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69 雪塩とトレパン
しおりを挟む先にカリナを制していて良かった。
チョコちゃんは別れ話だと思ってそれを聞くのが嫌さにカリナを連れてこようかと、ほんの一瞬だけど思ったと言った。
ふふ、それは読めた。
だから先手を打った。
カリナの割り込み精神を排除してチョコちゃんだけ溺愛する。僕は女の子にモテようと思ってはいない。大人になってからモテれば良い。
でも、別れ話するくらいの付き合いだっけ……
始まったばかりなのに……
チョコちゃんは紺のボーダー柄のTシャツと紺色のトレパンでやって来た。
「お母さんがこれを着て行けって。ホントはもっと可愛い服もあるのに失礼だよって言ったんだけど」
そんなことはお構い無しに僕は門扉の中でチョコちゃんを抱き締めた。
「何着ても可愛い。服なんて着ないで良いよ」
「裸では歩けない」
腕の中で僕を見上げて非難する。
「わははは、それもそうだ。人には見せたくない。僕もまだなのに」
声を出して笑ってしまったので、お母さんに覗かれる前に手を引いてベランダから家に入った。
「お邪魔します」
「音理ちゃん、こんにちは」
お母さんも僕同様そわそわして待っていたんだ。
「こんにちは。これ、母からです」
チョコちゃんはスーパーのビニール袋から雪塩のクッキーを出した。家族で好きなやつだ。お母さんは特に雪塩ふわりが好きで、たまに買う。
「あら、気を使わなくて良いのに」
「気を使ってないです。私にトレパン履いて行けって、波流君のおうちにお邪魔するのに失礼な格好をさせるから、全然……」
チョコちゃんの暗い個性がお母さんの母性愛にマッチしたみたいだ。お母さんの顔が華やかに笑った。
「あはは、面白いお母さんよね。音理ちゃんのトレパン姿を見て私は安心したけど。ミニスカートで来られたら勉強処じゃないと思う」
「うん。トレパン可愛い」
そんなに目立つ胸ではないけれど、その色気のない紺のボーダー柄の下も女の子らしくて可愛いんだ。
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