毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第5章 婚前交渉ヤバ過ぎる

(1)おねだり

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  カナンデラと朝まで一緒に過ごした。呆然としていた頭が、シャワーで目覚める。

カナンデラは
会社を持ちたがっている
なんで俺様が
カナンデラの言いなりに
ならなきゃならないんだよ
カナンデラは知らないだろうけど
手下を寄越して事務所を
助けてやったじゃないか
俺様はゴッドファーザーだぞ
この街は市長が表のトップ
裏のトップは俺様なのに
カナンデラの奴……カナンデラの奴
必ずセラ・カポネをぶっ潰して
俺様にくれるって言うけど
本当に出来るのかよ
あのアメリカ外道の
アル・カポネの親戚カポネだぞ
お前のタマの方が
ヤバいんじゃないのか
あ……
あいつがヤバかろうが何だろうが
セラ・カポネの悶着が
片付けばいいじゃないか
危ない時はまた助けてやれば

  シャンタンは独り言呟いて窓のそとを見た。ガラシュリッヒ・シュロスのカジノは、朝までの客で賑わう。

  夕べ、側近ツェルシュはカナンデラと入れ違いに会長室を出て、会長室には誰も近づかないように命令した後、総務室のデスクで経理と全ての采配を済ませ、売り上げは総務室の金庫に一時保管した。

  総務の金庫も大きい方だが、売り上げは押し込まなければ入りきらない。仕方なくカジノのディーラーに「負けが込んでいる客に少し勝たせてやれ」と言ったりする。

「うちはインチキはしないんで、どのように勝たせれば良いのか……負ける客は勝たせてやろうとこちらが努力しても勝手に負けるんですよ」

「良いから。明日の暮らしに困りそうな客には、手を抜いてやれ」

「うちはそんな貧乏な客は入れませんけど」

「なら、誕生日の客などに、適当で良いから山でも当てさせてやれ。宣伝だ」

  そう言って金庫に入りきらない金の一部を出す。残りは酒屋の仕入れ金や備品など、諸々の費用にまわし、品物は開店前に届く。それから、総務室のソファーで寝た。

一階フロアにバンクを作ろう
ガラシュリッヒ・バンクだ
そうでもしなければ
金に埋もれてしまう
俺の金なら
施設の子供たちに
夢を見せてやるのだが

  魔の城ガラシュリッヒ・シュロスを襲う者はいない。長い廊下の突き当たりの壁から戦場用重機関銃に撃たれることになるからだ。この街のマフィアだけでなく、世界中のマフィアが知っている事実だ。

  1927年にはアメリカのラスベガスもまだ砂漠だった。世界各地でカジノは合法化されておらず、ガラシュリッヒ・シュロスには世界の金持ちや王族が連日カジノやレビューを楽しみにしてやって来る。どうかすると、異世界の金持ちユダヤ人などもお忍びでやって来るのだ。

  フランスのムーランルージュに負けない大スターを生み出すショーパブは、殺人鬼イサドラ・ナリスを一目見たかったという客で賑わう。

  イサドラをステージに立たせることができるのなら、あるいはテーブルに呼んで乾杯できるのなら「 億の金を出す」と言う好き者もいる。愛人として囲いたいと言う金満家は10本の指に余る。

  シャンタンは着替えを済ませて電話をかけた。

「車を回してくれ」

  カナンデラに邪魔されなければ、毎日、夜明けには帰宅する。それが最近乱れて、カナンデラはソファーに眠りに来る。

  微かな鼾を耳元で聞かされる羽目になるが、カナンデラの存在は映画より刺激的だ。自動小銃を奪って行った。次は何をするつもりかと訊くと『お前にセラ・カポネをくれてやる』と言う。

痺れたよ
カナンデラ・ザカリー
最高だ
でも……あのバカ…… 

『シャンタン、シャンタン可愛い。とっても可愛い。でも俺様、会えない時は寂しくて寂しくて』

『動くなっ。今度は何が欲しいんだよ』

『好きだよ、シャンタン。俺様に会社をいっこ持たせてくれ。世界を変える第一歩にするんだ』



  側近ツェルシュが総務室の金庫から札束をワゴンに山積みにして運んで来た。シャンタンは何気なくその金を眺めて、ふと口走る。

「バッグに積めてカナンデラの事務所に運べ」

「か、会長ぉ。そこまで貢ぐなんて……」

「貢ぐ……違あああう。何てことを言うんだ。貢ぐんじゃないぞ。会社を作るんだ。カナンデラに新しい会社を作らせる。何ならお前が手伝ってやれ」

「私がですか。貢ための会社を」

「ううう……お前から見れば俺様、貢ぐちゃんなのか……いいや、違う。違う、違う違ぁぁぁう。セラ・カポネ問題が片付くなら会社のひとつやふたつ何でもないさ。あの命知らずのカナンデラ・ザカリーのことだもん。セラ・カポネの件は楽しみに待つことにするんだっ。わかったらちゃんと」

「何の会社ですか」

「わからない。けど、カナンデラはカポネズ・ファミーユを解体して新会社を設立したいと言っている」

「やっぱり見たぐための会社なんじゃないですか。今に、金だけじゃあ済まなそうですが」

  側近ツェルシュの脳裏にキーツの顔が浮かぶ。

確か二年前……
ザカリー探偵が警察官だった頃……



  イサドラ・ナリスの微笑みに殺意を抱きながら、顔に出さずにエマルは退室した。 

奥様もフランスに
ご一緒されるかしら
まさかフランスで
奥様を殺したりは……
イサドラ・ナリスが
稀代の殺人鬼だとしても
奥様には殺される謂れはないもの
その点だけはあの殺人鬼でも
信頼できるはずよね


  朝日が斜めにはいる階段をラナンタータは駆け上った。

「お早う、カナンデラ」

「おお、悪魔ちゃん。お前の望みが叶うぞ。シャンタン坊やにおねだりしてきたからな」

「おねだり。おねだりって何を」

「会社だよ。欲しいって言ってたじゃないか。処で、何の会社を作るんだ。俺様、シャンタンに追及されて困ったぞ」

「えへへ、流石は男妾。すごいことおねだりしちゃって。できればこの星ごとくれないかな、一回ぶっ潰すのになぁ」





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