聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第一章 復讐とカリギュラの恋

(32)お助け致す

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  ジグヴァンゼラの右隣に、ロマンスグレーの長い髪を絹の青いリボンで束ねたジャガレット侯爵と、豊かな髪を盛り上げたゴージャスなレースに縁取られた紫色のドレスの夫人が占める。温かな笑顔が印象的だ。



「こちらこそ、お招き頂いて嬉しく思いますぞ。貴殿は十四才で領主になられたのでしたな。お父上が亡くなられてから早五年。立派に領地を治めて参られた。アントローサ公爵のお血筋と伺っておりますので、我々も信頼できる仲間が増えて心強い。僭越ながら我輩が乾杯の音頭を取らせていただきますかな」



  慣れたもので、ジャガレット侯爵は高らかな声で辺りを見回しながら立ち上がる。



「それでは皆さま、お手元の金杯をお取りくだされ」



  参加者全員が金杯を手にズザザ……と衣擦れの音を立てる。ジグヴァンゼラとルネ夫妻も立ち上がった。



「王様の元に集いし精鋭たちの一致の精神、未来永劫の祝福を以て王国とジグヴァンゼラ・ロクファーレン・ザカリー伯爵が共に発展することを願い、乾杯」



  一気に飲み干す。




「おお、これはとても上手いワインだ。異世界フランスのピノ・ノワールか」 




  参加者が口々に褒める。その中でサンディ・ゲイリアムズ子爵だけは笑顔に影がある。夫婦揃って寝不足のような暗い顔をしていた。



  フランス料理にも見劣りのしないサレの料理に舌鼓を打って、話題はザカリー領の景観と作物からそれとなく政治に移る。



  ジグヴァンゼラの左手はジルコル・ハルム伯爵。





「ザカリー伯爵、普段はどのように過ごしておられるのか」 





  ジグヴァンゼラの抜けるような白さは陽に当たらない生活のもたらした病的なものだ。



  それとわかってハルム伯の案じた答えを口にするジグヴァンゼラではない。





「幼い頃は病弱でした。その為に、五年前の爵位相続の際にも御披露目の宴を開くことが出来ませんでした。ですが、この頃はめっきり食欲もわき、領地の見回りと国境警備の査察も行っています。領民の暮らしぶりにも関心があります」




  ハルム伯は早くも満足気に微笑む。




「どうやらザカリー伯爵は理想追及型の領主のようだ」




  メンプラオ・ボリオ伯爵がジグヴァンゼラに会釈した。会話は席順通り次々に巡る。





「王都に来られないのは体調が優れぬせいだと伺っておりましたが、杞憂に過ぎませんでしたな。しかも、どれもこれもお心尽くしが素晴らしい」





  その言葉を聞いたリトワールは会心の笑みを隠して平静を装う。お仕えする主が褒められることは、執事冥利に尽きる誉れ。ルネに雇われた身ではあるが、実質的な主はジグヴァンゼラだ。



  ボリオ伯は丸顔に似合わぬ鋭い眼光で、ジグヴァンゼラの斜め後ろに立つリトワールを一瞥し、笑顔をマークル・ボランズ伯爵に向けた。



  それまでじっとジグヴァンゼラを観察していたボランズ伯が、口を開く。



「あなたの悩みは我々の悩み。何かあれば我々がお助けいたしますぞ」



  ジグヴァンゼラははっとボランズ伯を見つめる。暗がりで鏡を見るときのような顔の黒髪のボランズ伯。その口から出た琴線に触れる言葉。





とくと感謝し致します」




涙が出そうだ
ルネを殺してほしいと言いたい
淫欲でザカリー家一族郎党を
滅ぼそうとする寄生虫ルネに
天誅を与えねば気が済まない
笑顔だ、今は笑顔を崩すな



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