聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

文字の大きさ
44 / 128
第一章 復讐とカリギュラの恋

(50) 第二皇子がやって来た

しおりを挟む


  夕食前のアペリティフタイムも豪華な宴席として始まった。鹿肉の薄切りソテーにガルニチュール付き合わせ野菜をのせたブルスケーレと香味野菜と鶏肉のパイ包み、フルーツ酵素のソースで食べる魚、マッシュポテトに兎肉の入った人形焼きとひき肉にアボカドを乗せたカナッペ、各種テリーヌが蓋の付いた鍋ごと出され、ソーセージと卵料理が並ぶ。 


  ゲイリアムズ夫妻が早々に帰って、残った五組の客は娼婦を入れて十人、アントローサ公爵の存在が明らかになってサレが朝から兵士までも使って準備した料理の数々だ。これにカブス鳥や赤羊のサラダとマルチョパルポーレのカットステーキやスープとデコレーションケーキを初めとするスイーツが並び、宮廷かと思うきらびやかさ。

アントローサ公爵が「お出でになりました。皆さん、オリバルート・ヨハネセン第二王子とヘシャス・ジャンヌ・ザカリー伯爵令嬢のご登場です」と声高に言う。

歓声が起きて場が華やぐ。居ずまいを正しながらも喜びが広がる。ジグヴァンゼラは久しく聞かなかったヘシャス・ジャンヌの名前に感電してグラスを落としかけた。

ヘシャス・ジャンヌ……姉様
生きておられたか……
とっくにルネに
殺されたものだとばかり……
いや、記憶の端からも消していた
プラチナの睫毛の
ヘシャス・ジャンヌ姉様……

ジグヴァンゼラの瞳を打つように微笑みと共に現れたヘシャス・ジャンヌは、オリバール・ルート子爵に手を導かれて現れた。金糸の織り込まれたベールを纏っているが、陶器とみまごう滑らかな白い肌、忍耐の五年間に更に伸びて床につくばかりのプラチナの豊かな髪は、どんな豪華なマントよりも美しく光輝く。ヘシャス・ジャンヌの登場は、聖女の神聖さを纏わせた輝かしい喜びの祭典となった。

一同が正式なカーテシーとボウ・アンド・スクレイプを行う。ジグヴァンゼラは深々と膝を曲げた。空気は栄光と尊厳に支配された。

オリバール・ルート子爵が
オリバルート・ヨハネセン第二王子……
昔、ヘシャス・ジャンヌを
婚約直前で断った相手は
確か第二王子の
オリバルート・ヨハネセン……

リトワールも衝撃を受けた。確かにオリバール・ルート子爵は存在する。

私は、招待状を出す前に
アントローサ公爵の
爵位を持つ属臣を調べ……
そうか
オリバール・ルート子爵は
アントローサ公爵の勧めで
参加することになって
遠路はるばる……

リトワールは奮えた。オリバール・ルート子爵はマークス・ボランズ伯爵、つまりアントローサ公爵と共に来たのだった。

パーティーの前から
アントローサ公爵は
この全てのことを画策して来たのか
なんと……

『表向きは我が主の嫁取りの御披露目パーティーとして、その実ヘシャス・ジャンヌ様の嫁ぎ先をご紹介願いたく、訳あって王都に出向くことが憚れますので、不躾なお願いの義を何卒……』

『此方からは私の代わりにオリバール・ルート子爵を寄越す。彼がヘシャス・ジャンヌ嬢を見聞するであろう。その意見を私が判断してからご紹介致すことにしよう』

私の拙き文を理解してくださって……
いや、それ以上の計画をもって……

手紙のやり取りを思い出して、相手の裏が読めなかった迂闊さを恥じると共にアントローサ公爵の気遣いに再び胸が熱くなり、活動力が漲る。

見捨てられていた訳ではなかった
調査してくれていたのだ
そして、救いの手立てをこのように
最後の詰めまで立てて……

リトワールの目の泥濘ぬかるみが拭われ始める。

「さて、お集まりの皆様」

アントローサ公爵が弁をふるう。

「この度はオリバルート・ヨハネセン第二王子の二度目の御成婚に向けて、ヘシャス・ジャンヌ・ロクファーレン・ザカリー侯爵令嬢を此処に新たな婚約者として選出致しましたことをお知らせします。正式な決定は王室会議を経なければなりませんが、再婚となるオリバルート・ヨハネセン第二王子の決定権によって間違いなきものと存じます。私も、ザカリー侯爵令嬢を第二王子妃に相応しいお人柄であると判断させて頂きました。今日のこの良き日を祝って、ご婚約の前祝いとしようではありませんか」

拍手が沸き起こる。

「なんと素晴らしい。幾千万の虹が天にかかるかと思えるほどだ」

「おめでとうございます殿下」

祝辞が飛び交う。

ジグヴァンゼラは涙を浮かべた。ヘシャス・ジャンヌと視線が絡み合う。

「さあ、今宵は楽しもう」 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

処理中です...