宦官情話

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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17) 当たりクジ

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「何だ」

「いいえ」

「何でも言ってみろ」



恥ずかしくて言えない
あなた様が好きになって
会えない時には
朝廷から生きて帰宅できたかと
心配になって怖くなって
そんな気持ちが



泰通は耳を赤くして言葉を省略した。



「心配なのです」



ドゥリャー補佐官は笑った。



「何も心配はいらない、私は左パルチョだ。革新的な政策の恵遼天皇を支える立場だ」

「第三皇子とは」

「第三皇子は朝廷内に権力を持たない。恵遼天皇の異母弟に当たる血筋だとしても、賢君恵遼天皇の治世には、幼い第三皇子を当てるまでの瑕疵キズはない。何を心配していたのだ」



補佐官は左腕で手枕をしながら、泰通の髪の毛を撫でた。



ヤスミチ、お前を暫く
飼い殺しにするつもりだったが
こうして過ごす時間が大切に思える
奪うには惜しいその命



いとはしきやし  この時ぞ



泰通は戦いた。



先ほどの寝言は何だったのですか
恵遼天皇時代を終わらせるとは
新たな時代を来たらせるとは



★★★★★★★★★★



篠崎は奈利子のプロポーズを受けた。白亜の豪邸に驚き、奈利子がシャワーを使っている間に倒れたキャビネットを立てて応接間を片付け、ネットで家政婦を募り、シャワーから出た奈利子に冷たいお茶を勧める。



「散乱していた物を片付けてくれたのね」

「細かいガラスがまだ」

「掃除機の場所はそこよ」



階段裏の納戸は、扉のレリーフが黄みがかった灰色の影を作る。金の取っ手に手を掛けると、しっかりした作りを感じさせながら開いた。



「地震でも壊れたりしなかったようですね」



粘着性のワイパーローラーを取り出すと、広範囲に散らばったガラスの細片さいへんをコロコロとくっつけて「絨毯は無理ですね」と言った。


奈利子は、ソファーの下に落ちていたハンディタイプの掃除機を絨毯にかけた。体力の低下を感じる。膝がうまく曲がらない。



「僕がやりますよ」

「ううん、あなたにはお願いがあるの」



入院生活でなまりになまった筋肉を鍛えなくては、この先の離婚問題を乗り切ることも難しく思える。



「うちのロクデナシが帰ってきたら突きつけてやりたいから、離婚届を貰ってきてくれないかな。それと、婚姻届も」

「本当に、僕でいいんですね」

「ごめんなさい。私は多分、人間としてぶっ壊れているのよね。夫が煩わしくて、早く縁を切りたい。あなたはゲイだし、夫より頼りになるから都合がいいの。それだけよ。だから、なにかを期待しないで。ううん、支援はする。契約はちゃんと履行する。それは期待して良いけど……他に何か心配ごとでもあるの」



はっきりした声で話せた。



「いえ、余りにも条件が良すぎて……」

「ふふ、私はね、他人にあんまり興味がなくて、直ぐに人のことを判断する癖があるの。この人はこういう人なんだと思い込むって言うのかな。信頼って言うのとは違うかもしれないけれどね。だから、あなたが良いの」



奈利子は、この邸宅を独りで朝晩磨いて生きてきたつまらない暮らしが一生続くのなら、清正に憑依していた方がましだったと思える。


天皇に開発された女の喜びは、他の人とは味わえないものだ。天皇に自分を認識して貰いたい。清正から奪う気持ちではない。天皇は、清正を愛するようになってから女には反応しないと言った。



私だったのよ、清正の中身は私
清正の身体に憑依してたのよ

この世の誰も
恵遼天皇には代えられない

好きなの、恵遼天皇が好きで
清正が妬ましい

あの世界がどこにあるのか
時代はいつ頃なのか
それすらもわからないのに
切ないくらい愛している

天皇は私のことを知らない
清正しか見ていない



目の前の爽やかな笑顔の篠崎は、イケメンのゲイという点が天皇と同じで、奈利子の心に入り込んだ。


篠崎とは契約結婚の仮面夫婦でいられるという安心感がある。篠崎をバックアップして世に出すことが、生き甲斐になるかもしれない。


篠崎が役所に出かける時、奈利子はポルシェ911カレラSのキーを渡した。車には表情がある。911カレラSは、奈利子が一目惚れする爬虫類系のチャーミングな顔をしている。



「ガンメタの少しオフホワイトっぽいやつよ」



キーを受け取ったとき、篠崎はただ微笑んだだけだったが、ガレージを見て驚いた。名前も知らない数台の高級車がズラリと並ぶ。



「は、ははは。当たりクジ引いたみたいだ」










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