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手は洗っても
しおりを挟むその男餃子は男子トイレで倒れていたという。話を聞いて真偽を確かめた。現場となったトイレの前に警察官が複数名いたことから、男が死んだことがわかった。
犯人は社内で長年つきあった彼女だと思う。と言うのも、彼女に知らせた時の表情が(それ知ってた )という顔つきだったからだ。
僕は驚いた。
「誰か、知らせた人がいたのか」
「ううん。今、初めて聞いた」
何事もないかのようにパソコンに向かう。
「あんまり驚いてないね。もしかして君がやったとか……」
「違うけど」
どんな犯人でも一応は否定するものだ。
「でも、知ってたんじゃないの。顔に書いてあるよ」
「勿論、知ってたよ。だって、あいつは死ぬべきだったんだもの」
あまりに平然と答えるものだから再び驚いた。
「あのさ、これから警察にも訊かれると思うんだけど、彼が死ななければならなかった理由を教えてくれるかな」
「そうね、何から話そうか。単純な理由だからさ。でも、あんたなら理解してくれるよね」
「何があったんだ」
「ねえ、あんたはトイレに行くと何をする」
「何をするって。先ずは大か小かでそういうことして、手を洗って、たまに髪の毛直して……」
「口は、口は濯がないの」
「えっ……何で……」
「だって、トイレ雑菌付くでしょ。あんたも濯がないの」
「そんなことは考えたこともない」
「そ、だったら死ね。あんたみたいな男がいるからキスで雑菌が付くのよ。まさかあんたの彼女もトイレ済ました後に手だけ洗ってそのまま出てきてあんたとキスしているんじゃないよね。うわあ、キモッ。ゲロ吐きそう」
僕の背中を承認欲求丸出しの悪寒が走る。
「それで殺したのか」
「違うってば。アリバイなくても私は犯人ではないから決めつけないでよね」
「だったら誰が犯人だ。知ってるんだろう」
しらばっくれやがってと思ったが、先ずは言い分を聞いてからだと分別を利かせた。
「そうね、彼とこんな話をしていたときに、聞いていた人がやったと思うわよ。私と彼が喧嘩しているのを止めに入った人がいたのよ」
「ん……も、もしかして白いローブの……」
この街の何処かにいるという、死をもたらす白いローブ。濡れ衣を着せるにしても都市伝説かよ……と自分の顔がしらけるのがわかる。
「そうよ。白いローブでひょろひょろしてる。そして、こう言うのよ。あんたたちはトイレで雑菌付けた口を押し付け合うのかってね」
「だったら何故君は生きているんだ。おかしいだろ。君だって……」
「失礼ね。私はちゃんと口を濯いで口紅塗り直して出てくるわよ。だからそういうエチケット守らない彼と喧嘩していたのよ」
「そこを見られたと。その白いのが犯人だと言うのか」
「だって、思い当たることは白いのしかないもの」
「あのな、驚くな。お前の彼氏はトイレで死んでいた。しかもな、便器にキスするような形で倒れていたそうだ。お前の言い分は、私が犯人でござると言っているのも同じだ」
「げっ……」
「これは聞き齧った話だから、警察官が聞き込みにきたときに聞いてみるといい」
「うぐっ……吐きそう……」
屈む背中を擦ってやる。その二人の後ろを白いひょろひょろとした影が通りすぎる。目の端で捉えたその影は確かに人間離れしていた。
「おい、大丈夫か。お前が犯人でないことは何となくだが信じられるかもしれん。だが、警察はそうはいかないぞ。やってないという証拠がないからな」
一旦通りすぎた白い影がにょにょ~んと近づいてくる。
「証拠なんていらないよ。どんなに隠しても埋めても消してもお前たちギョーザのことは全てちゃあんと知っているからぁ」
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