中学生溺愛王子はお化粧男子 777文字小説

34 溺れちゃいけない

僕の方が溺愛ごっこにはまっている。
僕の方がやめたくないと思っている。

まずい……

もう少し距離を置くか。お母さんにも没頭するなと釘を刺されているし、チョコちゃんも休校の間だけだと思っているなら、僕も少し覚めなくては。

不思議だ。

僕は一瞬、ほんの一瞬だけ、本気になりかけた。

溺愛ごっこに溺れちゃいけないよな。

チョコちゃんは頑張って英語の音読を聞かせてくれたし、ほんの少しの部分、ネイティブみたいなイントネーションに直すだけで済んだ。案外努力家だ。

明日は、僕が○を付けてと言った部分を強調して練習するらしい。頑張れチョコ姫。溺愛王子は応援するよ。

僕はやがて十五才になる。
何も遅くない。何かを始めるのに遅いということはない。

それを、チョコちゃんとお化粧してわかった。僕はチョコちゃんにお化粧してもらって、スマホ画像もたくさん撮影して楽しんで、どんなことでもどんな時でも可能性を見いだすことができると気づかせてもらった。

チョコちゃんが好きとか、初めからそういう出会いではなかったから気軽な気持ちで付き合っているけれど、もう少し慎重になろう。

勿論、冷血王子になるつもりはないから、溺愛のままだとしても。

王子……なりたかったんだ。幼稚園のお遊戯会で。

登校できるようになっても僕は溺愛王子のままでいたかったな。勿論、学校関係には内緒で、チョコちゃんと二人だけの秘密で。家族を巻き込んでいるけれど、内緒にしてくれるだろう。

何だかとりとめもないことを考えて……

ああ、何かを始めるという話だ。
チョコちゃん、野球部か……
マネージャーってことかな……

男ばかりのクラブじゃないか。
これを由々しき問題とは言わないのかな。
れすびあんなのに野球部。

僕は三年生になってるはずだから、受験勉強でクラブには入らない。

野球部のマネージャーなら、僕の専属メーキャップアーティストの時間はないじゃないか。