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14) 世の中、何が起こるかわからない

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泰通は気だるい朝を迎えて、夕べの酒と役人の匂いの残る身体で盥に浸かった。


妓媛がくれた動物の腸でできた膣洗いの器具を使って、役人のモノを受け入れた部分を洗う。腸内をきれいに流さなければ、腹痛のもとになる。


『ただ、私には家庭がある。お前の暮らし向きに心配ないように、このサナゼンに金を払って良い部屋に置いてもらおうと思うが、どうだ』


ことを終えてから役人は言った。


上司の娘を嫁にしたので、家に迎えることが出来ないとのことだったが、泰通はそこまで望んでいたのではない。



身体の相性は良かった
あの香りのせいだ
私は攻めも受けもできるが
あの人にはまるで女のように
溶けてしまう

それに、いつまでも
弟の世話になるわけにもいかないし
男妓媛も考え問題だから
死んだ人のことを忘れて
出直すにはいい話だ

生きている限り前向きに歩まねば



サナゼンの女達は売れっ子でもなければ相部屋と決まっていて、一晩表に出ただけの泰通が部屋持ちになったことを皆が驚いた。 



「ヤスミチさん、良くやりましたね。このご時世に、サナゼンも寂れていくかと思ったけれど、あなたの楽曲で助けられ、高官まで捕まえて、うちの妓媛たちにも見習わせたいくらいですよ」



いつもは冷ややかな女将の滅多に見せない破顔と「兄貴……」と絶句した弟の顔。


泰通の通された部屋は客の出入りを禁じた裏座敷で、鏡台と真新しい衣服が数点用意されていた。



一度挫けた人生だが順風に戻れた
弟夫婦の部屋ではなく自分の部屋だ
書でも嗜みながら静かに暮らそう



★★★★★★★★★★



祝淑シュクシュクは後宮で着飾り、兄の清正と共に暮らし始めていた。十七才の双子はどちらも見分けがつきにくく、共に美しい。



「私が身売りをせずにふた親を看取ることができたのは、清正兄貴が金子を送ってくれてたからだ。まだ幼い子供だったのに、男としての生き方を捨てねばならなかったのは辛かったことだろう」

「祝淑。そのお陰で、私は愛を知ることができたのだよ。もし、私が自己中心的な考えに走っていたら、どうなったと思う」

「確かに。二人とも人買いに拐われて海を渡っていただろうね。怖いことだ」

「恐れることはないよ、祝淑。人間にとって、何が善処で何が悪運か、わからぬもの。もとより私の命は天皇に捧げたものではあるけれど、私は本当に運に恵まれた」



恵遼天皇の耳は聞き拾ったことに涼やかな喜びを感じた。



★★★★★★★★★★



その日、朝廷にこの人ありと謡われた策士が、当代の左パルチョドゥリャーに座すことになった。泰通を囲った役人がその下に就く。



「お前が囲った者は使えそうか」

「お任せくだされ。あの者は帝姫様を見知っており、この私を裏切らぬと申しております」

「お前には私を補佐する位をやる。努々、その者を手放すでないぞ」





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