んでいってください」
すごいぞ。女の子の部屋か……。
なんだか冒険士になって初めてよかったと思えたよ。
ハイロの部屋は物が少なくかたづいていた。仮住まいなのだから荷物がないのは当たりまえだが、綺麗で掃除が行きとどいている。
「武器の手入れをしてたの?」
作業机に武器が置いてある。
「はい。ちょうど終わったところなんです。お茶をいれるので、すこし待っていてください。お手洗いはあちらです」
「ありがとう」
ハイロはとても優しいいい子だなぁ。
手を洗って座るまえに、奥の部屋のポスターが目についた。気になったので、目をこらしてみる。
おお、あれはあの有名なレアカード『戦場の剣乙女<ヴァルキュリア・バトルフィールド>』を模したポスターか。見る目があるな。
良く見るとその部屋の棚にも面白そうなものがある。
だれか人が描かれた絵。なんだか俺の姿にも似ているような気がする。ていうか格好も似ているような……遠目ではよくわからない。
布製のナイフが刺さった恐竜のようなモンスターのぬいぐるみ。……どういう趣味なんだ。
あまり女の子の部屋をじろじろ見るのはよくないか。こういうところがダメだな俺は。
席に座って休んでいるとハイロがもどってきて、お茶とパイを差し出してくれる。
「ラジトバウム茶だそうです」
「ありがとう。いただきます」
ハイロも向かいに座って、ズズとお茶を飲む。
俺はナイフとフォークでパイをおいしくいただき、ラジトバウム茶やらも堪能する。
「味はどうですか?」
「すごいおいしいよ」
「よかったぁ……」
本当においしい。お茶もうまくて、なんだかホッとする。
「この間は、ローグさんとたまたま会って、カードのことで会話がはずんだんです。ちょっと話しただけでも、勉強になりました」
「……そうなんだ」
「……フォッシャちゃんやエイトさんのことは、聞かれていませんし、なにも話していませんよ。安心してください」
「……そうか」
ローグのほうからも、聞かなかったのか。俺たちのことは、少なくとも危険分子ではないと判断してもらえたのだろうか。
それにしても……
「あ、あのさ。あまり見られると、食べづらいよ。気が散っちゃって……」
「ダメです。私のことは気にせず召し上がってください」
なにがおもしろいのか、ニコニコと微笑みながらハイロはこちらの様子をながめている。
「プレゼント、とても嬉しかったです……」
そう言ってハイロはすっと立ち上がって、作業机から鎖とナイフを手に取りこちらに向かってつきだしてきた。
「エイトさんがもっと私の力をみてくれるように、がんばります……!」
意気込むその姿はかわいらしくもあるのだが、さすがに食事中に刃物を出されると喉が詰まる。
「そ、そう……。ハイロのすごさは充分伝わってるよ。ナイフを向けないでくれ」
「あ! すみません……!」
「それって二つともウェポンカードなんだよな。鎖ってのはけっこうおもしろいアイデアだな」
「いえ、まだまだ使いこなせてなくて……」
いつものようにカードのことも語り合いたいけど、今は他にも気になることがある。
「……なあ。話は変わるけど、あの黒い影……ハイロはどう思う?」
「黒い影……うーん、一時期冒険士ギルドでも話題になりましたけど、いまはあまり危険性がないことがわかったのもあって膠着(こうちゃく)状態ですよね」
「……ついこのまえ、俺とフォッシャは、あいつらに襲われたんだ」
「おそわれた? ほんとうですか」
ハイロの表情が曇ったのと同様に、俺もなにか嫌な予感がする。
「……切り上げるつもりだったけど、今日はやっぱり、もうちょっと調査を続けてみようかな」
「……そうですね。……私も、ご一緒します!」
-----
俺とフォッシャの泊まっている部屋にもどったが、誰もいなかった。
「おーい」
「気配がありませんね……」
「どこほっつきあるいてるんだろうな」
フォッシャも冒険士カードを持ってるはずだ。俺はカードを操作して、耳にあてる。一見アホっぽい仕草だが、大真面目な話だ。
しかし、連絡がつかない。
胸騒ぎとともに、窓からさしこむ光が青ともオレンジともつかない奇妙な色に変わった。
外に目をやると山のほうで、まさに今爆発がおきるのがみえた。不気味な低音が響くとともに、遅れてやってきた衝撃波が窓ガラスを粉砕する。
突然のことに、俺たちは混乱する。
玄関にいたため窓ガラスの破片の影響を受けることはなかったが、俺とハイロはすぐに窓際に駆け寄った。
まだ爆発が放ったと思われる光が空中にとどまったまま、消えていない。
俺たちは宿をあとにし、通りに出た。街の雑音も強まり、不穏な雰囲気が蔓延している。
「いったいなにが起きてる? すごい騒ぎだ」
「わかりません……嫌な予感がします」
「少なくとも手札事故ってレベルじゃなさそうだな」
「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ。情報収集しましょう。フォッシャちゃんも心配です」
俺はへいへいと呆れつつ、ハイロのあとについていく。
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