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第2章 守銭奴の企み
雨の逃避行
しおりを挟む金髪ハーフと目が合った。その傍らで肩を並べてゲームに熱中している夜仕事風女子。三百万踏み倒した子なのだろうと踏んだ。サッカー選手にいたっけ、あんなワッフルヘア。
「おい、ジョージ。行くぞ」
レジで清算を済ませた兄貴分らしい二人連れが、シートのアベックに声を掛ける。
女の子と座っている金髪ハーフが会釈した。
大影は然り気無く顔を反らして二人連れを遣り過ごすつもりだったが
「あれえ、あれ、テイオー、お久しぶりぃ」
と女の子の方から声を掛けられた。
(知り合いか……)
大柄な扁平顔とイラン人みたいな眼眉の濃い小柄な男が大影の前で立ち止まり「ジェーンの知り合いか」と鋭い視線を寄越す。
冷や汗の大影はジェーンに実名を呼ばれる前に「Fの新入りです。上に差し入れを言付かって来たものですから」と小声で弁明した。
「そうか。悪いなぁ」
大柄な男が笑顔になって、ドアを開いた小柄な方が「あがい、雨さいが」と溢した。男たちは顔色を変えて急ぎ足で出ていった。
大影は目的の席に近づく。
「此処、いい」
「勿論。でもテイオー。大学はどうしたの」
「落っこちたんだヨ。悪かったな」
「ひええっ。猿も木から落ちるって本当だったんだぁ」
とんと覚えのない女の子の馴れ馴れしさについぼやく。
「正体不明の女子にまでとテイオーテイオーって呼び捨てにされるとは……そのあだ名は高くつくぞ」
「あれ、わかんないの。ケメコダヨ。ケーメー。平良ケメコ。ほらあ、二年生の時にぃ」
少額の借金を踏み倒そうとした奴……
「あっ、お前、ケーメー……なんだその整形レベルのメイクは」
整形レベル?
どう見てもガングロだが……わぁぁ、死語での表現しか思い浮かばん。
(この野郎、ジェーンだとお。何処からジェーンだよ。ふざけやがって)
「いやあん。人ってイメージ変わるねぇ。テイオーってジゴロみたいだよ」
(憧れの職業だ)
儲かるのであれば仕事は厭わない大影だから金満家のオバサンの若いヒモになっても良いくらいの気概は持っているが、あまりほめられたものではないかもとの自覚により遠慮している次第だ。古着屋では出会いもない。
「ジゴロなりたい」
いきなり楽譜の美少女のイメージが過る。ショパンの雨垂れが、バックグラウンドミュージックで流れ始めた。
「ケーメーも女っぽくなったね」
ガングロよ、見え見えの世辞を言われたというのに、それまでバカ口開けて笑っていたその目が(そうでしょおお)我が意を得たりとばかりに輝く。
気分的に後退りする大影を、それまで胡散臭げに眺めていたジョージがその時初めて「こいつ何者」と顎でしゃくった。金髪は地毛ではないらしく、生え際に栗色が見える。
「金貸しの帝王」
話は早かった。
大影の大法螺音頭にまんまと乗せられた形の二人は、今夜中にもZ会が殴り込みに来るものと信じてタクシーを拾い、大影のバイクに付いて勝連家へと向かう。
『スマホ持ってるだろう。追跡されないように電源切って。何処かに連絡入れたら例えラインでも一発だから。今どきの沖縄マフィアはITヤクザだからな』
大影の適当な親切ごかしにも、もう自分たちの頭では何も考えられないほどに疲弊している二人は、ヘラヘラ笑いながら大人しく従うしかない。
ポツリポツリと降る小雨は県庁に差し掛かった時に粒が荒くなって雨脚を強めた。
(天気のバカ野郎ぉ。親父の服だぞおっ。それはクリーニング出来るから良いとしても靴も親父のだっ。どおおしてくれるっ)
ザバザバと降る。雨は降るのが仕事だ。遠慮はしない。人間を慮る感情はない。家に辿り着いた時には靴のなかは言うまでもなくトランクスもびしょ濡れになってアレも縮こんでしまった。
自宅の門前で雨は降りやんで、ガングロジェーンと金髪ジョージがタクシーを降りた時は既に7時近かったが虹でも出るのではないかと思うほど空は皮肉に青く思えた。
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