中学生溺愛王子はお化粧男子 777文字小説

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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62 すき焼きとスキップ

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「チョコは波流君にスキップ」

ふふ、すき焼きとスキップは二人だけの隠語だ。

「チョコちゃん、その言葉をきいたから帰るね」

「聞いたから帰るの。言わなければ良かった」

「聞いて安心した。チョコちゃんが不安がると此方も不安になるよ」

「ふふ、溺愛大魔王だ」

「溺愛大魔王」

気に入った。僕は溺愛大魔王。
でも、中学生でキスができないトラウマに悩んでいるショボい大魔王だ。ははは……

一度ぎゅっと抱き締めて離れた。

「またね」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみ。家の中に入って。帰りにくいから」

チョコちゃんは大人しくドアの中に入る。隙間からにっこり笑った。

可愛い。

チョコちゃんは決して美人ではない。顔の作りなら誰でもカリナを選ぶだろう。僕は違うけど。

チョコちゃんは素顔も味がある。

美人は見慣れると言い、ブスには痘痕あばたえくぼと言うけれど、僕は本当の美しさに気づいただけだ。

笑顔でドアを閉めるように手で合図して、下がった。ドアの隙間から手が出て、バイバイと手を振る。

その手を指で突っついて中に入れた。ドアがきちんと閉まって「お休み」と言ってアパートを出る。

アパートの出口にカリナがいた。

「お、おっと、何をしているの」

「待ってた」

「何で」

「途中まで一緒に歩こう」

「ああ、向こうのコンビニか」

家路の途中にある。

「やっぱりわからない。音理の何処が好きなの」

歩きながらカリナが呟く。

「音理ちゃんをどんな子だと思っている」

逆に訊いてみた。

カリナはふっと笑って髪の毛を掻き上げた。

「地味な子。お父さんに会うときだけ可愛いくしていく。性格暗いから、話をしてもつまらない。でも、良いところもある。親切で然り気無く優しい。成績よりも人間性かな」

「成績悪いの」

心配になる。

「波流君相手に男遊びしてるから」

軽く睨まれた。

「音理は波流君が初めてではないよ。他にも男がいたから」

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