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第3章 タランテラの微笑み
タランテラ
しおりを挟むダイニングを出る前に父親は大影にポツリと言った。
「大影、ピアノを諦めたのは挫折ではなかった訳だね」
だから悪い夢を見た。
過去と現在とそして未来かもしれない時空間が断片的に織り交ざったシュールな夢だ。
全部吹き飛んだ。
綿密に立てた金融計画やジョージに貸した金の返済能力の心配や死んだと聞かされている母の遺影や方向音痴の社長のことも、全部、全く全部、ひとつ残らず、すっかり、吹き飛んだ。
いきなり子供に戻って、何の脈絡もなくピアノのライバル秋月玲と手を繋いでパレット久茂地前のスクランブル交差点をスキップしていたかと思うと、秋月だけが大人になって、しかも背中に羽のある美しい天使になって、大影の元から飛び立とうとするのだ。
その手を掴むと、秋月は左目の下にちょいと皺を寄せて三日月のような唇の端を吊り上げたまま、毒蜘蛛に変身した。
ゾクッとするってこういうことだと鳥肌たてながら大影は夢精した。
ドクッドクッと息子が心音をたてて熱いものを飛ばす。
(あああ……堕ちる……あの楽譜の女のせいだ。似ているんだ。あのなまっちょろい毒蜘蛛に……パレット久茂地の交差点で会った……ああ……)
秋月はピアノのライバルだ。ティッシュで白い分泌物を拭きながら項垂れた。
(うわあ、スキップしてたぞ、スキップ……嘘だろう。いくらなんでも毒蜘蛛とお手々繋いでスキップでイクのかよおお。恥ずかしいじゃないかぁぁ)
因みに、大影が自慰行為をする際にお世話になるのはグラビアだが、何故か途中から秋月を犯している。想像の中の秋月は男だったり女だったりして、仰け反って喘ぐ。
最初はその想像によって昇天することに戦いたが、グラビアだけでは無理があって、どうしても秋月玲二を呼び求める。大影は子供の頃に雌雄を決することが出来なかった悔しさから、そういう妄想を抱くのだろうと理解している。
(何も現実にお前を抱きたい訳ではないからな、秋月……ボク様は男相手は無理っ)
男だと知っていて、である。
三年生のコンクールで秋月の弾いたブルグミュラーのタランテラが余程ショックだったのか、それにしても毒蜘蛛にリビドーを感じる大影は(自分さえも信じられない。僕にはやっぱりお金しかないっ……)と唇を噛む。
因みに、タランテラはただの醜い蜘蛛で毒はないとのこと。ほっそり色白の秋月玲のイメージとは程遠い。
(シャワーでも浴びてさっぱりしよう。スキップしただけでこんなになるなら、本物の秋月に会ったらどうする。まさか勃起はしないだろうが、恐ろしい。僕様は男に性欲感じたことはないのに……)
嘘をつけ。
恋とは脳ミソの病気に違いない。かなり昔からちゃんと病名もある。世界共通のその病名は「恋の病」だ。
大影はその病に罹かっていて自覚がないままにも妄想で秋月を好きなようにてごめにしては自慰を果たし、自分だけの女にしていることに気づかない。
危ない奴だ。
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