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90 波流君、キスできる
しおりを挟む大人は得てして驚くべき言葉を吐く。
「キスできる」
僕もだけど、丁度身体を接触していたチョコちゃんがビックリして一瞬飛び上がるほど驚いた。
「いきなり何を……あはは」
「あんたには聞いてないよ。波流君に聞いているの。このまま音理とキスできる、波流君。あ、愛君か、どっちでも良いね……」
困った。正直に答える。
「できません。無理です」
「やってみて」
チョコちゃんは目を瞠いて笑った表情のまま固まっている。異常事態発生中。チョコちゃんは笑顔の下で明らかに混乱している。
僕はチョコちゃんの顔を両手で挟んだ。拒まれるのが怖い。唇を見つめる。チョコちゃんは僕をじっと見つめている。
ううっ……記憶が邪魔する。
やっぱり無理……
「できません。まだ無理です」
冷や汗が出てきた。
チョコちゃんママはニカッと笑って「そう」とだけ言う。
僕は安心して、同時に身体の力が抜けたチョコちゃんをぎゅっと抱き締めた。チョコちゃんの髪の毛に唇が触れる。宮古島に、コマルナが流行ってなくて良かった。気をつけよう。
「そういうトラウマって案外根深いもんなのね。簡単にはクリアできないか」
「その方が安心だと思っているくせに」
チョコちゃんが呟く。僕は慌てて離れた。いつまでも親の前で抱き締めていられるほど根性が据わっていない。
「波流君、そのまま帰る。落として帰る」
チョコちゃんがメイクシートを差し出す。
「そのまま帰ろうかな。着替えます」
「音理、波流君の背中チャックを下ろしてあげて」
僕たちは二段ベッドのある部屋に入った。
何だか気になるベッドだ。
背中のチャックを下ろしてもらって、ワンピースドレスを脱ぐ前にズボンを履く。チョコちゃんが見ている。
「あの、着替えるんだけど」
「良いさ、波流君は男の子だから」
「ええと、チョコちゃん、それは男子差別だよ」
「良いさ、差別じゃなくて興味だからさ」
チョコちゃんの爪が背中に触れる。
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