傷だらけの餃子と白いにょ~ん

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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餃子は枠を意識する

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実家の庭で、影のようににょ~っと木陰に入っていく白いローブ姿の淡いものを見たときから、背筋に氷が入ったようなヒヤリとした感覚が抜けない。


『関係が何故必要なんですかぁ。関係って正当な理由になるのですかぁ。正当だと思える理由さえあればギョーザはご家族を殺されても納得するのですかぁ。許せるのですかぁ』


よくよく考えて腕組みになる。


関係とか理由があれば
許せるのか

どういう理由なら
納得できるのか

吐きそうになる

関係とはなにか
権利とはなにか
殺しが許される理由とはなにか

たとえば戦争
たとえば正当防衛
大義名分があれば良いのか

たとえば自分ならどうか
自分だけは別物か

他人なら許せなくても
自分は正義か

どうなんだ

たとえばこう言うとしたら

「私の親の家に忍び込む人の親は死ね」

この意味がわかるか
きっとこう言う

忍び込んだ犯人が
罰を受けるべきであって
犯人の親には関係ないと

でも餃子社会は
犯人家族対しても憂さ晴らしをして
違う答えを提示してきた

誰かに何かをされたからの結果だとしても
それを知らずにモノを言う

腹の中で思うのは自由だよ
全く自由なんだ
お互いに

でも、やっつけたいんだよね
腹の中で思うだけでなく
何やらの関係とか権利がなくても
気に入らないやつを
やっつけたいんだよね

だったらアイツは
餃子の真似をしているのか


白いローブは木陰で消えた。アイツには何を言っても通じない。確かに我々餃子は、精神とか社会的な立場で包まれたお肉。アイツはそのお肉が侵犯する様々な問題をネタにして命を脅かす生き物だからだ。

いや、アイツを生き物と言っても良いのか……腕組みしたままで頭を捻る。この世に存在しているのは確かだから良いのだろうと、考えることを終わりにする。

アイツを悪魔とか悪霊とかそういう類いの者だと思うことにすれば、見えることも不思議ではない。何故なら、悪霊の方でわざと姿を見せることもあるのだという。白いローブなんて本来の姿ではないだろう。いろんな姿で出てくるのだ。餃子をからかうために。

そうであれば、確かに何の関係も理由も白いローブには意味がない。餃子が求める理由なんて、アイツには重要ではない。

お前は
なんの関係があって
関わってくるのだ

白いローブは喜ぶだろう。

『枠があるんだけどさぁ、神の枠。それを見えている餃子は踏み越えないのだけれどねぇ。大概の餃子にはその踏み越えてはならない神の枠なんて見えてないんだよねぇ。そして思わず踏み越える。うっかりとか感情的になってとか理論負けとか。それに、大概の餃子はちょっと唆されたら簡単に踏み越えちゃうんだもんねぇ。餃子は不完全な生き物だからねぇ。後悔とか反省とかするのはそのせいなんだよ。
でもねぇ、枠を軽々と踏み越えて後悔も反省もせずに日常的に踏み越え続けるのは、存在する価値のない腐れ餃子だけなんだよねぇ。それにぃ、枠の見えていない餃子は踏み越えることを楽しむからさぁ』


枠が見えていないから
餃子は易々と踏み越えるのに
それを刈り取るのか
見えていても踏み越えるなら
やはり刈り取るのか


最早なんの関係だとか理由だとかどこに訴えるのだ。餃子の理論や論理は通用しないことが判明しているではないかと、木陰から項垂れ何も見ないように目を伏せて立ち去ることにした。

背筋の悪寒は続いている。ふと振り返って眼の端で木陰を見た。白いローブはいない。確認するために近づいてみたい誘惑に駆られたが、同時に恐怖も感じる。

そのまま庭から逃げよう。あれが住み着いている訳ではないにしても不吉だ。


白いローブは木陰から塀を通り抜けて、歩行者に憑依とりつくように後をつけて行く。アイツはいつもそういうことをやる。


たとえば、ガラスのように透明な生き物に気づく時が来たら、この惑星上には様々な姿で実に多くの見えない存在者がいるのだと理解できるに違いない。


餃子を超えた存在
人知を超えた存在
神として
崇められることもある存在

私はしがないお肉ではあるけれど
できれば神の教えに
包まれたお肉でありたい
神の枠を踏み越えないよう
心掛ける餃子でいたい

この世においては誰一人も
餃子でないものはいない

白いローブにとって誰一人も
餃子でないものはない



古代の聖なる餃子の国では、殺人犯は全てを捨てて「逃れの土地」に移り住む。家族ぐるみで引っ越すこともあったらしい。終身刑だ。

彼らはそれまでの全てを捨てて移り住むのだから、仕事や対人関係にも未練があったのかもしれない。「逃れの土地」から逃亡する犯人もいた。

だが、被害者家族も全てを捨てて「逃れの土地」付近に移り住む者たちがいたという。「逃れの土地」から逃げ出した犯人を殺すためだ。

何故なら、被害者家族には「血の復讐」が認められていたからだ。裁判所から復讐の権利が与えられ、復讐としての殺人は正当化された。



古代の法律だ。
現代の被害者家族は復讐の権利を与えられても、殺人の恐ろしさに耐えられるだろうか。

だから、アイツが出てきたのか。
枠を踏み越える餃子を探し……



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