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61 大魔王
しおりを挟む悪の大魔王のつもりで、チョコちゃんをハグした。いきなりのキスもしたかったのにやっぱりできない。仕方ないから額にキスしようと思ったら、お母さんの激怒する声を思い出した。
『マスクにも雑菌が付いているから』
しかもまずいことに背後で人の気配が。
振り替えると、カリナがいた。
階段の三段上くらいの処で立ち止まっている。
「あ、カリナ……」
僕はまだ、あの一瞬のことをチョコちゃんに説明していない。
「波流君、もうそろそろ十時だよ」
「何で此処に」
「何でって、此処のアパートに住んでいるけど。うち、二階だから」
知りたくない。
僕がチョコちゃんを訪ねたことを知っていたのは、同じアパートだったからだと判明した。
しかし、カリナがチョコちゃんの身近にいることは喜べない。僕はチョコちゃんの交友関係も制限したくなった。
「音理、誰か来たの」
チョコちゃんママの声だ。
僕は飛び上がるほど驚いた。
チョコちゃんが離れる。
前は海、後ろは山、波流は崖っぷちだ、お父さん……
「カリナが」
チョコちゃんは、ゴム製の島草履を履きながら奥に向かって答えた。
二人で玄関を出る。
カリナは笑いながら階段を降りてきた。
嫌な感じだ。僕はカリナに敵愾心を抱いて、チョコちゃんを守る態勢を取った。自然にチョコちゃんを背中に回す。
それでも、二人の会話が始まった。
「カリナ、何処に行くの」
「コンビニに。パン、残っているかな。じゃあね、波流君、話してないから」
「話してないって、何を」
「二人仲良しで羨ましいってこと」
僕はカリナの後ろ姿に安堵した。
そうか、良かった。話してなかったか、あはは……
浮気したわけでもないのに、ついうっかり浮気をバラす処だった旦那のような気持ちになって、脱力した。
「話してないって、何を」
「何でもない。僕はチョコちゃんがすき焼きだから会いたくなって、それだけだ」
廊下なのに抱き締めた。良いのか大魔王中学生。
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