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63 心が騒ぐ
しおりを挟む「他にもって、野球部だろ」
「何だ、知っていたの」
心が騒ぐ。
僕はチョコちゃんともっといたかったのに、信号の前でカリナと立っている。なんだか危険な空気を感じて数歩離れたが、元々離れていたからカリナの方から寄ってきた。
あれ、逆効果じゃないか。
なら、この手はチョコちゃんに使える。
僕は本当に狡い。
カリナが寄ってくるのでまた横に移動したり、何だよ、近づくなよ、と顔で言ったつもりだったが、信号が助けてくれた。
「渡ろう。僕は帰るよ」
「うん、またね、波流君」
僕は走った。十時までまだ時間はあったが、早く家に帰ってチョコちゃんにラインしたい。今日の最後にチョコちゃんと溺愛ごっこして、カリナの異様な圧力を払拭したい。
逃避願望で溺愛ごっこにはまったんだっけ……
いや、違う。
何がはまる理由だったのか……
『音理の何処が好きなの』
何処が……
僕は、気づけばチョコちゃんのことだけ考えていた。暗い顔つきの女の子でメイク上手。ボキャブラ天才で僕とれずびあんごっこをすると親の前で明言した。そして互いにメロメロになって……
何処がって聞かれると困る。
可愛いから……
独占欲……
チョコちゃんの男友達に嫉妬する。
お母さんは、お父さんに感じた女の影と戦って家庭内離婚状態だったけど、誤解が解けたら前向きに対処する気構えを見せている。
お父さんが僕を『何人の女の子を手玉に取っているのか』と心配したのは、自分の身に起きたモテ期騒動の時期と合致したからだ。
成る程ね、親から学ぶことは大きい。
でも、僕はチョコちゃんに心を奪われてときめいて
僕もチョコちゃんの心を奪いたいと思う。マルパナリアパート一階二号室、僕が唯一走って往復する場所だ。
家に帰ってチョコちゃんに聞こう。
野球部に好きな奴がいるんだって……
カリナから聞いたことがバレるな。
カリナとのあの事もまだ打ち明けていないのに……
「何処に行っていたんだ」
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