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第5章 婚前交渉ヤバ過ぎる
(23)私に任せて
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「イサドラから連絡があるかもしれないから、私が電話を取る」
赤い唇をわざとらしくアヒル口にして
ピクピクさせるなんて
ラナンタータ
何を考えているんだ。
今朝、デパートで買ったばかりの
真っ赤な口紅だけど
鏡に映えやすいように選んだのだが
こんなに大喜びするなら
あのピンク色にすべきだった。
「派手すぎる。悪趣味だ。おっぱい大きい人には似合うと思う。酷い。私のおっぱい小さいのに。ラルポアの美的センスを疑う」
待って……
何故、おっぱいの話になる……
「男子トイレの鏡に何か書くんだろう、其れで」
「そうだけど、可愛い妹にプレゼントする口紅がこんなに真っ赤っかって、何か隠れた願望があるんだよね、ラルポア」
「ないない。君には他の色を選ぶよ、ラナンタータ。可愛い色を。鏡に文字を書くと言うから、鏡映りの良い色を選んだのに」
ラナンタータは指で耳栓をしてアヒル口をピクピク動かす。その顔が可笑しくて、ラルポアの言い訳が続かない。
電話が鳴った。
「はい。カナンデラ・ザカリー探偵事務所です。……いえ、結婚相談所ではございません。売れ残りの美形男子が二人おりますが、一人はジゴロ体質で、もう一人は浮気者で口煩い母親タイプです。如何ですか……あ、左様でございますか。かなり美形ですのに。はい。顔だけで生きておりますが、あ、いらない。わかりました。はい。ご機嫌よう」
「何のセールだ」
ラルポアが顔を半分覆う。
「また売れ残ったね。私の傍にいられて嬉しいでしょ。ほほほ。これで三件目の電話だ。イサドラを待っているのに、あ、そうだ。マカロンを食べよう。この前、イサドラの小間使いが持って来たのがあったはずだ」
キャビネットを開く。マカロンの箱は見えているのに手が届かない。ラルポアがラナンタータの背後から手を伸ばす。
「ラルポア、これは」
ラナンタータが口紅をマカロンの箱のあったスペースに放り投げた。
「見えはしないけどあるのがわかれば取れる」
ラルポアは口紅を取った。その口紅を受け取ってラナンタータは楽しい遊びを思い付いた子供みたいにルールを作り始める。
「もし、ハンカチなら広げて見ること」
「お菓子の包み紙でも広げて見るよ」
マカロンの箱を開ける。
「オリエント急行ならフランスの F」
「 F の次に時間も入れて」
お茶を淹れる。
「車なら国境の橋を渡るよね」
「山道も河川も国境警備兵がいる。此の国から検問破りでフランス入国は難しい。イサドラは危険を冒さずに入国できる方法があるかもしれない。何にしろ国境越えがネックのはずだから、もしも君に何かあれば考えうる限りのことを……」
「もしもって言った……」
悪戯っぽい顔でラルポアを見るラナンタータに、ラルポアは悪態を吐く。
「駄目だ、ラナンタータ。自ら罠に飛び込むなんて」
いきなりドアが開く。二人だけの時は内鍵を掛けている。カナンデラは音を立てずに鍵を開ける名人らしい。
「お早う、お二人さん。婚前交渉は済んだか」
「「はああ……」」
「照れなくても良いの。夕べ、アントローサ皇帝から門限無しのお墨付きをもらったんだろ。婚約成立、おめでとう。あの店でラナンタータがラルポアの妻だと言った時は冗談だと思っていたんだ。あはは」
「冗談だよ、カナン」
カナンデラは指定席に座って号外新聞を振る。大きな見出しで掃除屋ジョスリン冤罪と書かれた号外は、夕べのビル爆破の犯人逮捕の際に活躍したカナンデラが笑っている。
「俺様、自分で言うのもなんだけど写真映りはいまいちだなぁ。こんなに良い男なのに。ほれ、見てみな」
ヒラヒラと手渡された号外に、ミシェルレイを抱く美しい母親の写真もあった。
「これでジョスリンの死刑判決の取り消しは決まりだ。ゼノリアの犯行だったのは残念だが」
「ミシェルレイはどうなるの」
「ジョスリンが出てくるさ」
「ジョスリンに会えるのね。嬉しい。ね、ラルポア。出所祝いしよう。デカタンス・ジョークで」
「う、うん。そうだね」
「わあい。朝まで騒ご」
ラナンタータは有頂天で、真っ青なラルポアがこっそりため息を吐いたことに気づかない。ラルポアは、ジョスリンとの過去がバレることを恐れ、ラナンタータの門限無しのお守りというブラック企業並みショーファー兼ボディーガード業務に、独り暗くなった。
僕はフェイドアウトしそうな
彼女の名前すら思い出せない。
参った。
暫く身を慎んでいたせいで
脳ボケが始まったか……
電話が鳴った。
「私が出る。……はい。カナン……イサドラ……」
ラルポアが動く。ラナンタータの握る受話器に耳を寄せた。カナンデラもマネキンのように止まる。
「ええ、イサドラ・ナリスよ。どうかしら、ラナンタータお嬢様。私の提案は考えてくださったかしら」
「ええ。私、あなたと契約する」
ラルポアがラナンタータを抱き締めた。
「駄目だ。ラナンタータは渡さない」
「ふふ、ラルポアさん。私はお嬢様を傷つける気はないけど、やんちゃなアルビノを狩人から守るのは大変だわ。あなたも一緒にいらしてくださればお互いに安心できるわよね」
カナンデラが受話器を奪った。
「こいつら婚前交渉まだらしい」
何を言うんだ、所長。
それは関係ないだろう。
「私に任せて」
やだ、ラルポアったら可愛い妹に
こんな真っ赤っかの口紅だなんて
何か隠れた願望でもあるんじゃない。
例えば私のおっぱい小さいから
大きくなれとか
例えば私のおっぱいがぺちゃぱいだから
キョニュになれとか
例えば私のおっぱいが貧乳だから
牧場を買ってあげたいとか……
一生触らせてあげない。
赤い唇をわざとらしくアヒル口にして
ピクピクさせるなんて
ラナンタータ
何を考えているんだ。
今朝、デパートで買ったばかりの
真っ赤な口紅だけど
鏡に映えやすいように選んだのだが
こんなに大喜びするなら
あのピンク色にすべきだった。
「派手すぎる。悪趣味だ。おっぱい大きい人には似合うと思う。酷い。私のおっぱい小さいのに。ラルポアの美的センスを疑う」
待って……
何故、おっぱいの話になる……
「男子トイレの鏡に何か書くんだろう、其れで」
「そうだけど、可愛い妹にプレゼントする口紅がこんなに真っ赤っかって、何か隠れた願望があるんだよね、ラルポア」
「ないない。君には他の色を選ぶよ、ラナンタータ。可愛い色を。鏡に文字を書くと言うから、鏡映りの良い色を選んだのに」
ラナンタータは指で耳栓をしてアヒル口をピクピク動かす。その顔が可笑しくて、ラルポアの言い訳が続かない。
電話が鳴った。
「はい。カナンデラ・ザカリー探偵事務所です。……いえ、結婚相談所ではございません。売れ残りの美形男子が二人おりますが、一人はジゴロ体質で、もう一人は浮気者で口煩い母親タイプです。如何ですか……あ、左様でございますか。かなり美形ですのに。はい。顔だけで生きておりますが、あ、いらない。わかりました。はい。ご機嫌よう」
「何のセールだ」
ラルポアが顔を半分覆う。
「また売れ残ったね。私の傍にいられて嬉しいでしょ。ほほほ。これで三件目の電話だ。イサドラを待っているのに、あ、そうだ。マカロンを食べよう。この前、イサドラの小間使いが持って来たのがあったはずだ」
キャビネットを開く。マカロンの箱は見えているのに手が届かない。ラルポアがラナンタータの背後から手を伸ばす。
「ラルポア、これは」
ラナンタータが口紅をマカロンの箱のあったスペースに放り投げた。
「見えはしないけどあるのがわかれば取れる」
ラルポアは口紅を取った。その口紅を受け取ってラナンタータは楽しい遊びを思い付いた子供みたいにルールを作り始める。
「もし、ハンカチなら広げて見ること」
「お菓子の包み紙でも広げて見るよ」
マカロンの箱を開ける。
「オリエント急行ならフランスの F」
「 F の次に時間も入れて」
お茶を淹れる。
「車なら国境の橋を渡るよね」
「山道も河川も国境警備兵がいる。此の国から検問破りでフランス入国は難しい。イサドラは危険を冒さずに入国できる方法があるかもしれない。何にしろ国境越えがネックのはずだから、もしも君に何かあれば考えうる限りのことを……」
「もしもって言った……」
悪戯っぽい顔でラルポアを見るラナンタータに、ラルポアは悪態を吐く。
「駄目だ、ラナンタータ。自ら罠に飛び込むなんて」
いきなりドアが開く。二人だけの時は内鍵を掛けている。カナンデラは音を立てずに鍵を開ける名人らしい。
「お早う、お二人さん。婚前交渉は済んだか」
「「はああ……」」
「照れなくても良いの。夕べ、アントローサ皇帝から門限無しのお墨付きをもらったんだろ。婚約成立、おめでとう。あの店でラナンタータがラルポアの妻だと言った時は冗談だと思っていたんだ。あはは」
「冗談だよ、カナン」
カナンデラは指定席に座って号外新聞を振る。大きな見出しで掃除屋ジョスリン冤罪と書かれた号外は、夕べのビル爆破の犯人逮捕の際に活躍したカナンデラが笑っている。
「俺様、自分で言うのもなんだけど写真映りはいまいちだなぁ。こんなに良い男なのに。ほれ、見てみな」
ヒラヒラと手渡された号外に、ミシェルレイを抱く美しい母親の写真もあった。
「これでジョスリンの死刑判決の取り消しは決まりだ。ゼノリアの犯行だったのは残念だが」
「ミシェルレイはどうなるの」
「ジョスリンが出てくるさ」
「ジョスリンに会えるのね。嬉しい。ね、ラルポア。出所祝いしよう。デカタンス・ジョークで」
「う、うん。そうだね」
「わあい。朝まで騒ご」
ラナンタータは有頂天で、真っ青なラルポアがこっそりため息を吐いたことに気づかない。ラルポアは、ジョスリンとの過去がバレることを恐れ、ラナンタータの門限無しのお守りというブラック企業並みショーファー兼ボディーガード業務に、独り暗くなった。
僕はフェイドアウトしそうな
彼女の名前すら思い出せない。
参った。
暫く身を慎んでいたせいで
脳ボケが始まったか……
電話が鳴った。
「私が出る。……はい。カナン……イサドラ……」
ラルポアが動く。ラナンタータの握る受話器に耳を寄せた。カナンデラもマネキンのように止まる。
「ええ、イサドラ・ナリスよ。どうかしら、ラナンタータお嬢様。私の提案は考えてくださったかしら」
「ええ。私、あなたと契約する」
ラルポアがラナンタータを抱き締めた。
「駄目だ。ラナンタータは渡さない」
「ふふ、ラルポアさん。私はお嬢様を傷つける気はないけど、やんちゃなアルビノを狩人から守るのは大変だわ。あなたも一緒にいらしてくださればお互いに安心できるわよね」
カナンデラが受話器を奪った。
「こいつら婚前交渉まだらしい」
何を言うんだ、所長。
それは関係ないだろう。
「私に任せて」
やだ、ラルポアったら可愛い妹に
こんな真っ赤っかの口紅だなんて
何か隠れた願望でもあるんじゃない。
例えば私のおっぱい小さいから
大きくなれとか
例えば私のおっぱいがぺちゃぱいだから
キョニュになれとか
例えば私のおっぱいが貧乳だから
牧場を買ってあげたいとか……
一生触らせてあげない。
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