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15) あの女が死んで俺が生き残るのは
しおりを挟む奈利子は、集団ストーカーの思考盗聴による通信が止んでいることに気づいた。
入院していたからかな
意識がなかったからかも
いいえ、この地震が
集団ストーカーたちにも
被害をもたらしたのかも
他人の暮らしを複数名で覗き見る集団ストーカー行為が、世の人たちに浸透している。夥しいご近所ストーカーが生まれ、互いにストーカー精神を持つもの同士とは知らずに一般庶民の顔で暮らしている。
そこに疫病が流行り大きな地震が起きた。
一個人を複数名で攻撃する集団ストーカーの絆は自然災害の前では弱い。ある男はその日連れ廻っていた女の顔を蹴り落として生き延びた。
親切にして信頼を得て、ターゲットの生活や思考を覗かせて悪意を吹き込み、集団ストーカーの一人として誹謗中傷の手先にするために何時間も共に過ごした仲だが、替えはいくらでもいる。女を蹴りおとさなければ小刻みに揺れる地面の割れ目から這い上がれなかった。
時と予知できない災害や事故などでは、善人も悪人も死ぬことがあると、聖書の話を伝えに来る人から聞いたことがある。
しかし、それは本当かもしれん
善人も悪人も酷い目にあう
これが何かの処罰というのなら
俺が助かってあの女が死ぬのは
おかしいからな
いや、あの女は俺の知らないところで
大きな罪を犯していたのだろう
死んで当然だ
それなら俺もか……
処刑されるほどの罪か
男はふらふらと歩きながら、ピシ、ピシッと割けるアスファルトを避けて建物の軒下に入った。そこに、向いのビルが崩落して男は押し潰された。声を出す間もなく、目を瞠く間もなく、凍りついた。まるで男を狙うかのようなタイミングだった。
自力で地割れから頭を出した女は、連れの男がコンクリートの塊に潰される現場を見たが、崩落した瓦礫に当たって再び地割れのなかに落ちた。
「ああっ、お母さん……お父さ……」
誰と過ごすべきだったか血の滲む頭を過ったが、そのまま真っ暗な闇に落ちた。人間の身体に当たったような気がしたが、意識を失った。
暗闇の中で、手足を動かす人がいた。呻き声が漏れる。
「た、すけ……て……」
声としては認識できない呻き声だった。約八メートルの地点に、男女数名が落ちていて、生きている人がいた。
★★★★★★★★★★
「まるであなたを病院から誘拐するみたいですね。見知らぬ同士ですから」
「身代金、いくらくらいなら払ってくれるかしら、うちのロクデナシは」
病院の裏口から駐車場に出て、白いバンに乗る。
ゲイの男は篠崎と名乗った。花屋の名前がドアに描かれていたが、町を走ってもこれでは目立たない。
「花屋さんなの」
「亡くなった父が」
「あら、ごめんなさい」
「消すに消せなくて、そのままに。家も花屋も失って、これだけなんです。これと少しの本と衣服かな、父の人生を感じるものは」
病院の庭は地震の被害を感じさせない。しかし、病院の敷地を出れば、病院前の崩れ落ちた陸橋が車道を遮断する様を見ることになり、車で走れる状態ではないことがわかる。
その陸橋崩落現場で奈利子の夫は陸橋建材の下敷きになっており、愛人はまだ地割れの底から救い出されてはいない。
「陸橋も崩れるなんて、怖い地震だったのね」
車をUターンさせるために一旦バックした。消防署職員が、奈利子の夫を助け出して、担架に乗せる。
ボンクラ亭主に似ている
ボンクラって言っちゃあいけないか
あのロクデナシ
まあ、会社経営の能力はあるわよね
私の代わりに頑張ってくれてるんだから
そのための結婚だったんだものね
浮気されるわけだ
私には浮気されないように
監視をつけていたくせに
自分は地位を守るために
私に捨てられないように
立ち回っていたわけよね
集団ストーカーのボスは
うちのロクデナシだったりして
車がUターンした。奈利子は首を廻して担架を見たが、夫の確信は持てない。
「どうかしましたか」
「ううん。ね、私たち、結婚する」
奈利子は言ってから首を戻して篠崎を見た。
「はぁっ…….」
篠崎は絶句した。
「都合が良いんじゃない。篠崎さん、あなたはゲイなのよね。私は子宮摘出して子どもが生めないの。女としての生活は終わってるのも同じ。勿論、夫婦生活は無くて良いの。今の夫とも全く無いから」
「無いからと言っても、今は旦那さんいらっしゃるんですよね。僕がゲイだとわかった上でのプロポーズなら、理由があるんじゃないですか。離婚したいがための契約婚約とか」
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