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第二章 カリギュラ暗殺
(72)忠節な執事を突き崩そうと
しおりを挟む「わ、私ごときの関わる問題では……」
動揺は演技ではないが隠す必要はない。ルネは端正な若い造りに生前の残忍さを隠して微笑む。
「領主は法律だ。ジグヴァンゼラが望めばお前の命もいつでも消せる。こいつのようにな」
それはそうだ
大昔から、領地の裁き主は領主だ
裁判所の上に立つのは領主だ
民にとっては
神とも崇めるご領主様がいてこそ
強く正しいご領主様がいてこそ
民は栄え平和が保たれてきたのだ
私はそのご領主様に
お仕えする光栄にあずかっている
恵まれた立場だ
「私はご領主様を陥れたりは致しません」
「ふふふ……わはははは。お前が陥れずとも、既にジグヴァンゼラは自ら罠に掛かっておるわ。過去にジグヴァンゼラ自身が張り巡らした罠だ。お前はジグヴァンゼラに付くか、それとも正義の為に私に付くか、良く考えろ」
正義……
あなたの言う正義とは何ですか……
あなたは公開処刑されて
討伐祭りの中心人物に
なっているのに……
あなた方夫婦の処刑は
七人の領主が裁決権を振るい
二度とあなた方のような
邪悪な悪魔崇拝を許さないと
記念した祭りが今でも続いています
それなのに正義とは……
風があるのか蝋燭の灯が揺れた。
その討伐祭りは第二次世界大戦以降、すっかり廃れてしまったが、ザカリー郡には伝説として残っている。
走り転がるように別荘を出た。夜気が冷たい。馬車の御者台に乗り込む。
「ああ、ああ……はあっ」
呼吸を整える。鼓動が早鐘のように鳴っていた。
馬車を操って来た道を戻る。斜めになった時に戸口に目をやると、月明かりに照らされてルネの姿が見えた。
背の高い金髪の、青白く美しい顔をした黒いマントの姿に、領主の姿が重なって、執事は複雑な思いに駆られた。
旦那様が危ない
旦那様が危ない
それなのに私は
逃げようとしている
旦那様を守らなければ……
逃げてはいけない
命に代えてもお守りするのだ
私も、執事の端くれ
リトワール様……
リトワール様……
ジグヴァンゼラ様……
馬車は引き換えそうとして別荘の前で踵を返したままの斜めに停車して、一向に走り去る様子がない。
悪霊ルネには人間の心は読めない。ただ、永きに渡り人間社会を備に観察した読みがあるだけだ。執事が何を考えているのかも予想が付く。
リトワールの残した
『ザカリー家日誌』を読んでいたな
リトワールの仕事ぶりに憧れただろう
有能な執事だった
そして、個人的な日記にも
感銘を受けたのだろう
この執事シアノの
ルネに対する恐怖と嫌悪は根深い
討伐祭りで育った民衆ですら
ルネには必ず敵対するのだから
ルネとしての私には
敵対するだろうがしかし
リトワールに変貌したらどうだろう
敵対できるだろうか
忠実な執事シアノよ
さあ、リトワールに願え
神のごとくのリトワールに祈れ
ルネからジグヴァンゼラを
守れるようにと
神にではなくリトワールに祈れ
私がリトワールの姿で現れてやろう
リトワールを記念した
「勤勉慰労の日」に出来なかった
リトワールの天使のごとく
光輝く姿を見せてやろう
さあ、祈れ、祈れ……
神への崇拝をリトワールに捧げろ
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