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105 婚約しよう
しおりを挟む「今日は学校の廊下で暗号を言い合って……」
ジョイフラの自動ドアの開く音が聞こえたような気がする。
「スキップとすき焼きだよ」
「なんだ、好きップと好き焼きか。バレバレじゃないか」
「だから、学校では波流君と親戚だって言ってあるよ。仲良くしてても親戚だから、何にも言われない。へへ」
「親戚……」
僕はチョコちゃんパパに頭を下げた。
「済みません」
「何に対して謝っているのかね」
「え……」
「親戚だと嘘をついたことか。好きップと好き焼きか。ふたりでこんなところでデートして抱き合っていたことか。化粧して写真を取ったことか。そもそも出会ったことか。どうなんだ」
遡りすぎです。しかも、だんだん声が大きくなるのは、僕のことが気に入らないのだろうか……
チョコちゃんパパ……
そもそも出会ったことか……って、出会ったことに関しては謝るつもりはないし、何を謝ったのだろう。
「僕は……あの。今は中学生だから受験も控えていて、学校で音理さんのことをおおっぴらにはしたくないです。人の口に音理さんが困ったり傷ついたりすることもあるかと思って、そういうことを避けたいので」
他人の噂で壊れるような関係のつもりはないけれど、煩わしいのは御免だ。
「内緒にすることが守ることだと思っているのかね」
「はい」
きっとチョコちゃんも同じだろう。
しかし、チョコちゃんパパはしかめっ面になった。
「この付き合いは、止めなさい」
腕組みをして、目玉を動かす。
僕とチョコちゃんを交互に見つめる。
「え」
「お父さん、何でそんなことを言うの」
チョコちゃんが膨れる。
「音理を守りたければ、大人になるまで待ちなさい」
そんな……
「お父さん分からず屋だったんだ。大人になるまで待てない」
「音理、真剣なら待てるんだ」
「真剣だけど待てない」
待つとかじゃなくて
「僕は毎日一緒にいたいです。どうすれば良いですか」
「波流君、やっぱり婚約しよう」
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