つまずいたら異世界へ

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第四章 一日目の午後 リンジャンゲルハルト

(1)白百合&リンジャンゲルハルト&パン屋の娘

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シュタイナーは腹具合が悪い。リンジョネルラが戻る前に姿を消すことにした。      
     
忌々しい。折角、リンジョネルラが王宮を出たと云うのに、つまらぬ理由で去らねばならぬとは……

シュタイナーはタランの森の外縁を巡り、丘の上の白鳥城の異名を持つ華麗なリンジャンゲルハルトの城を眺めた。


…あの城が俺様の寝床になり、リンジャンゲルハルト帝国が俺様の食卓になる。

あの片と瓜二つのリンジョネルラ王女に出会わなければ、これほど己れの野望を親しく知ることもなかっただろうな。

次期皇帝の座は俺様を待っているのだ。
あの方の復讐の為に……



シュタイナーが立ち去った後しばらくして、列の中程の若い女官が俯いたまま口を開いた。


「王女様はお戻りになるのが何時もより遅うございます」


それはその場の誰もが思っていたことだったが、年期を経た女官が振り向くことなく小声で叱った。


「お黙りなさい。不満を口にしてはならない」

「決して不満などでは……」

「口答えもしてはならない。不満は腹に納めてお前の心の真理に向き合いなさい」


御簾を上げたままの御輿は、紅を基調に金銀の豪奢な刺繍と玉飾りや絹房で艶やかに彩られ、王女の帰りを待っている。

一行は、過ぎ行く時間の中でそこだけ時の止まった人形ひとがたのように御輿の周りに佇んでいた。
    


聳え立つ白鳥城のティールームに、リンジャンゲルハルトの小柄な女王の姿があった。派手な古代紫を基調にした花柄のドレスを金銀の細やかな刺繍が覆う。複数の手で数年かかる高度な技だが、襟首を幾重にも巻く白いレースにも相当な時間がかかっている。

それらのものに満たされた王宮の全ての時間は、国民が権力に対して捧げた血と汗と涙に他ならない。


「王女様が採寸に出てこぬとはどうしたことだ。」


灰色仮面の侍従が女官に声を潜めた。


「はい、先ほど確認しましたところ、王女様はいつもの散策にお出になられて、未だお戻りにならないとのことでした」


女王の眉間が薄く狭まる。
侍従は音をたてずに女王に近づいた。


「タランの森にございます」

「迎えを出せ」

「仰せの通りに」


再び音をたてずに女官の元に戻った侍従は、白塗りののっぺりした顔ながら語気を強めた。


「迎えを出すのだ。お前も共に行け」


女官は「御意」と一言、腰を曲げて後退りした次の瞬間、姿を消した。


「あの者にお任せを……」


私の腹心とも言えるシノビだと腹の中で続けた。


    
やっと黄色い草にたどり着いたわぁ……
黄色い草だけは山ほどあるわぁ。
黄色い草アレルギーには意味ないけどね。

     
ドラゴンに盗まれた双子の赤ちゃん
一人は紅葉、一人は銀杏
一人は籠に、一人は水に
一人は花に、一人は星に
一人は歌い、一人は踊る
一人は笑い、一人は泣いた
一人は残り、一人は消えた
パン屋の娘、死にかけた
パン屋の娘、死にかけた

       
紅葉と銀杏は本当にドラゴンに拐われたのかしら……

町の流行り歌は無責任なもの。
見よ、あの大通りに群がる噂好きの群衆を。
今日も吟遊詩人の物語にたかる蝿のようではないか。
何が吟われていようとも気に病むことではない。
吟遊詩人のでっち上げを、私が気に病むことなどあってはならぬ。

名付ける前に拐われた、私の紅葉と銀杏……
国中探させても見つからなかった私の赤ちゃん。
私は悲しみで死にかけた。
生きる気力を失った。

しかし、とうに諦めておる。

もしも何処かで生きていると言うのであれば、元気でいてほしい。必ず探し出す。
いつか、会えるその日まで……
生きて、元気でいてほしい……




ドラゴンに盗まれた双子の赤ちゃん
一人は紅葉、一人は銀杏
一人は籠に、一人は水に
一人は花に、一人は星に
一人は歌い、一人は踊る
一人は笑い、一人は泣いた
一人は残り、一人は消えた
パン屋の娘、死にかけた
パン屋の娘、死にかけた

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