聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第一章 復讐とカリギュラの恋

(17)ハビタにあげる

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ジグヴァンゼラはハビタに約束した。


「僕がちゃんと食事できるようになったら、そして君が十四才になったら、僕たちは結婚しよう。僕は君が好きだよ」

「私も。ジグヴァンゼラ様が大好き。でも私は村娘だから、良いのかな、私を結婚相手に選んでも」

「僕が決めることだよ。ハビタがお嫁さんになってくれたら僕は元気になるよ」


ジグヴァンゼラにとって将来の明るい設計は特効薬になった。それは図らずもルネの望まない結果を示唆して、ルネは噂になっているジグヴァンゼラのお気に入りの少女ハビタを、ベッドに呼んだ。


領主ジグヴァンゼラが病弱で、実権を握ることのない生きる屍であれば、ルネは満足していたはずだった。


ルネは黒いマントを頭から被って、真夜中に、ハビタの亡骸をジグヴァンゼラのベッドに置いた。


「ジギー、お前の愛した者だ」


ハビタはぐったりして動かない。首に緩く紐が絡まっている。ジグヴァンゼラは急いで紐をほどいた。


身体を揺すって細い手を自分の頬に当てた。柔らかく小さな指先がジグヴァンゼラの頬から滑り落ちる。


ジグヴァンゼラはハビタの頬に手を当てた。髪の毛を撫でる。
 

ハビタ、眠っているの……
僕はハビタが起きるまで待つよ
一緒に寝よう
今夜からずっと……


「この者は死んだ」

「どうして……何故、死んだの……」

「わからないのか、ジギー。お前のせいだ。お前が愛する者を私も欲する。お前のせいでハビタは死んだ」


嘘だ、ハビタは死なない
死ぬ理由がない
ハビタ、起きて、目を覚まして……
ほら、やがて朝だよ
食事の時間だよ、ハビタ
僕は沢山食べるんだ
ハビタを喜ばせる為に
いっぱい食べるよ
どうして起きてくれないの
いつものように笑って
ハビタ、どうして動かないの
動きたくないの 
どうして身体が冷たいの
明日は眼を覚ますよね
お話の続きはどうなったの
森の魔王の伝説のことだよ
今日は疲れているから
明日まで眠るんだよね
ハビタ……ハビタ……
 

応えない相手に話しかける。ルネは嗤って死神のように暗闇に消えた。


ジグヴァンゼラはハビタのか細い腕を自分の首に回そうとしたが、その腕はだらりと滑り落ちるだけ。涙がこぼれる。


朝になった。二人の間に食事のトレーを置いて、ハビタがしてくれたようにミルクに浸けたパンをハビタの唇に付ける。唇をミルクが流れる。ハビタは反応しない。


涙を拭きながら何度も試して、ハビタの口の中に柔らかいパンを押し込んだ。口づけする。ハビタが吐き出さないように軽く口づけして、泣いた。トレーを投げ出す。


拒食症で思考力の低下した頭でも、ハビタが目覚めないことを理解した。


翌日も、ハビタは目覚めなかった。


まだ12才の純真な少女の顔が、涙にむせぶジグヴァンゼラの横で、生気を失って青白くくすんでいく。身体も人形のように硬くなった。


夜中、再び黒マントのルネがやって来て、ジグヴァンゼラのベッドからハビタの亡骸を奪って行った。


「お前が愛する者を私も欲する」


ジグヴァンゼラは死神の言葉を恐れた。


ハビタは僕が愛したから
死神に狙われたのか
酷い……神様……
ああ、僕は神様をないがしろにしてきた
だから死神に狙われても
守ってもらえなかったんだ


ジグヴァンゼラは食事が喉につかえて、上手く飲み込めない。ハビタにたくさん食べて見せたかったのに、お腹が空かない。泣いて、涙も枯れて、疲れ果てた。


ハビタの代わりに綺麗な少年が来た。少年はジグヴァンゼラより少し年上で、ルネの洗練を受けて、ジグヴァンゼラにもその様に接した。


ジグヴァンゼラは少年と肉体関係を持って、ハビタを失った悲しみが穢れていくのを感じた。


ハビタを抱き締めたい
結婚の約束をしたよ
大人になってハビタと結婚して
笑顔で暮らすんだ
ハビタ、生き返って……
僕の心臓をハビタにあげるよ



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