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第一章 復讐とカリギュラの恋
(47)髪を振り乱した獣のように
しおりを挟むパーティーが始まってからは、まるで訓練された兵士のように一糸乱れずにすべてが順調に進み、深夜までダンスと享楽の夜になった。
リトワールはゲイリアムズ夫妻が別の部屋を用意してくれないかと言われたことを不審に思うも、まさかルネに揃って強姦されたからだとは知る由もなく、取り敢えず他の客室に案内してから後は一階のフロアに心を砕いていた。
嬉しいこともあった。
カリギュラと揶揄されるジグヴァンゼラが、親子ほども年の違うハルム伯爵夫妻と家族のような団らんを楽しむ姿が、とても嬉しい。
カリギュラにはそのような温かな付き合いが必要だったのだと、思い知らされた。
邪魔にならないように動き、給仕に借りだした兵士に指示を出して、それからルネの動向に気づく。
何処へ消えた。
最初はヴェトワネットが階上に消えた。ジグヴァンゼラの部屋は一階奥で、亡くなった両親の開かずの間の隣にあり、ルネは、二階のジグヴァンゼラとは反対側の奥にある。幾つかあるどの階段からも遠く、部屋に行くまでにも時間がかかる。ベランダを気にしていたが、ベランダに出た様子はない。
ボリオ伯爵が「水を使いに……」と消えた。リトワールはこの国の貴族は御不浄をそう言うのかと理解した。
ジグヴァンゼラに予め了解を得ていた特殊な作りの酒を出した。ティスティング・グラスを並べる。
偶然に、ジグヴァンゼラの指がリトワールの手袋に触れて、視線が絡む。互いに目を伏せて離れた。
リトワールは、子供の頃から将来を嘱望されて育ち、謙遜であるように、キリスト教の精神を持って主に使えるようにと叩き込まれた。そのキリスト教の精神はルネの虐待でぼろぼろに切り刻まれたが、形だけは保っている。
しかし、他者を守る為でも、ルネに甘い顔を見せて懐柔することができない。リトワールは深く傷つき、殺意を抱き続けてこの地にやって来た。そして、いたいけな十四才のジグヴァンゼラを守ることすらできなかった自分を呪っている。
ルネは化け物のような男だから
何人がかりでも太刀打ちできない
だが、この宴が終わる頃には
ルネにも隙ができるだろう
「水を使う」客人たちが次々と入れ替わりながら、パーティーも佳境を過ぎて、気がつくと明け方を迎えている。
何やら館全体が騒がしい。ボランズ伯爵の動きも気になって、小間使いと給仕にそれとなく情報を得るように指示していた。フランス人の小間使いから「ルネの部屋に兵士たちが」と耳打ちされた。
戦慄が走る。
急いでジグヴァンゼラに伝えた。
「異変が起きたようです、旦那様」
パーティーの最中に執事の分を越えた殺人劇など言語道断。主に知らせて判断を待つ。
「異変とは」
ジグヴァンゼラの目付きが鋭くなる。
「ルネの部屋に兵士が」
「兵士っ、何故」
ジグヴァンゼラは、疾風の如くに走った。長い廊下を急ぎ、衛兵が警備しているルネの部屋に駆け込む。ルネは既に捕縛されて、醜い獣のように髪を振り乱しヴェトワネットの上に丸くなっていた。
リトワールに激震が走る。
何故このようなことに……
私は出遅れたのか
いや、ジグワンゼラ様
本懐をお遂げください
フランス人小間使いアネットも息を切らせて追い付き、ジグヴァンゼラの剣に驚いて入り口でへたり込んだ。腰が立たない。
ルネの首を目掛けて振り下ろそうとした剣をボランズ伯爵に止められたジグワンゼラは、肩を抱かれて崩れた。
「決して、決してあなたのせいではない。あなたはよく頑張った。あなたの忍耐は実を結ぶ」
リトワールは、ボランズ伯爵の言葉に胸が痛む。
「長きに渡って無為に過ごした」と言うジグヴァンゼラの言葉も、リトワールには辛い。抱き締めて共に涙したい気持ちを、一歩下がる。
ボランズ伯爵が実はアントローサ公爵だったことに震撼したリトワールは、アントローサ公爵から掛けてもらった労いに感謝した。
「リトワール、お手柄、お手柄。主を糾弾することは己を裁くことに似ているが、良くやってくれた。
そなたの勇気がことの全てを治めたのだ。できればもう少し早くに知らせてもらいたかったが、私も忙殺されて葬儀も見舞いも妻に任せっきりだったのがまずかった。これ以後はこのような不祥事は起きないだろう。
リトワール、ジグヴァンゼラは私にとって弟のような者だ。今回、有能な執事を見いだしたからには安心して任せるぞ」
アントローサ公爵は白い歯を見せてわはははと笑った。
ついでのように「嫁取りには至らなかったが」と呟いて立ち去る姿が、太陽のように眩しい。
ジグヴァンゼラも立ち上がってすっきりと涙を拭い、立ち去る。
ジグワンゼラ様
本来なら私があの怪物を
捕縛するつもりでした
幽閉して弱らせ
最後の止めをあなた様に
お譲りするつもりでした
結果的には正しい形で
ルネが裁かれることになり
あなた様の念願が叶います
いいえ、私の念願です
悪魔のようなルネに
初対面から押し付けられた殺意
ルネを殺せなかった私の……
私と同じような者たちの
恨みと念願が果たされるのです
リトワールは目線を合わせないように頭を下げていたので気づかなかったが、ジグヴァンゼラはリトワールに何かを言いかけて止めたのだった。
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