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第2章 イスパノスイザ アルフォンソ13世に乗って
(2)結婚式に出席するために大騒ぎ 2
しおりを挟む「本当に良く似合う。お人形さんみたいだよ、ラナンタータ」
ラルポアが運転席からちらりと視線を流し、ハンドルを切った。
「私は動かなければ人形と間違われるよ。マヌカンにならないかと言われた時、一緒にいたよね、ラルポアも。あ、ラルポアも言われたっけ」
1927年まで実際に十七年も続くパリコレだが、ラナンタータはパリのブティックで其のステージを歩いてみないかと言われたばかりだ。
当時はまだモデルという呼び方はなかった。フランスではオートクチュールの店のマヌカンがショーに出ていた為に、第二次世界大戦後までモデルという職業は確率されていない。
「人形とマヌカンは違うよラナンタータ。人様の前で美しく歩くのは難しい。多分、ラナンタータの個性を人形のようなものとして埋もれさせるには惜しいと、神様も思っているんだ。だから、マヌカンの声がかかったんだろう」
「ほう、個性か。いいこと言うね、美形男子は。ラナンタータ、勘違いするな。ラルポアは単にソコ抜けのいい奴なんだ。おまけに甘いマスクだから其処ら辺の女が行列作って順番に卒倒してるぞ。本気にするな」
「勘違いなんてしないよね、ラナンタータは。女性が僕に優しいのは高級車アルフォンソ十三世に乗ってるからさ。僕の車ではないんだけどね。ラナンタータ、其のチョーカーも良く似合うよ」
ラナンタータの首を飾るチョーカーは真珠で囲まれたカメオで、貝のレリーフは女神を象っている。甘い言葉が自然に出るラルポアに他意はない。そのことがカナンデラには少し悲しい。
「似合う、似合う。惚れ惚れする。しかし其の頭は……」
カナンデラがラナンタータの髪に言及するのは尤もな理由からだ。三人であんなに騒いで決めたドレスだったが、ラナンタータは今日の朝、水溶性の黒い絵の具を髪に塗った。アルビノ隠しのつもりだった。
「なんてこった。アルビノのお前が大好きなのに。大体お前は自分の価値を知らなすぎる」
「違うよ。私は、花嫁よりも目立っちゃいけないと思っただけだから」
「ラナンタータ。例え花嫁より目立っても隠さず堂々と自由に生きてほしい。僕がガードするよ」
「ラナンタータ、勘違いするな。ラルポアは仕事だからな。アルビノのお前だから守るんだぞ」
黒塗りの髪は却って逆効果だった。ファンデーションでも隠しきれないラナンタータの肌色や光に透ける睫毛を、粉を被ったように浮き上がらせる結果になった。
「今から行く村はどのくらいの規模。人口とか」
話題を変えた。
「出稼ぎ労働者を雇うくらい裕福な村だから、人口二、三百人くらいはいそうだな」
貴族制度を壊し王政を廃止したサザンダーレア最後の国王が、ザカリー領の出身とされている。
「カナンデラの親戚って、領主だったんだよね。最後の王様を育てた」
「百年前ね。ドラキュラくらいヤバい領主だったらしい。しかし、子孫の新郎新婦はその古い館でプチ・ホテルをやりたいと言っている。何を考えているんだろうね、今の若い奴らは……」
カナンデラは内心誉めてやりたい気分だが、予知能力はない。プチ・ホテル経営が儲かるのか破綻するのか予測できない。
「カナンデラだって十分若造だよぉん」
珍しく助手席を陣取ったラナンタータは、後部座席のカナンデラを振り返り、皮肉を込めて片方の唇を吊り上げた。
黒い車体にサーモンピンクの座席が気に入っている。世界一信頼できるショーファーの運転で、ご機嫌だ。
しかし、いつもの後部座席では折角の田舎の風景を楽しめない。それで、カナンデラの指定席にちゃっかり座り込んだのだ。仕方なしにカナンデラは後部座席に腰を下ろした。
「後部座席は視界が悪いな。チェッ、ラナンタータの悪魔め。折角の一泊旅行が……」
じゃびっくいやりぃぃ
れぴゅぶりくふらんせーずぅぅ
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