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第3章 ブガッティの女、猛烈に愛しているぜ
(22)オカマ掘られちゃう
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ラルポアとしては、人の多い美術館にラナンタータを連れていくのは気が引けていた。
ラナンタータが窓から飛び出そうとしている場面に遭遇したからこそ、美術館へ行きたいと言う嘘を信じたふりをして街に出たのだ。最初からカナンデラの事務所に行くつもりなのはわかっている。
アントローサ総監に禁止されていたが、家にいても襲撃を受けるのなら、カナンデラと共に守る方が安心できる。
アントローサ総監の娘を襲撃した三人の侵入者は、口を貝のように閉じている。
ウタマロで捕らえた男アトーは獄中死して、聞き込みに行ったヴァルラケラピスメンバーと目される二人は死んでいた。
その上、イサドラ・ナリスの件で精神病院から通報があった。
「イサドラ・ナリスが逃げた。女医を殺して精神病院を抜け出したそうだ」
本庁の一課、電話応対した係の声に弾かれて刑事部屋が動く。
「イサドラ・ナリスって、あの花屋夫婦殺人事件の」
「あれ……さっきのブガッティの女、やけにいい女だったけど……」
「イサドラ・ナリスだ」
「一緒にいた男は」
アントローサの腹心、ゴヅィーレ警部がキーツ・ナージに訊く。
「何処で見た」
「双子マジシャンの劇場から出てくる処を。そのカイマとアベロが発疹を起こして病院行きなんですが、酩酊状態なので何だか電解物質とかいうやつを打って暫く様子を観るとか。昼後に訪ねる、つもりです」
この時代にはリンゲル点滴はまだ一般化されておらず、発明家リンガーは各地の大学を放浪してその考えと仕組みを広めていた。そして、この世界にも薄く広まり始めていた。
「病院に連絡してみろ。何かあったら間違いない。イサドラ・ナリスの仕業だ。いや、イサドラ・ナリスが噛んでいるに違いない。皆、よく聞け。イサドラ・ナリスは重要参考人として指命手配だ。精神病院の女医殺害事件を立ち上げる。前現確認に行け。イサドラ・ナリスは女医の舌を噛んで拘束服で入れ替わったらしい。裏を取れ。逃亡犯を連れ戻し、裁判を受けさせろ。イサドラ・ナリスに、もう精神病では通用しないと思い知らせてやれ」
「「「おおっ」」」
やおら士気が上がる。行く先々で検討のつかない殺人事件と急死が重なっていた。デルタン通りの凄惨な殺人事件も、犯人に繋がる情報はない。
「あっ、ゴヅィーレ警部。イサドラ・ナリスと一緒にいた男は、軽くですが、びっこを引いていました。金髪で背丈があり、肩幅も広く、精悍な顔つき。デルタン通りのアパルトマンの女の首をへし折った犯人と重なります」
びっこの男は、指命手配されたイサドラ・ナリスとサニーと共にボナペティのテーブルを囲んでいた。
サングラスの三人組なんてボナペティでは、珍しくもない。その筋の者たちも頻繁に利用する店だ。
「あ、アランちゃん。なんか用ぉ」
カナンデラは似合わない女っぽい言い回しで事務所の電話を受けている。
ラナンタータとラルポアは其々の定位置に着くと、ラナンタータは窓際から外を眺めながら、ラルポアはカナンデラの一人用ソファーの肘掛けに腰を下ろして、カナンデラの電話に意識を向ける。
「何、イサドラ・ナリスが来た。常連だったのか。わかった。何、撃ち合いだと、何でまた、わかった。ボナペティだな、直ぐに行く
電話を切りしなカナンデラは既に動き出したラルポアに笑いかけた。
「いい処にいてくれたよ、兄弟」
ラルポアよりも先に走り出したラナンタータはドアの外に飛び出した。
「ラナンタータ、戻れ。お嬢様はお留守番だ。ちゃんと内鍵掛けてれば独りでも安心だろ」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ。二人にしたらラルポアがカナンデラにオカマ掘られちゃう。守ってあげなきゃ」
「「はぁ……」」
ラナンタータが窓から飛び出そうとしている場面に遭遇したからこそ、美術館へ行きたいと言う嘘を信じたふりをして街に出たのだ。最初からカナンデラの事務所に行くつもりなのはわかっている。
アントローサ総監に禁止されていたが、家にいても襲撃を受けるのなら、カナンデラと共に守る方が安心できる。
アントローサ総監の娘を襲撃した三人の侵入者は、口を貝のように閉じている。
ウタマロで捕らえた男アトーは獄中死して、聞き込みに行ったヴァルラケラピスメンバーと目される二人は死んでいた。
その上、イサドラ・ナリスの件で精神病院から通報があった。
「イサドラ・ナリスが逃げた。女医を殺して精神病院を抜け出したそうだ」
本庁の一課、電話応対した係の声に弾かれて刑事部屋が動く。
「イサドラ・ナリスって、あの花屋夫婦殺人事件の」
「あれ……さっきのブガッティの女、やけにいい女だったけど……」
「イサドラ・ナリスだ」
「一緒にいた男は」
アントローサの腹心、ゴヅィーレ警部がキーツ・ナージに訊く。
「何処で見た」
「双子マジシャンの劇場から出てくる処を。そのカイマとアベロが発疹を起こして病院行きなんですが、酩酊状態なので何だか電解物質とかいうやつを打って暫く様子を観るとか。昼後に訪ねる、つもりです」
この時代にはリンゲル点滴はまだ一般化されておらず、発明家リンガーは各地の大学を放浪してその考えと仕組みを広めていた。そして、この世界にも薄く広まり始めていた。
「病院に連絡してみろ。何かあったら間違いない。イサドラ・ナリスの仕業だ。いや、イサドラ・ナリスが噛んでいるに違いない。皆、よく聞け。イサドラ・ナリスは重要参考人として指命手配だ。精神病院の女医殺害事件を立ち上げる。前現確認に行け。イサドラ・ナリスは女医の舌を噛んで拘束服で入れ替わったらしい。裏を取れ。逃亡犯を連れ戻し、裁判を受けさせろ。イサドラ・ナリスに、もう精神病では通用しないと思い知らせてやれ」
「「「おおっ」」」
やおら士気が上がる。行く先々で検討のつかない殺人事件と急死が重なっていた。デルタン通りの凄惨な殺人事件も、犯人に繋がる情報はない。
「あっ、ゴヅィーレ警部。イサドラ・ナリスと一緒にいた男は、軽くですが、びっこを引いていました。金髪で背丈があり、肩幅も広く、精悍な顔つき。デルタン通りのアパルトマンの女の首をへし折った犯人と重なります」
びっこの男は、指命手配されたイサドラ・ナリスとサニーと共にボナペティのテーブルを囲んでいた。
サングラスの三人組なんてボナペティでは、珍しくもない。その筋の者たちも頻繁に利用する店だ。
「あ、アランちゃん。なんか用ぉ」
カナンデラは似合わない女っぽい言い回しで事務所の電話を受けている。
ラナンタータとラルポアは其々の定位置に着くと、ラナンタータは窓際から外を眺めながら、ラルポアはカナンデラの一人用ソファーの肘掛けに腰を下ろして、カナンデラの電話に意識を向ける。
「何、イサドラ・ナリスが来た。常連だったのか。わかった。何、撃ち合いだと、何でまた、わかった。ボナペティだな、直ぐに行く
電話を切りしなカナンデラは既に動き出したラルポアに笑いかけた。
「いい処にいてくれたよ、兄弟」
ラルポアよりも先に走り出したラナンタータはドアの外に飛び出した。
「ラナンタータ、戻れ。お嬢様はお留守番だ。ちゃんと内鍵掛けてれば独りでも安心だろ」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ。二人にしたらラルポアがカナンデラにオカマ掘られちゃう。守ってあげなきゃ」
「「はぁ……」」
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