毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

文字の大きさ
98 / 165
第5章 婚前交渉ヤバ過ぎる

(22)ポンテンカス

しおりを挟む
「あんな連れ出し方って子供扱いだよね」

「僕は本来ならもう少しスマートに促せたけど、言い訳はよす」 

「でも、何でわかったの」


イスパノスイザのアルフォンソ13世が風を切る。


「シャンタンの手下がルノーに乗る君を見たらしい。カナンデラ所長から連絡が来た。デカタンス・ジョークだとピンときた。もう少し遅かったら探せない処へ連れていかれる処だった」  

「何で私がローランの別荘に行くと思うの。お友達になったばかりなのに」

「その……女の人は一目惚れする大胆な生き物だから、もしかしたらラナンタータも直ぐにその……」

「ラルポアはたまたま大胆なタイプに一目惚れされてばかりでそう思い込んでいるだけよね」

「待って、ラナンタータ。子供が……」


暗い夜道のガス灯の届かない建物の角に、小さな白いものが動く。イスパノスイザがゆっくり停まる。ヨチヨチ歩きの子供だ。息が白い。


「待ってて」


ラルポアがコンパーチブルの屋根を下ろし、車体の側面を跨いで下りた。子供はびくついたが、優しく微笑んで抱き上げるとラルポアの頬に自分の頬を寄せた。寒さに震えている。


「かなり冷えている」


ラナンタータの腕に移った子供は、抱っこされた胸の辺りで小さなくしゃみをした。ラルポアが急いで屋根を立てる。


「警察に」

「嫌だ、ラルポア。警察に行ったら門限破りがバレる。嫌だ、外出禁止は嫌だ」

「覚悟してたんじゃないのか」


ラルポアはラナンタータを無視して警察に向かった。


ゼノリアの息子、一歳半のミシェルレイは捜索届けが出ていた。母親のゼノリアがラナンタータの抱いている子供を見て駆け寄る。


「ミシェルレイ。無事だったのね。ナニーは、ナニーはどうしたの」
 

直ぐに殺傷死体発見の電話が鳴る。ブルンチャスがミシェルレイを抱き抱えたゼノリアに言った。


「ゼノリアさん、思い当たることを全て話してくれるまで、此処から帰れませんよ。それからお嬢様方、お父様がいらっしゃいますから……」


一端帰宅した警視総監が着替えもそこそこにやって来た。ラナンタータはアントローサの言葉を遮る。


「お父様、ラルポアは悪くないの。私が無理に」

「わかっている、ラナンタータ。お前がラルポアを庇う気持ちは十分わかっているよ、ラナンタータ。お前は可愛い娘だ。どんな願いも叶えてやりたい。二人一緒なら、もう門限を気にしないで良い。お前も大人なんだから卒業した時点でそうすべきだったかもしれない。ラルポア、ラナンタータのことは君に一任する。私の愛娘を宜しく頼むよ」

アントローサは笑顔でラルポアと握手を交わした。

ラルポアは面食らって微笑みが痙攣る。ラナンタータのどや顔でひくひく痙攣るのと同じ痙攣だが、気持ちにはだいぶズレがある。

一課に電話が入った。
ジョスリン組のビルが爆破されたと刑事部屋が騒がしくなり、アントローサ総監の下でゴツィーレ警部が陣頭指揮を取る。


「お前たちは帰りなさい。私は現場に行く。帰りは何時になるかわからない。ラナンタータ、もう無茶な真似はやめるんだ。任せたぞ、ラルポア」





カナンデラはトレンチコートに腕を通しながら歩く。


「シャンタン、遅くなる。先に安め。手下を借りるぞ」


ツェルシュが手配した車と黒服の軍団が駐車場にずらりと並ぶ。


「30人……こんなに要らん。3人で十分だ」


気になっていたジョスリン組で
再びビル爆破とは
5年前の事件を彷彿とさせるじゃないか。
グァルヴファイレスの残党か。
何処かに根城が出来たか
誰か、爆破の技術を持っている奴が
5年ぶりに復活した訳だ。
そいつは誰だ。
何者だ……






「ラルポア、これは……」


走り出したイスパノスイザの座席から一通の封筒を拾った。


「あのミシェルレイが持っていたのかな。気づかなかったけど」

「多分、そうよ。あ、犯行予告だ。ゼノリアが自白しない限り、ジョスリン組のシマを爆破してミシェルレイを……自白って……」

「僕たちも現場に行こう。アントローサ総監に渡すんだ」





爆破されたビルの周辺には人だかりができていた。


「こんなものでは終わらないぞ、ゼノリア。ジョスリンはアルビノの送迎を護衛していた。あの山で殺人を行えるのはお前だ、ゼノリア。お前との血で血を洗う戦いに勝って、必ず親父の復讐を果たす」


男は軽くくしゃみをした。
その目の前にフォードが停まる。

人だかりを囲むように黒いフォードがずらりと並ぶ。その一台からカナンデラが下り、黒服の軍団が人だかりに割って入る。騒ぎが起きた。

数人の男を捕らえた黒服たちがフォードに押し入れようとした時、アントローサ総監の声が飛んだ。


「カナンデラ、獲物を寄越せ」


くしゃみ男が腕をほどこうと振り回す。黒服マフィアと警察官が協力して男を押さえる。


「お前、見た顔だ。グァルヴファイレスの息子か。ラナンタータ誘拐に失敗した奴」


カナンデラが訊く。


「ダンディー探偵か。お前から先に仕留めておくべきだった」

「自白同然だなぁ、ポンテンカス。お前の脳ミソじゃあバカの一つ覚えのビル爆破するしかないんだな」

「俺の技術は世界最高峰だ」

「しかしこの爆破は失敗だよな、最高峰」

「何を。4ヶ所同時爆破させたんだぞ。それの何処が失敗だ」

「わははは、ポンテンカス。自白したな」

「でかした、ザカリー。刑事に戻れ」

ブルンチャスが微笑む。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...