中学生溺愛王子はお化粧男子 777文字小説

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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86 肌色隠し

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「あ、しまった。緊張感して忘れていた。シートが先だった。愛君は眉を剃りたくないんだよね」

「うん。なるべくもとの自分に戻れるように」

チョコちゃんは肌色隠しのシートを僕の眉に貼った。

「ふふふ、甘いな。愛君はチョコのモデルだから、一旦イメチェンの味をしめたらもう元には戻れないもんね」

眉のない顔は、昔のお公家さんみたいだ。これでお歯黒塗れば完璧かな。

「ははは、人は誰でも一秒前の自分にさえ戻れないよ」

「愛君、それは随分哲学的だね。我々中学生は成長期にあるから特に、一秒一秒古い自分を脱ぎ捨てて大人になって行くのだ。愛君に賛成。未来は我々のものだ」

なんだかんだ言いながらファンデーションを塗り終えた。

「肌色が変わるだけでも凄く変化した感じになるね」

チョコちゃんママが喜ぶ。

「うん。下地まではみんな大概同じだけど、コンシーラーとかベースファンデーションの二色使いとかいろいろ技があるから、メイクは全くの自由。どんなにもイメチェンできる」

チョコちゃんが答えながら茶色のペンシルで僕の鼻筋を書き入れた。

あ、YouTubeとかでやっているワザだ。

「愛君の鼻筋はしっかりしているけれど、もう少し女の子っぽく細めにします」

珍しく『デスマス言葉』。

眉頭から鼻の先まで引かれた線を今度はスポンジで暈していく。とてもすっきりとした鼻高さんの出来上がり。顔が立体的になった。

「これってみんな書くの。女の人は……」

「ううん。鼻筋は書く人と書かない人に別れるかもしれない」

チョコちゃんは眉に取りかかった。作業は流れるように進む。今日は茶系を選んでいる。

顎を上げて少し伏せ目にして鏡に写る自分の顔を見ている。

チョコちゃんは、書き入れた眉を暈して細いペンシルで一本ずつ書き入れる。細くて少し垂れぎみの眉が出来上がった。

チョコちゃんママの感想は「色っぽいね」だ。

「へへ、もう元には戻れないよ」



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