つまずいたら異世界へ

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第十二章 三日目の朝

(4)軍義と見習いセレーネ

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飲みすぎた訳ではない。今朝、目覚めたらベッドにサディがいた。勝手に入れる部屋ではない。どうやって入り込んだのか尋ねると、夕べ呼ばれたのだと答える。覚えがない。

サディは何もなかったと言った。添い寝しただけだと。其れはそうだろう。私はロリコンではない。だから、何故ソウナルノカ不思議だ。危ない。ヤバい。何が起きた……本当に覚えがない。いやいやあのくらいの酒量で泥酔したりすることはない。ない……決してない……はず…だ……よな……うん……

サザンダーレ王国からは予定通りリンジャンゲルハルト帝国と近々開戦するとの知らせが届き、参加を要請してきた。リンジャンゲルハルト帝国は大使館撤退、其の前に教皇テリトリーにまで間者が入り込んでいたのだが、全てが世界大戦に向けて進んでいる。

教皇はまだサザンダーレ王国に参戦する旨を知らせてはいないと兄上は言うが、婢呼眼軍師長は既に教皇に謁見を済ませて此の通りの軍義を開いている。

「リンジャンゲルハルト帝国軍の戦力を分散させるために、アガンフジャー(東門)とインヌフジャー(西門)を同時に攻める。丁度昼時を狙う。我々サザンダーレ王国軍はアガンフージャの七つの門を海と陸路から。スメタナ教国軍にはインヌフジャーの六つの門を受け持って欲しいのです」

我がスメタナ教国軍の総大将ゼンマゼービー将軍が頷きながら白い手袋の指でリンジャンゲルハルト帝国の地図上のマークを指す。ゼンマゼービーは四十代後半の恰幅の良い苦み走ったおっさんだが、其のスメタナ六猛将の名に恥じない重く鋭い剣捌きを受けた者は真っ二つにされる。気を付けようっと……娘さんには手出しは致しません。

「此の第一関門は攻め難い地形だが、我々スメタナ教国軍のモモンガ部隊は此の地点に出動しなくても良いと言うことか」

ゼンマゼービー将軍の仕切っているハングライダー空軍は機関銃の名手が揃っている。デルスパイアン宰相がバズーカ砲二千機を約束したが、重いバズーカを運べる大型ハングは千機しかない。後は羽根機だ。私にはハングも羽根もいらないが……ハングは空中戦に向き羽根機は地上戦でも盾になる。どちらかと言えば……

「其の通りです。岩の多い地点の細道は包囲しやすい。リンジャンゲルハルト兵が逃げ出すことはないだろうと踏んでのこと。既に、防衛壁を建設する為に一個部隊を配置してあります」

「早いな。流石サザンダーレ王国」

スメタナ六猛将、其の中に私も数えられている。ゼンマゼービー将軍が私を見た。

「ガーネット将軍。昇格おめでとう。お揃いの諸兄、我々は兄弟だ。今日からガーネット将軍がモモンガ部隊を仕切ってくれる。私は精鋭フクロウ部隊を任された」

小さく感嘆の声が起きた。フクロウ部隊……五年前に廃部になった精鋭部隊。夜間の攻撃が主だった。ゼンマゼービー将軍が可愛がっていた部隊だったな。成る程、バズーカ千機はフクロウ部隊に行くのか。

フクロウ部隊が復活したとなればスメタナ教国軍一万八千のうち空軍が六千になる。残りは騎馬隊……

「羽根機の部隊はサザンダーレ 王国軍にもあるが、空中戦はスメタナ教国軍にお任せする方が良さそうですね」

「そう来なくっちゃ」

甲高い声がしたと思ったらセレーネがお茶を運んできた。二十歳かまだ十六才か、よくわからない。軍義に口出しするなと注意されているにも関わらず背伸びしたがって何のかんのと入ってくる。雑用係りだが、軍師を目指している見習いと言った処か。

「良いアイディアがあるんですけど」

若い将軍がこほんと空咳をしてセレーネを睨む。婢呼眼軍師長は苦笑いらしい片頬が痙攣っている。

「何だ、良いアイディアとは」

「うふふ……夜の間に門を外から閉鎖するの。内鍵開けても開門できないから、我が軍が中で大暴れしたら皆殺しにできる」

「セレーネ、我々は其れを話していたのだ。ご苦労だったな。お茶、ありがとう」

セレーネは肩を竦めて舌を出し、笑った。テヘペロってやつか。他の将軍や軍師たちも軽く笑っているが、婢呼眼軍師長は笑うのが下手くそだ。やっぱり歪んでいる。

「大体の作戦は此れで。後は其の都度連絡します。では、我々の勝ち戦の前祝いにお茶で乾杯と行きますか」

婢呼眼軍師長の目線を受けて年輩のハルマカジ将軍が立ち上がった。お茶を片手に持ち、周囲を見渡す。

「其れでは、我々の勝利を願って、乾杯」

重々しい声だ。腸に響く。

お茶を一口含んだ処でハルマカジ将軍と目が合う。ヤバい……何か言われそうだ。私もいろんな悪さをやっているからな……

「ガーネット将軍、処でお付きの軍師はおいでかな」
「軍師……ですか」

思わず婢呼眼軍師長を見てしまう。軍師同士で地図を付き合わせている。忙しそうだ。セレーネも覗き込んでいるが、邪魔にならぬのか……

「将軍になれば軍師は付きもの。宰相殿からの割り当てはなかったかな」
「特に……」
「であればセレーネは如何か。あやつは見習いだが見所がある。我々の軍義を聞いていた訳ではなかろうに同じ考えを持っていた。なかなか使える者かも知れぬ」

ゼンマゼービー将軍が割り込む。

「我がスメタナ教国も女性の登用をもっと増やすべきだ。我が部隊の半分近くは女性だがな。わははは」

女性の羽根部隊は天使降臨と謳われる華麗な部隊だ。子供の頃は憧れたものだ。

つられて笑ってしまったが、職場でセレーネ、自宅に帰ればサディ。考えようとすると目眩を感じる。きゃぴきゃぴする娘たちとどうやって付き合ったら良いのかわからない。そうだ、サディ……あの世間知らずの元巫女をどうしたら良いのか……添い寝だとぉぉぉ……

戦争になれば、時には千キロ向こうのリンジャンゲルハルト帝国に行くやも知れぬ。夜営地に連れていく訳には行かないだろうな……やはり皆と留守番していてもらおうか……

三番目の母と数人のハウスキーパーと料理番と十二匹の猫たち……猫はもっと増えたかも……おおお、私の障子紙の無事を祈ろう。開戦前だと言うのに、此れで将軍職が勤まるのか……

セレーネが来る。愛嬌があるな。
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