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第八章 答え
第八章一話 パコの終わり
しおりを挟む曇り空が湿気を帯びた。
雨になるかな……ここは何処だ……アーチャはいない……揺れている……病院船か……疲れた……生きているのに死んでいるのか、死んでいるのに生きているのか。
パコの目の端に人影が動く。
誰……ママン……
部屋が陰り、夜の風にベランダのカーテンがそよぐ。薄手の寝屋着の母親は若く、乱れた巻き毛を気にもとめずにベランダへ向かう。その腕には赤子が抱かれており、片手に黒い紐を持っている。
あれが赤ちゃんの僕。赤い髪の毛。
半身を起こして母親の行方を目で追う。
ベランダで何をしているんだろう……鳥の鳴き声か……いや、男の呻きだ……
戻って来た母親の手に黒い紐は見当たらない。
ベランダから投げ捨てたんだ。解った。あれがマルチョパルポーレの灰汁を塗った鞭だったんだ。若い庭師見習いが殺した強盗の死因はマルチョパルポーレの灰汁……
「可愛いパコ、お前だけよ。ずっと一緒」
ママン……ママン……何で……ママンの親しかった男友達が何人も亡くなったよね、ママン。どうしてなのかやっと解った。何故、僕たちが生活できたのか、罪深い事実……ドン・ファンが作った借金は、侯爵家の土地の切り売りだけで終えたんじゃない。罪深い事実……ママン……
若いヘナ・ノアルが赤子の頬に口づけした。
ああ、船が揺れる。僕はもう長くは持たない。目の前が暗い。
周りの人間を全て殺した黒い女王、ママン……さようなら……僕はあなたの子には戻れない。
ママン……愛してくれてありがとう。僕もママンを愛しているよ。ずっとママンに憧れていたんだ。僕の心は本当に、あなたの息子だったよ。血が繋がっていなくても、僕はママンを誇らしく思っていたんだ。似ていないことがコンプレックスになるくらい。僕の心はママンの息子だったんだよ。
さようなら……ママン……僕にはママンを裁く力はない。僕はもう誰も裁かない。産みの親の顔すらもう定かではない。僕の目にはもう……誰も何も映らない……僕は自由になるんだ。
ああ、空が開けた。光の筋が幾重にも降りて……美しい……天使が見える。両手を広げている。僕に微笑んでいるのか。僕は神様を裏切ったのに。
お願いだ。あの光の向こうに僕を連れていっておくれ。
船が……消えた……僕の身体は海の上に浮いている。天使……迎えに来てくれてありがとう。ありがとう。
僕はやっと……終われる。
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