妄想ネタをあなたに(短編集)

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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拾い物

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誰もいない田舎道を歩いていると、バッグが空から墜ちてきた。大金が入っている。驚いたが、セスナやヘリの姿はない。即座に叫ぶ。

「神様っ。有り難うございます」

バッグを抱えてホクホクして歩いていると、貧しい親子が倒れていた。

病院に運んで入院費も払って、ついでに生活支援金を分けた。

バッグはそれでも重かったので、土地を買って建物を建てて生活困窮者の支援アパートにした。

水道光熱費を貰うだけで、部屋代は無料。食費も、神様から貰ったお金で賄う。

不思議なことに、とんとん拍子で何もかも上手く行った。

念願の小説家になってバカ売れしたし、映画化も一本や二本ではない。

調子にのって生活支援アパートを二つ三つ建てた。

今度はホームレスも招き入れた。

良いことをしていい気になっていたが、バッグのお金は底をつき、小説も売れなくなり映画化の話も来なくなった。

困って田舎に引き込もうと思って歩いていると、再び空からバッグが墜ちてきた。

やはり空には何の影もない。

バッグの中にはやはりぎっしりと詰まった札束。

「神様、有り難うございますっ」

これは自分のためだけに使うお金ではないのだろう。

それからアパートの管理に奔走し、身体の弱い住人を病院へ運び、介護の手伝いをして、アル中の住人や刑務所帰りの住人にも仕事を与え、差別のないコミュニティを作った。

そうこうしているうちにバッグのお金はなくなったが、働ける住人が献金してくれるので何となく住人全てが食べていられた。


ところが、困ったことが起きた。年を取って日常的に介護の必要な住人が増えた。

子供たちは進学の希望を言えずにいた。

それまで互いに助け合って暮らしていたが、どことなく暗い雰囲気がアパートを覆い始めると、アル中の住人は酒をのみ始め、刑務所帰りは疑いの目でみられるような言動に傾く。

困って、田舎道をとぼとぼ歩いていたら、お約束のように空からバッグが墜ちてきた。

「神様、有り難うございますっ。でも、お金は十分です。お金では解決できない問題が起きているのです」

お金が問題を作っているのかもしれない。

みんながお金を持たなくても、生活支援アパートの中では平和に安心して暮らせていた。

世の中が、生活支援アパートのようになれば、問題は片付くのか。

いや、違う。
それだけではない。

病気を治し、不平や不満をなくし、年を取らず、になりたいものになって家族と共に元気に生きる。それが人間の望みだ。

田舎道を、お金の詰まったバッグを抱えてとぼとぼ歩いた。

「神様、私たちには神様の力が必要です」

空から声が聞こえた。

「やっと気づいてくれたか。やはりお前は賢い」

良かった。安心した。拾い物はバッグだけではなかったのだ。







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