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第三章 純愛と天使と悪霊
(99)夜の予定
しおりを挟むシアノを取り逃がした悪霊ベルエーロは、日中ヴェルナールとレネッテイを結びつける方法を考えた。ヴェルナールもレネッテイも共に夜の川で水遊びをする。若く熱い身体を冷やして眠る為だが、悪霊はにんまり嗤う。
ヴェルナールは十四才、レネッテイは十六か七になる。
これは名案。シアノにはダネイロ。二人とも難しいタイプだが、ヴェルナールにはレネッティ。相性の合わないタイプだが、ノエビアと娼婦を先に使えばヴェルナールは堕ちるかもしれない。
今のうちからヴェルナールへの当て馬にしておくか。
目覚めたシアノは夕べの夢に青くなっていた。ヴェルナールの起床は遅い。夜中に川に行くせいで、ブランチの前に起きる。ベッドかベランダでゆっくり食事を摂ってから、執務を始める。シアノは身なりを整えてキッチンへ向かった。
キッチンではメンデとモーナスが兵士の食事を出し終わった処だ。給仕としてレネッテイが動き回り、モーナスに媚を売る。
「モーナスさん、昨日の話しなんですけど、後でダネイロさんと三人でお話できますか」
「ああ、食事の後にベンチにいるから」
「ふふ、待ってます」
背伸びをして耳元で言った。モーナスは驚いたがレネッテイはさっと立ち去る。
気のせいか、妙な子だ。人なつっこくて……
客人のノエビアと娼婦は、奇妙な夜の話しをしながら、ベッドでもぞもぞと萎びたものを温めていた。二人で身体を合わせてもなかなかその気にはなれない。娼婦は王都に帰りたがって愚痴をこぼす。
「こんな田舎で幽霊を見るなんて、冗談じゃないわ。憑依かれたらどうするの」
ノエビアの父親は領地を持たない子爵で、年金をもらって宮廷で働いていた。官僚貴族は一代限りだから、息子と言えども爵位を貰うためには一から頑張るしかない。ノエビアには官僚として働く能力や国へ貢献する気持ちが欠けており、考えたのが手込めにできそうな若い領主を探すことだった。
ヴェルナールは申し分ない存在だ。宮殿を支配する三兄弟の、しかも、王位継承権を持ちながら官僚として宰相の下で働くヘンゼル執務官の息子だ。ノエビアに限らず、国中に溢れかえる貧乏貴族にとっては垂涎ものに違いない。
ヴェルナールと会えるのは午後のアペリティフからだ。ゆっくりお喋りを楽しんで夕食になり、ヴェルナールは早めに部屋に戻る。
ノエビアは幽霊を恐れた。川に行くのは耐えられない。今日はアペリティフの時間にトライする。
「執事が邪魔だが、何とかできるか」
「任せて。その為に来たのだから」
「それにしても暑いな。もう起きよう」
短い夏は、寒暖の差が激しい。
兵舎の影になったベンチに、モーナスが長い足を投げ出して横たわっている。レネッテイは浮き浮きして近づいた。
どうやって起こしてやろうかな、ふふっ……普通に名前を呼び掛けるのもね……うん。耳にそっと……モーナ
「モーナスさん、レネッテイ」
後ろからダネイロの声がした。飛び上がるほど驚いて振り向くとダネイロが笑っている。
「何を驚く、レネ。ははあ、お前、良からぬことを企んでいたな」
モーナスがダネイロの声に目を開ける。
「お、二人もと飯は済んだか」
「旨かったですよ、モーナスさん」
「美味しかったです、モーナスさん。お代わりもしました」
「それは良かった。で、話しとは」
ベンチに座り直してモーナスが二人を見る。
ダネイロは素早くレネッテイの襟を摘まんだ。モーナスの隣の空席を見ながらレネッテイがたたらを踏む。
「え、え、離してくださいよ、ダネイロさん」
「お前は直ぐ座ろうとする。モーナスさんは休みたいんだ。邪魔するな」
ダネイロは手を離してからモーナスに話しかけた。
「モーナスさん、実は夕べ、やっぱりこいつしか見なかったんですが、いや、今来ている客人らしき二人も見たようなので。聞いてみると、それがどうやら幽霊らしいんです。客人は震えていましたから」
「幽霊……悪い霊者のことか」
モーナスは父親サレの言葉を思い出した。
『幽霊ではない。悪い霊者が死人に化けるのだ。生きている我々に影響を与えて支配する為にだ。生きている人に化けることもある。騙されないようにな、モーナス』
ダネイロも頷く。
「そうでした、悪い霊者です。なんのためにモーナスさんに化けるのか……」
モーナスはベンチから跳ねるように立ち上がった。
「有り難う、二人とも。親父に会ってくる」
モーナスは解決の糸口が見えた気がした。
親父の小屋で会った金髪の背の高い男は悪い霊者だったかもしれない。
影だ。影を見れば良かった。俺は騙されて悩んでいたのか。あの男が俺の父親かと……
ガレのもじゃもじゃの赤毛は親父譲りだ。俺を通してガレに出たのだ。
ああ、神様、感謝します。俺は親父の子だ。
走るモーナスをダネイロとレネッテイが追う。
「モーナスさん、モーナスさん、夜、夜に……」
「何だ、まだ何かあるのか」
立ち止まるモーナスにレネッテイが頬を染める。
「あの、水車小屋に来てもらえませんか。悪い霊者をダネイロさんに確かめてもらうのです」
ダネイロは「俺……」と呟く。
「モーナスさんは僕と小屋の中に一緒にいて、ダネイロさんは外で悪い霊者を待つのです」
「はぁ、なんで俺が外っ」
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