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第4章 君にハンガリー狂詩曲
フラれた
しおりを挟む夜、仕事帰りに大影の父親が面会に来た。
「例のクラブボーイのことだが、連中の上前はねてその金をどうするつもりだったんだろうな……」
具合はどうかと聞いた後で、何気なさを装う。
(明らかに尋問じゃないか。僕はその手には乗らないぞ。黙秘権だもんな。)
「まさかジェーンの借金に当てるつもりじゃなかったろうな。それなら額面通りに二百万受けとるだろうから、それはないか……まあ、面は割れているわけだから、モンタージュで捕まえて起訴することになるだろうな」
(ううう……ジェーンの借金の一部に充填しろと、そうしろと仰っているんですね……ううう、お父さん……僕は検察官の息子に生まれて寂しく育ちましたけど……大人しく従います。ついででなんですが、秋月玲二がお父さんのこと、タイプだそうです。僕も、よく考えたら秋月院長はタイプかも。こ、交換したいな……どうですか、お父さん。秋月玲二を僕に譲ってくれませんか。だったらお金のことは……)
バカ息子、こっそり臍を噛む。
(タコスに注入した下剤千二百円、お詫びの整腸剤五百円、二日間走り回ったガソリン代とここの入院費、あ、タコス代も入れたら赤字じゃないか。それなのに、ジェーンの借金に当てろと……百万円を……泣くに泣けない……あぶく銭じゃないんだ、決して……二日間、土砂降りの中を駆けずり回ってお金を掛けて頑張った僕の努力は……時給換算したくもない。もはや海のモズクだ……ううっ、寂しい……)
藻屑だ、大影。海の藻屑。食べ物ではない。
大学を落ちて当然の語彙力だが、入試に出る問題だとしたら命取りだ。
「処で、大影。お前……」
父親が明るい声で呼び掛けた。
俯いていた顔を上げて「はい」と教師に名指しされた生徒のように返事する。
(僕って従順な息子……)
「来年は君も二十歳になることだし、此処でひとつ提案があるんだが、来年からは大人の仲間入りということで、先ずは自分に掛かる税金を自分で払ってみたらどうだね。そうすればまた、いろいろな物事もわかるようになるだろう」
ざっくり斬られて肝が潰れそうな大影は、心の中で叫ぶ。
(ひえええっ……二十歳になりたくないっ。僕は四月生まれだから年明けて直ぐに二十歳になってしまうちゅうに。税金払うなんて、儲けもないのに破産だああああ……)
昔、地球の中心で愛を叫ぶという映画があったが、大影は沖縄県の片隅で無念を叫ぶ。
(僕は大人にならなくても結構です。できればずうっと十九才のままで……税金対策に)
しかし、すべての人の上を平等に時は流れる。
因みに大影は、入院中に何度も秋月玲二にアタックして熱烈なキスで攻めて脱がせようとして、もう片方の頬っぺたもぶたれて退院した。
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