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第1章 狂人の恋
(1)花の妖精の恋
しおりを挟む暁にぼんやりと霧のかかった夢。時おりみる悪夢。老人の首を締める力もなく、毒に冒され、鼻や口から血を流しガウンを汚して死ぬ若く美しい男の姿が見えた。
行かなきゃ。これが夢だとしてもガーランド様の前に立つのは私。
私はサディ、孤児のサディよ。
深い霧。霧が晴れたら其処は宮殿のような造りの花の溢れるバルコニー。
「誰だ、お前は……」
しゃがれた声が背筋を逆撫でする。以前はしきりに呼ばれた総統様のお屋敷。お花を届けに
そして……
「サディにございます。花売りの」
「おお、お前か。相変わらず妖精のように美しい。もっと近くに寄れ」
妖精……捨てられた私を妖精と言ってくれるの。
「今宵は感謝のお花を捧げに参りました。小さくみすぼらしい花束ですが、出回ることの珍しい貴重な花で、小さき者である私にはこれだけで精一杯でございます。総統様、ガーランド様を始末なさるのですか」
「あの者にこの国を牛耳らせてはならん。お前は高見の見物と洒落込めばよい。今までの働きに対して報償を与えようではないか」
「では、総統様のお命を」
「何とっ。どういうことだ」
「ガーランド様は私の獲物でございます」
「あやつを守るために、この私を裏切ると言うのか」
「ふふふ、まさかそのような。私は幼い日に、愛する者の尊い血を流して生き延びました。総統様、あなた様は私が長年服して参りましたお方ですわ。生き延びるための対価としてこれ以上の尊い血が有りましょうか」
それに、総統様が私に与えた痛みも。
「この注射器には、満月会Rの鎮痙剤とは異なる私の愛が籠められておりますの。総統様には受け入れていただきとう存じますわ」
「愛だとっ。そんなものは愛ではない」
「愛でなければ私は何をされたのでしょう」
「やめろ」
「この花束はベラドンナ。花言葉は、男への死の贈り物ですのよ、総統様」
「あ、うう……」
霧が薄れ、目が覚めた。
あぁ、また夢なのね。うたた寝して回顧してしまったのね。私が総統様をこの手で殺めた時の。うふふ……
でも、ガーランド様は渡しませんわ。今は牢の中で自由はありませんが、この手で必ず……
必ず葬ります。
ガーランド様が最後に見るのはこの私。私を見たまま死なせてあげましょう。この国の頂点に立つ尊い血を流させて。
頭の中にしか存在しないベラドンナの、しおらしげに俯いた紫の花弁を見つめる。頬が内面から輝く。人知れず咲く花のように儚げな面立ちに潜む狂気。ベラドンナに重なるその危うさが、サディを淫靡な花のように息づかせている。
しかし花弁はいつの間にか色褪せて、まるで空気に触れて力を失う毒のように、目の前から消えた。
ほほ……ほほほ……夢幻のベラドンナ。私はサディ。ガーランド様、今暫くお待ちください。
ああ、そうそう、あの娘。あの美しい白い髪の娘ラナンタータ……私の生け贄。
全く関わりのなかった人間が、あるときから深く関わることがある。それが人生。殺人鬼サディとアルビノのラナンタータ。ふたりの光と闇が重なる時、生と死が融合する。
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