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第4章 一緒に世界を変えよう
(2)ヴァギー……
しおりを挟む「ヴァギー・アルマニャックは如何ですか」
シャンタンは落ち着いた顔で言った。18才とは言え跡目をついで半年になる。見てくれだけでもゴッドファーザーの貫禄を身に付けたい。
アポステルホーフェの次はお前だ
と言い出しかねない困った奴だからな
ヴァギーで潰そう
ま、こんなに大勢のボディーガードがいれば
手出しできないだろうけどね
残念だったな、カナンデラ・ザカリー
とほくそえんで、本人はどでかいマホガニーのデスクで背伸びのブラック珈琲を前にしている。
側近の一人がキャビネットからブランデーを出す。緻密にカットされ光るブランデーグラスは異世界ベネチア製だ。
「おほっ、最高だ、シャンタン会長。若いのに良くできたボスだ。チョコレートも付けてくれ」
そう言って事件の噺をあらかた済ませる頃には、カナンデラはヴァギー・アルマニャックに呑まれていた。酔った勢いでシャンタンをウタマロに誘う。
「ウタマロはパパキノシタの縄張りだが、その店とはどんな関係だ」
「おっと、シャンタン会長。それはまずい。お宅の手下に裏切り者がいる可能性がある。人払いをしてくれないか」
シャンタンが顔色を変えた。古株の側近ツェルシュを見る。ツェルシュは頷いて手下を率いて部屋を出た。
シャンタンはツェルシュの勘違いに思わず腰を浮かせて引き留めようとしたが、彼はドアを閉める前に「誰も近づけません」と訳知り顔で言った。
「いい教育してるなぁ、シャンタン坊や。流石はボスだ」
人目が無くなると会長から坊やに格下げする。しかも素早くシャンタンに近づく。
シャンタンにとって不都合なことは、ドアの外に警備がいることだ。大声を出せない。ゲイのセクハラを予想して助けを呼ぶなどゴッドファザーとしてもってのほかだ、と冷や汗をかく。
カナンデラは図々しくも既に軽々とシャンタンを担ぎ上げてソファーに運んだ。
「おっお前、殺されたいのか」
圧し殺した声でシャンタンが凄む。
「あはは、可愛いなぁ、シャンタン。俺様はお前にぞっこんさ」
シャンタンをソファーに横たえてその上に重なり、鼾をかきはじめた。
シャンタンは目を白黒させて、顔の横で鼾をかいているカナンデラに困惑した。ヴァギーの強い香りがシャンタンの鼻孔に絡まる。手を振りほどこうと試みるも、手錠のように離れない。
それもその筈カナンデラは、死んでも犯人は放すなと警察学校で訓練を受けた警察犬だ。
「お、お前、何のつもりだ。このまま寝る気か」
鼾は続く。シャンタンは両手首を強く掴まれたまま身動ぎもせずカナンデラを睨んでいたが、次第に疲れて身体の力も抜けた。
「はぁぁ、疲れた。どいて、重いよ」
呟いて、瞼を閉じる。ヴァギー・アルマニャックとアポステルホーフェの相まった濃厚な花園の香りにチョコレートの甘い香り。シャンタンはふっと香りに抱かれて意識が途切れた。
どのくらい経ったか、側近ツェルシュがノックした。
返事がない。
そっと開けて「会長……」と声をかける。
やはり返事はない。
拳銃を手にドアを素早く開けて室内に飛び込んだ。
その目に映ったものは、ソファーで抱き合って眠るシャンタン会長とカナンデラの姿だった。
「か、会長ぉ……」
ツェルシュは足音をたてずにそっと部屋を出ると、静かにドアを閉めた。顔が赤い。胸がドキドキする。
「んあ……誰か来たか……」
先に目覚めたカナンデラだったが、シャンタンのネクタイを緩めながら再び寝落ちした。
目覚めた時はすっかり朝になっていた。シャンタンは胸をはだけた状態で裸同然のカナンデラの腕枕で抱かれて寝ていた。真冬の室内は暖炉の火も燻って、寒々しく、無意識に互いの体温で温めあっていたのだった。
「あ……」
シャンタンが目覚めた。カナンデラの笑顔が近い。
「おぉ、お早うイットガール。お前のヴァギー……」
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