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第一章 復讐とカリギュラの恋
(49) 処刑
しおりを挟むアントローサ公爵は、ジグヴァンゼラの領地に散らばって警備を行っているルネの犠牲者を呼び寄せた。昼過ぎに、ナヴァール夫妻の公開処刑は少しの休息と湯浴みとたっぷりのランチタイムの談笑の後に、ついでのことのように始まった。
広場の真ん中に杭を一本打ち込んで、ルネとヴェトワネットを括りつけた。次いで二人目の端に見える位置に、彼らがフォランセから持参した美術品や衣装や貴金属等を次々と山積みにして、火をつけた。
ルネとヴェトワネットはさる猿轡を通して獣のような唸り声を上げ、頭を振って怒声や悲鳴を上げた。
槍を持った兵士が集まり、小間使いも庭師も厨房の面々も、槍を手にして杭を取り囲む。
ジグヴァンゼラの傍らにはアントローサ公爵がいた。その反対側にはハルム伯爵と残っていた招待客の男性陣と二人の娼婦が並ぶ。
じりじりと槍が狭まる。目隠しをしないことに決めたのは、断末魔を見届けるためだ。
ルネの目に怒りの色が燃えた。ルネには後悔も呵責の念もない。ただ、死を前にしても形相は鬼の面構えで言葉にならない唸り声を発するだけだった。
「罪人、ルネ。その妻ヴェトワネット。お前たちの罪は明らかだ。今更罪状を読み上げるまでもない。此処に集まった槍の数以上の罪を犯したことは周知の事実。何も言うことはなかろう」
被害者の名誉は守られた。怨みも晴らされる。
武功で名高いジャガレット侯爵が「やれ」と言った。低い声だったが凛と響く。
一斉に槍が突き出される。身体ごとぶち当たるように槍は勢いよく二人を刺し貫く。大きな肉切り包丁が岩塩を割る時のような、固くて脆いものの音がした。幾本かの槍は肉を貫通して柱につき刺さった。
二人を貫く為に集まった者は五十人を越えていた。五年の間にルネとヴェトワネットに弄ばれたジグヴァンゼラの使用人と兵士たち、ルネに付いてフランスから来た者たちや村から買い上げた者たちの生き残り各々が、恨みを晴らしたのだ。
「ぐふっ……」
ルネは衝撃を受けて天を仰いだが、その青かった目は空の色を映さず真ん中から瞳孔が広がって黒ずみ、口から血を吐き、こと切れた。
ヴェトワネットも同じく身体中を刺し貫かれて死んだ。フォランセでは若い娘の血を浴びて不老の儀式を行っていたヴェトワネットだったが、磨きをかけたその身体は血塗れの槍傷に見る影もない。
それでも、二陣、三陣と槍は突き出される。正面からも側面からも身体中のあらゆる部分が赤黒く染まる。
ゲイリアムズ伯爵が「宜しいか」と言って剣を振ってルネの目に切り付けた。一筋、二筋、開いていた両目がバックリ斬られ道化師のように赤く染まる。自身と夫人の復讐をなしたのだ。
リトワールの肩が揺れ涙が溢れる。腹の奥から胸にかけて熱くなる。全身に熱い湯が流れ込むような感覚を覚えた。
「終わった……」
兄のようなアントローサ公爵と父親のようなハルム伯爵がジグヴァンゼラの肩を組む。恐ろしい光景を目の当たりにしてくらりと目眩を起こしたジグヴァンゼラだったが、支えられて状を整えた。
「良くぞ耐えました」
ジャガレット侯爵が労う。アントローサ公爵は憂いを払拭した面持ちになった。
「ザカリー伯爵、これが領主の権限だ。自覚すれば己が身を律し、全ての問題に対処する気概を持てるだろう。もう、鬱々と過ごして許される立場ではないぞ」
ジグヴァンゼラはまだ恐れに震えている。
「大丈夫だ。あなたの心は時が解決する。あなたはまだ若く、十分に時はあり、神が助ける」
ジグヴァンゼラはただ俯いて呆然自失のまま館に入った。
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