聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第一章 復讐とカリギュラの恋

(45)共感と期待

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見かけだけは人間の形をしていても
カリギュラも子供の頃から
鼠の首を切って遊ぶような人種だ

ルネの親戚なのだから
同じ悪魔的な面がある

そうは思いたくなくても

カリギュラに期待すると
きっと傷つく

カリギュラは
私より四つも年下だ

だから
自分で何とかするしかない


リトワールは厨房のテーブルに着いた。

サレがリトワールに言った。


「ご領主様が、リトワールに美味しいものを食べさせて精をつけさせてやれとおっしゃっていたそうですよ、リトワール様」


リトワールは動揺した。



カリギュラが私に…… 

いや、気遣ってくれた

気遣いを示して
寝かせていてくれたのだ
無意識に頼った私を
見捨てなかった

カリギュラにしては
迷惑な話だろうが
ルネの執事に
興が乗っただけなのかもしれない

目覚めたら、少しの水だけで
部屋を出されたのだから

それに……

ルネと同じように
美少年を侍らせている

この恵まれた土地に
幽霊と魔王カリギュラの噂は
刺激の少ない人々にとっては
清涼剤なのかもしれない

私はメナリー夫人とパブッチョを見たし

確かに領主ジグヴァンゼラは
少年愛の性倒錯に溺れている

願わくば
パーティーの間には
幽霊が出ないように……

館の全ての闇を蝋燭で照らし
明るくきらびやかに


リトワールにとってルネは嗜虐性のある性的倒錯者で、カリギュラジグヴァンゼラもルネと同じような者だと思っていた。ただ違う点は、ルネは自らその道に進み、ジグヴァンゼラはリトワールと同じくルネの被害者だと言うことだ。


引きこもりのジグヴァンゼラに、身体を鍛えては如何かと勧めたことがある。魔王だのカリギュラだのと貶められていながら青白くひょろひょろと弱々しいジグヴァンゼラが心配だった。


この領地の実権を握るのが
ルネの企みならば
それを邪魔してやろう

ルネのような化け物には
裏切り者の執事が相応しい

それに
まだ若いカリギュラの方が
御しやすい

カリギュラも
ルネを許せないのではないか

私を守ると言ってくれた
あれは……

嬉しいものだ


そんな思いを抱いて、記憶の端から立ち上がる一瞬があった。父親の葬儀で倒れたジグヴァンゼラを、居間のソファーに運んだ時のことだ。


目を開けたジグヴァンゼラはリトワールを見て口づけをしようとした。リトワールの頭を後ろからルネが押して、唇が合わさり、ジグヴァンゼラの舌がリトワールの舌に絡むところだった。ジグヴァンゼラはそのまま意識を失った。


あれは……
カリギュラがまだ十四才の頃
私は十八才の若造で
そうだ、今のカリギュラと同じ年
ルネに謀反を企て
失敗して落胆していた


まだ少年のジグヴァンゼラとの口づけ。リトワールは、先ほど首筋につけられた鬱血の痕を指先で触れた。鬱血していることは知らないが、首筋にまだ感覚がある。


いきなりその場面に戻る。ジグヴァンゼラの顔が斜めに逸れて首を吸われた。記憶がリアル過ぎた。


あの時は幻のように無感動だった。頭がぼうっとして、何をされても動じないようにルネに慣らされていたのか、無反応で受け入れた。


しかし、今はリトワールも頭がクリアになったせいか、軽い余震のようなものが心を揺さぶって消えた。


パーティーの前に、サレが料理を出しながら誇らし気に言った。


「これは精をつける特別な料理で、特別な亀を使っています。ポロシア帝国からのものらしいんですけど、パプッチョの知り合いが持って来るんです。生き血も栄養豊富だと言うのですが、捨ててしまいました」

「サレ、もう、特別料理はいらないよ。私もみんなと同じで良いから」


リトワールはフォークを口に運ぶ。

それを聞いて、フランスから付いてきた古い小間使いアネットがサレに質問する。


「サレ、特別な皿を作ってほしいの。人が麻痺する料理を」

「無理です。いくら悪い相手でも料理で人を麻痺させるなんて。僕は料理が好きだから、そんな悪事はできません」


周囲にいた者たちの耳目を惹く。


「そうね。サレは正しい。サレに言っても無駄なのね」


リトワールがアネットに聞いた。フランスから一緒に来た心根の知れた者だ。


「麻痺させてどうする」

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