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88 男服にはない背中チャック初体験

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付け睫毛と自睫毛を合わせてビューラーで曲げてからマスカラを塗った。顔の調子を見て頬紅をのせて唇のラインを描く。

くすぐったい……

これって、先輩トラウマを乗り越えられそうな強力な感覚だよ。

チョコちゃんは迷いなく口紅を選びとった。

顎を上げけて唇を半開きにする。
多分、これも色っぽいって言われるポーズだ。

チョコちゃんママが動いた。唇を塗り終わるまでに、隣の部屋からハンガーに掛けたワンピースを持ってきた。

「はい、メイクは出来上がりですぅ」

チョコちゃんと顔を並べて、三台のスマホの前でにっこり笑う。

「愛君、これを来てみて」

チョコちゃんママのお店ファッションなのだろうな、レース使いの黒いシックなワンピースドレス。

入るかな……

「似合うよ、きっと」

チョコちゃんの励ましを受けて

「頑張ってみるよ」

手を振って隣室を借りることにした。


二段ベッドがある部屋だ。親娘で二段ベッドを使っているのか。母子家庭って、こうなのかな。ベッドにカーテンが引かれていて、中は見えない。

僕は一瞬だけど、いけない妄想に走った。チョコちゃんと中にいても誰にも見えない……

着てきた服を脱ぐ。

ちらりと二段ベッドを見た。

ズボンのジッパーを下ろしながら妙な思いに駆られる。目が二段ベッドに行く。

さっさとしよう。待たせるな。

急いでドレスを頭から被った。丁度くらいのサイズだ。長いスカート部分の中は素足だからなんだか妙だ。

「あ、背中チャックだ……すいません……」

僕は襖から顔を出して助けを求めた。

男の服に背中チャックなんてないから、ワンピースドレスが初体験。

「チャックが……」

「あら、そうね」

チョコちゃんママが椅子を立つ。チョコちゃんは既にアイメイクに入っていた。

チョコちゃん、早い。
メイク慣れしているんだ。

チョコちゃんママが背中を閉めてくれた。

女の人は大変だ。身体が柔らかくないと好きな服も着られないみたい。










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