宦官情話

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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16) 殺される心配はないのですか

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奈利子の夫は朦朧とする意識の中で考えた。


これで奈利子が死んだら
社長解任で全てを失う

奈利子の親は賢かった
奈利子の命を守るために
奈利子から誰かに
遺産が渡ることのないように
手を打っていた

離婚を考えていた
ベンチャー事業を立ち上げて
新しく踏み出そうと

奈利子が目覚めてくれれば
気持ちも整理できたのに

あの女は死んだのだろうな
愛人としては可愛い女だった
奈利子に会いたいと言うまでは
可愛いと思っていた


意識が遠くなる。その遠くなる意識の中で、白いバンに乗った奈利子の顔を見た。


「夫婦生活が無いからと言っても、今は旦那さんいらっしゃるんですよね。僕がゲイだとわかった上でのプロポーズなら、理由があるんじゃないですか。離婚したいがための契約婚約とか」

「するどいわね。その通りよ。契約婚。婚約だけではなくてちゃんと結婚するの」

「結婚にどんなメリットがあるんですか。僕は介護するくらいしかお役に立てませんけれど」


それって普通『くらいしか』って言うの
私にしてみれば凄いことなんだけど


「じゃあ、その『くらいしか』ってことをお願いしようかな。そして、私はあなたに会社をひとつ任せる。あなたのやろうとしていた調査会社にすれば良いわ。そこ、キャッシングとかローンとかの、つまりは町の金融業なんだけど、取り立てもするから」

「まさか、ヤクザみたいな」

「ははは。似てるかも。でも、ヤクザは昭和時代に廃業してるから、キレイな金貸しよ。どう、結婚する」

「良いお話ですね。家庭では介護、外では調査会社社長ですか。願ってもない。でも」

車は病院の裏門を出た。細い道だが、ぐるりと廻れば大通りに出られる。

「でも、なあに」

「心配ではないのですか。僕が財産乗っ取りを企んであなたを殺したら」

「ないない。私が死んでも、遺産は夫のものにはならないようにしてあるの。私が生きている時しか得にはならない。だから、夫は愛人がいても私を殺せないの。損するから」

「では、僕に恋人がいたら」

「一緒に暮らしましょう。あなたの恋人が、私を家族として受け入れることができる人ならだけど。ああ、家政婦さんを雇うから家事のことは心配しないで」

奈利子の腹は決まった。


ボンクラとは離婚する
何かのきっかけが欲しかった
私が浮気をすれば
私だけではなく
相手も酷い目にあっただろう
『死刑だ』とか言ってたから
でも、この人なら



★★★★★★★★★★



世間は、恵遼天皇の善政に喜び、貧しくても裁量が認められれば望みがあり、また、病の者でも顧みられ、労働賃金も上がり、それでも洩れようとする者のために炊き出しも行われる。国庫が大きく開かれたからだ。


後宮の姫たちが大勢のしもべを連れて自国へ帰る。何週間もかかる旅路に、その行列の通る町や村には経済が巡り、下々の労働に張りが出る。数百の行列が、この三ヶ月の間に各地を賑わし、逗留した先々で食文化を広め、また、珍しいものを買い求めて、帝国全体が活性化した。


サナゼン前の林で殺された右パルチョドゥーリャーには『傾国の美女か』と後ろ指を指されていた清正だが、民百姓には喜ばれた。


後宮に妾姫を囲う理由のひとつに、経済がある。後宮の大勢の食事や贅沢品、日用雑貨などを国が買い上げることで、安定した経済効果が見込めた。



「先の女好きの天皇は女の贅沢には金を出したが、貧しい者たちには出さなかった。今の天皇は、貧しい者たちから先に救おうとする。治水工事も順調だし、民に文字や数を教えると言って塾がたくさんでき、昼飯も出るから、飢えていた者が集まり、賢く健康になった。医術者になる者も増えて、また薬草取りも薬草畑を作るようになった。天皇が帝姫様を得てから、国の形が変わっていく。恵遼天皇には先々が見えているかのようだ。この国はまだまだ変わる」



国の内外で物知りたちが恵遼讃歌を広める。


手付かずで戻された姫たちも天皇を恨まず、命があったことを喜び、手近な婚儀で小国同士の絆を作りあう。恵遼天皇からは祝辞と贈り物が届き、帝国の発展に寄与するようにと念を押された。



「このご時世のどこにご不満なのですか」



泰通は尋ねた。左パルチョドゥーリャーの補佐官に昇格したばかりの男は、薄目を開けてヤスミチの頬を撫でる。



「ヤスミチ、お前は知らなくても良いことだが、恵遼天皇は官僚育成には金を惜しまない。が、既に地位を得た高位の者たちからは剥ぎ取ろうとする。外面は良くても内面は鬼だ。ああ、お前も知っておるのだったな」



お茶を勧めたことで宮殿から出された。降格ならまだしも、市井しせいに職を持ちにくい宦官では、寺にはいるか身体を売るかしかない。



「ええ、はい。ですからこのように廻り会えたのです」



泰通は「私は…….」と言いよどむ。










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