114 / 128
第三章 純愛と天使と悪霊
(106)黒魔術事件
しおりを挟むたまに、育ての親のカリギュラがこの国の王だったとしたらどのように国を導いたかと考える。数年前の黒魔術事件の記憶が蘇った。
「何をするにも国力が第一だ。その国力を立てずしてなにが貴族だ。貴族年金で豪勢な生活をする経済活動家なんて国の寄生虫ではないか」
若きアントローサ公爵ジグマスタが貴族院評議会で不平を漏らすのも仕方ない。
「国力とは国民ひとりひとりの生活力だ。武力のことではない。全ての国民が健康で豊かに暮らす。宗教の統一は平和と経済の安定に寄与する。それなのにそれなのに、町には怪しげな宗教組織が立ち上がって黒魔術を行い、武力をもって貧民狩りをしていると言うではないか」
ジグマスタの父親譲りの真っ直ぐな目付きが、貴族院評議会右局席を見渡す。
黒魔術の組織は呪詛の組織という触れ込みで貴族の中にも足繁く通っている者がおり、王都に怪しげなグループが膨らみつつある。
ジグマスタは左局席のメンドゥーラ侯爵を名指しして、何故そのようなものに関わっているのかと質疑した。
「私にはそのような記憶はごさいません」
三日月のような顔のメンドゥーラ侯爵はしらばっくれて両隣のメンバーに苦笑いをして見せる。ジグマスタは澄まして続けた。
「記憶がないと。はて、おかしな話だ。あなたの推進する機械化運動では、多くの貧民が出ましたね。国力については仕事ひとつを鑑みても、ひとつの生産の流れに、より多くの人員が関わることが望ましい。そして差別を生む収入の偏りが無いこと。だがしかし、機械化が進むことと貧民が増えることは比例している。機械化に限度を儲けるか、機械化産業に多額の税金を課すのでなければ労働者が必要なくなり飢え死にする者が増えるだけだ。メンドゥーラ侯爵。あなたはそれを隠し、企業と癒着し、より機械化を推し進める為に黒魔術を利用したのではないのですか」
「黒魔術などと、全く記憶にごさいません」
メンドゥーラ侯爵は、先程よりも大きな声で机を叩いて断言した。
「そうですか。まあ、そう言い張っても無駄ですけどね、メンドゥーラ侯爵。あなたの犯した間違いはご自分で動いたことではありませんよ。あなたの犯した間違いは、黒魔術を使ってヘンゼル・ザカリー公爵のお命を狙ったことです」
驚きの声が上がる。ざわざわと私語が起きた。
「「「王位継承権に関わっているのでは」」」
昔から王位継承権は問題にされていた。三人の息子は競り合う訳でもないのに立太子がなかなか決まらない。ジグマスタは会場を見渡して私語の途絶えるのを待った。
「みなさん、メンドゥーラ侯爵が黒魔術を知らないと仰っても、証拠があるのです。これは血判書ですが、よおおく、ご覧になってください。メンドゥーラ侯爵がヘンゼル・ザカリー公爵を狙った呪いの人形に捧げる血判書です。これについてメンプラオ・ボリオ伯爵からの証言があります」
メンプラオ・ボリオ伯爵は年を取っても相変わらずの小太りの体型で、しかもナイフのように切れる脳ミソと言われる優れた頭脳も健在だ。
「私までお忘れになったのではありませんよね、メンドゥーラ侯爵殿。私は、あなたを通して黒魔術に参加致しました。そして、あなたがご自分の小指を切って血判書を作成する現場におりましたよね。ご記憶にない……ははは、宜しいでしょう。お身体には小指の傷だけでなく、太ももに刺青があるはずです」
ボリオ伯爵は「みなさん、お目汚し失礼致します」と、自らズボンを脱いで太ももの刺青を見せた。
『ヘンゼル・ザカリー公爵の命を我が手に守らせたまへ』
ヘンゼルは瞠目した。ボリオ伯爵はズボンを穿き直してメンドゥーラ侯爵に向かう。
「メンドゥーラ侯爵。これと似たような刺青を、同日同時刻に同じ場所で、並んで入れましたよね。私のは、後から『守る』と直したモノですが、あなたのはそのままのはずです」
ヘシャス・ジャンヌ女王の指が動いた。近衛兵がメンドゥーラ侯爵を評議会の右局席から引きずり出す。
「何をするのだ。手を離せ。やめろっ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる