傷だらけの餃子と白いにょ~ん

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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永遠のキス

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夫餃子が若い新入り餃子を付きっきりで面倒見ているうちに、その新入りを「可愛い」と思い始めた。

その気持ちは妻餃子にも伝わる。

「仕事だから仕方ないんだよ」と、笑顔で答える夫は、出社するときもウキウキと態度に出るようになった。

怪しいと思い始めたときに、事件は起きた。

夫が、仕事帰りの道端で、顔を削ぎ落とされた状態で見つかった。その顔は犯人によって持ち去られたと見るのが妥当だろう。

妻は戦いて嘆いた。

死体は解剖されて他に外傷なし、顔面は頭頂から喉と首の境目辺りまでをすっぱりと切り落とされていることから、顔だけが目的だったらしい。凶器は判明せず。

棺桶には顔なしの遺体が納められて、その前で妻は泣き崩れていた。


「誰がこんなことを……酷すぎるっ」


犯人にも同じ結果が訪れれば良いと思った。

その時だ。

コトリ……と音がして妻以外には人影のない部屋に、白いだけの影がにょ~っと入ってきた。餃子にしては長すぎる白いローブに、にょるにょると背の高くて男女の判別がつかないにゅにゅり顔。


「こんばんわ」


ひんやりする声だ。


「あ……ど、どうも」


悲しみにくれていながらも、つい普段通りに、いらっしゃいませと出るところだった、と胸を撫でた。


「あなたは、旦那さんの浮気をご存知でしたか」


白いローブは彼女の前で立ち止まり、にょ~っと上から見下ろす。


「えっ」


身を屈めて顔を覗き込もうとする。


「ご存知でしたね。旦那さんはその罰を受けたのです」


思わず顔を反らす。白いローブの裾が赤い。その赤い染みが血液だと気づくのに時間はかからない。


その染みが目の前に広がって、赤黒く闇の色に似てくる。何を言われたのかしばらくはわからなかった。


「ば、罰ですって。それは殺したってことですかっ、あなたがっ」


やっと聞き返してにっこりと微笑みで返された。


「何故っ、何故なんですかっ」

「ですから、浮気ですよ。あなたの旦那さん、浮気者ですねぇ。会社で若い女性とキスしたんですよぉ。汚らわしいぃ」

「そんなっ……そんなことで殺されなければならないのっ」

「あははは。それ聞くの。あなたにとってとれは『そんなこと』で済まされるものなのですかぁ」

「あなたは私の夫とどんな関係ですか。なんの権利があって」

「あのぉ、関係や権利とかって何でしょう。何の意味があるのですか。あなたは何に納得したいのですか。私に何らかの関係や権利があれば、旦那さんが殺されてもあなたは納得できるのですかぁ。何らかの関係や権利があれば、誰がやっても良いのですかぁ。それとも、旦那さんの死や浮気よりも私に関心があるのですかぁ。あなた方、ギョーザの考えは陳腐ですね」

「ど、動機を教えてよっ」

「私の質問の意味がわからなければわからないで、答えなくても良いんですよ。私には他にも用事があるので失礼します」


にょ~っと部屋を出ていく白いローブのその手に何か赤黒いモノがぶら下がっている。

廊下を曲がる際に見えたのは、夫餃子の横顔だった。顔を持っていたのだ。



白いローブは、若い女性餃子の部屋に移動した。


「あなたは誰っ」

「これ、プレゼント。受け取ってくれるね」


切り落とした男餃子の顔をにょにょ~んと突き出す。


「あなた、この男、好きなんだよね。他人の旦那だと知りながらも」


にゅにょり顔を近づけた。


「キャーッ。なっ、何故こんな……ぎゃあっ。あーっ。ぎゃーっ。やめてーっ。ぎゃーっ」


恐怖の叫びが断続的に響く。


「ほら、キスしたらぁ」


煩く喚く桃色の口に男の顔をくっつけた。


「あなた、これ、好きなんだよね。キス……だからさ、持ってきてあげたんだよ。ねえ、余計なお世話だったかい」


女餃子は悶絶して答えない。


「ずっとキスしていたいのかな、ギョーザぁ。それなら君の顔も切り落としてあげようかぁ。そしてギョーザ同士ぃ包んであげようかぁ……」


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