毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

文字の大きさ
145 / 165
第7章 投獄されたお姫様 

(23)ヒーロー

しおりを挟む

  温風が各部屋に入り始めた。ラナンタータは暗い通風口を這いずって階段の縦穴に気づく。そこには梯子段があった。


まるで救いの手立てみたい
ラルポアとカナンデラは
私がこんな処を
這いずり回ったって知ったら驚くよね
褒めろよ、私を
ただで殺されるような
ラナンタータ様ではないのよ
おほほ
しかしあの二人は懲罰ものよっ
私の苦境に現れないなんて
ヒーロー失格よ
あ、そうだ、懲罰なら、うひひ
カナンデラの財宝でおフランスに行こう
おフランスで三人で遊び回ろう
あ、シャンタンも一緒か
なんだ、シャンタンが一緒なら
カナンはどスケベ直行便だから
外には出ないな、冬籠もりの熊だ
イチャラブイチャラブするんだ
飽きないのかな
いいや、懲罰罰金刑だ
ラルポアと二人か
ラルポアは優しいけど
ラルポアはカナンも一緒でなければ
つまらないのだろうな
ラルポアは私とではなくて
結婚を考えている人と
一緒にいたいだろうし
だったらラルポアには
私といることが懲罰なのか
ちょっぴり悲しくなる


  通風口の網戸越しにリヒターの声が聞こえる。


「ローラン、愛している。さっきは嘘をついたんだ。君を守る為に」


えっ……ローランがいるの
何してるの、リヒターは悪人よ
私に何かを盛って眠らせて
ハクビシンの檻に入れたんだから
頭、少し痛い
うわあ、ガンガンしてきたよ
死ぬかもしれない
ハンカチにクロロホルムを
染み込ませるやり方では
気絶はしないらしいけど
何を使ったんだろ
たぶん、麻酔系の何かよね
たぶんね、たぶん
早く病院に行かなくちゃ死ぬかも


「嘘……リヒター所長、それこそ嘘でしょう。あなたは僕を甘く見ている。僕は騙されない。もうあなたを信じない。カナンデラさんの方が正しい。ラナンタータの居場所を教えてください」


ローラン、私は此処よ
あ、カナンデラ……来てくれたのね
いつも単細胞ってバカにしてごめん
こんなときは単細胞でも頼りになるんだね
なあんだ、ラルポアと一緒か
カナンデラのアホは見かけはお洒落で
ないすばでぃで格好良いけど
オツム空っぽマネキンだから
このラナンタータ様の頭脳がなければ
一人前ではないのよ、おほほほ
私はお嬢様育ちで運動苦手だから
カナンデラとは二人三脚で一人前ってか
ありゃ……じゃあ、じゃあ、ラルポアは
いつもいつでも絵になる美形男子は
頭良くて武芸百般って……
私は子供の頃から
何でもラルポアに教わって
十四才で生まれてはじめて
学園に通うことになっても
授業に遅れはなかった
却って進んでいた方
ラルポアは教え上手だ
合気道も教えてくれた
私は運動音痴だから
上手くないけどさ……
ラルポアのことは考えるのはよそう


「ローラン、本当だよ。君だけだ。カナンデラ・ザカリーめ、私はあいつを許さない。ラルポア・ミジェールとルパンも……」

「それなら龍花さんは許すんですね」

「龍花は……」


龍花さんもいるの
あ、ゲルトルデが来た
いやだ、出るタイミングを逃したけど
この網戸は外れるかな


「リヒター。何という格好をしているんだ」

「うっ、ゲルトルデ。こ、これは……」


へええ、リヒターが言葉に詰まった
あの悪党が言葉に詰まるなんて
もしかしたら
まさかゲルトルデに見られて
恥ずかしい格好をしているとか
ぶひひっ
うーん、椅子が邪魔でよく見えない
声だけで判断するしかないけどぉ
惜しいなぁぁ


「リヒター所長、お前、ラナンタータを拐って何をするつもりだ。よもやとは思うが、ヴァルラケラピスと繋がっているのではあるまいな」

「ううっ。ゲルトルデ……」

「吐け。ラナンタータは何処だ。あの子は私の妹だ。お前、この場で死ぬか」


ゲルトルデ素敵っ
ヒーローみたいに格好良い
リヒター所長を
お前呼ばわりできる立場だったんだ
そう言えば
ナチスでは軍人が党員になることを
禁止しているとかいないとか
あれ、リヒター所長は軍人ではないのか
ゲルトルデは軍部の高い位で
連隊を指揮する立場だから
リヒターに不正が見つかれば
この研究所を取り囲むこともできるはず
見ものだな
私をあんな牢屋に入れるなんて
でも、ラルポアも来ているんだから
絶対に私の居場所を
突き止めてくれるよね
戻ろうかなあの檻に
ラルポアは私のヒーローだもの
そ、その前にオシッコしたい
通風口が暖かいから忘れていたけど
オシッコしたい
何処かでトイレを探そう 


「リヒター、私は本気だ……吐け」

「ゲルトルデさん、拳銃を収めて。僕をほどいてください」


あ……
ゲルトルデは拳銃持ってるんだ
ああ、オシッコしたいから
最後まで聞くことはできない
早く戻らなければ
ラルポアが隈無く捜索して
あの地下牢を見つけ出す前に

ラナンタータはゴキブリのようにカサコソカサコソと手足を懸命に動かして牢屋に戻る。道筋は単純だ。いくら方向音痴のラナンタータでも間違えることはない。


急げ、漏れる前に
あー、漏れそう


「吐かぬか、リヒター」


  拳銃の小さな音が響く。
ラナンタータは梯子段を降りていた。


  ゲルトルデは、リヒターとローランの首を繋ぐネクタイをソファーに押し付けて撃った。ネクタイに穴が空いた。


「わ、わかった……ゲルトルデ。全て君を守る為だ」

「嘘っぱちですよ、ゲルトルデさん。騙されないで。さっき僕にも、同じ言い訳をほざきましたよ」

「嘘じゃない。誤解だ」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...