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終章/胡蝶の夢
第十九話/胡蝶の夢
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ふと、目が覚めた。
蓮は気付けば、リタ、エナ、アサヒとそしてアリスの四人に囲まれて、アパートの居間の上に敷いた布団の上で横たわっていた。
「あ……」
左脚に感覚はあるし、声も出せる。
そして、なによりもアリスが生きている。
あれは全部、夢だったのだろう。
そう、結論付けて時計を見ると針は午後の五時を指していた。 なんでこんな時間まで眠っていたのかは、思い出せない。
だけど、そんなことよりも、そろそろ、夕飯の準備をしなくてはいけない。
寝起きの重い体を起こして、ハンガーにかけてある上着を着て、食材を買いに出かけようとすると━━━━エナの額から鼻にかけて血が垂れていることに気付く。
どこかで、怪我をしたのか? 手当をしてやろうと思って近付くと、みしみし、とスイカの皮を裂いていくような音がする。
その刹那━━━━エナの頭部はぱぁんと破砕音を立てて砕け散った。 頭蓋骨や脳の欠片が居間に散らかり、血液が部屋の住民全員を濡らす。
「━━━━は」
突然のことに蓮は理解が及ばない。 情緒が定まらない。
しかし、何よりも異常だったのは、目の前でエナが死んだというのに、さっきからずっと平気な顔でにこにこと笑っている三人であった。
「なんだよ……なんだよ、これ……」
状況の理解を拒む理性が、心臓を精一杯、飛び出すくらいにどくんどくんと鳴らして警鐘を鳴らす。
しかし、考える間もなくアサヒの胸部から股にかけて激しい裂傷が走り、大量の血を吹き出しながら倒れた。 トドメと言わんばかりに、傷口からありとあらゆる臓器が浮かび上がると、破裂。
そして全身の色が白から青色に変化、ありえないスピードで体が腐っていく。
まさか次は、と思ってリタとアリスを見ると、リタの腹部から白いワンピース越しに段々と赤黒い血が染みてきて、やがて血は足を伝い床に侵食。
ごふ、と音を立てて喀血を吐き出すと、首が何にもない空間なのに、三六〇度、透明な手に掴まれたように、ごきごきと音を立てて回転、でろんと胴体から首が垂れる形となった。
依然、アリスはにこにこと笑みを浮かべている。
アリスの白いワンピースに一直線の赤黒い線が刻まれる。 その線は段々と侵食していって、気付けば服の半分くらいを占めていて。
ぶちぶち、と音がして服と皮を引き裂いて肋骨が露出すると、心臓や肺が丸見えになって、そうしてそれらに無数の穴が開いたかのように、ぶしゅぶしゅと色々な部分から出血。 心臓が乾燥したように萎んでしまうと、アリスだったものは床に倒れ伏した。
「あ……ああ、ああああ」
理解を拒む理性が、防衛機制の手段として発狂を選択した。
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
喉の粘膜が裂けて血が出るくらいに激しく叫んで、叫べなくなるまで叫んで、げほげほと大きく咳き込んで、叫べなくなって、やっと発狂は止まった。
はは、と狂った笑い声が漏れると、左胸部に鈍い痛み。
「いた……い」
痛みは加速度的に鋭くなっていって、気付けば白いTシャツの左側には血がべったりとついている。
「い……た」
痛みが耐えられないくらいに強くなっていって、呼吸も乱れて、力も抜けて地面に倒れ伏すと、灼熱の感覚を覚えたあとに、一際強い痛みに襲われる。
今度は痛みが引いていって、全身が鳥肌が立つくらいに冷たくなる。
自分の意識が体を挟んで、死んでいくというのが分かる。 体は、まるで冷凍室にいるかのように冷たくなっていく。
「な……で」
ぎぃとフローリング床が軋んで、居間の引き戸が開けられる音を最後に、音が聞こえなくなって蓮の意識はブラックアウトした。
◇
ふと、目が覚めた。
何か、酷く悪い夢に魘されていた気がするが、その内容は全く思い出せないでいる。
蓮は実に何の感情も介さずに、現状を把握することができた。
辺りを見回すと、周りには乱雑にゲームの箱や本、桐箪笥から飛び出ている女物と見て取れる服に、木造の勉強机の上には栞の差された読みさしの本が置いてある。 そして自分は柔らかくて白いもの、ベッドの上で眠っている。
部屋はカーテンが閉められているので、暗くてよく見えない。
しかし、見覚えのある部屋━━━━
そう、ここは絢音の部屋だった。
なぜ? 頭の中に疑問符が浮かぶが、それは特に肥大化するということはなく、小さな疑問のまま頭の中を渦巻いている。
ぎぃぎぃとフローリング床が軋む音。
がちゃと音がして、ドアが開けられ、光が部屋に射し込む。
ドアの前には、絢音がにこにこと微笑んで立っている。
なぜか、蓮にはその光景が酷く、怖気の走るものに思えた。
絢音は床に散らばっているゴミや本の山を容易に飛び越えていくと、ベッドに向かっていって、そのまま端の方に座った。
「起きた?」
絢音は相変わらず、誰かを思い出させる笑顔を浮かべてそう言う。
「あぁ、だけど……どういうことなんだ? 俺はこの家を出て……」
蓮は絢音の家を不特定の事情で出たという認識でいた。 なぜ彼女の家にいたのか、なぜ彼女の家を出ていかなければいけなかったのか、彼女とはどういう関係なのかは分からないが、絢音という人物についてはよく知っていた。
「少し、思い出そうか」
絢音は自分の隣をぽんぽんと叩いて、座れという。
蓮は特に抵抗もなかったので、素直に、しかし間隔をあけて隣に座ることにした。
「私はあなたの倫理のトリガー。 「これはやってはいけない」っていう意識なの」
絢音の言うことは、あまりにも突拍子がなくて信憑性以前に、理解ができなかった。
「なんだよ……それ」
絢音は変わらずにこにこと笑みを浮かべたまま語り出した。
「そして、あなたの意識のバランスを保っていたハートが彼女……アリスなの」
アリス。 その言葉を聞いて、蓮は落雷に打たれたかの如く衝撃を受ける。
そして、アリスの存在を思い出し、彼女との逃走劇、目の前で彼女を殺されたこと、自分が死んでしまったことを、血の味を、あの凄まじい灼熱を、痛みを、憎しみを思い出す。
なぜ、忘れていたのだろう。
なぜ、自分は生きているのだろう。
一つ、また一つと疑問符が生まれてはそれらが肥大化、頭の中がパンクしそうなくらい「わからない」に溢れる。
しかし、そんなことよりも━━━━蓮は"アリスが死んでしまったこと"を受け止められず、事実を拒絶する為に、理性が発狂を選択した。
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
喉の粘膜が裂けて血が出るくらいに激しく叫んで、叫べなくなるまで叫んで、げほげほと大きく咳き込んで、叫べなくなって、やっと発狂は止まった。 叫ぶこともままならなくなって、ははと狂った男の乾いた笑い声が漏れる。
隣で鼓膜が傷付くくらいに叫ばれているというのに、絢音は苦笑も畏怖もせず、笑顔のままで蓮を覗き込む形で問いかけてきた。
「ねえ、どんな気持ち?」
ふふと笑って耳元で囁く。
「家族を殺されて、新しくできた家族もまた失って、自分も殺されて、なんにもなくなって、どんな気持ちなの?」
なんで、そんなことを言うんだ、と怒鳴りかけるが無力感に押し潰されて何もできない。
アリスのいない人生など、無意味である。 何をして、意味がない。
蓮はそのまま、操り師のいなくなってしまった人形のように、全身の骨を抜かれてしまったかのように、ベッドに倒れた。
ベッドに沈み込むと、悪夢? の内容が、四人がにこにこと、笑顔のまま死んでいく様が、これほどかというくらい鮮明に思い出されて、思わずベッドの上に吐瀉物を撒き散らす。
そして、さっき死ぬ間際に居間に侵入してきた女、絢音のことを思い出す。
「何者なんだ……お前は。 何が目的なんだ……」
胃の中のものを残らず吐き出して、顎についた吐瀉物を手の甲で拭うと、絢音を睥睨した。
「言ったでしょ? 私はあなたの倫理のトリガー。 早見 蓮の中のもう一つの人格だから"早見 絢音"……とでもいったところかな」
絢音はにこにこと薄い笑みを浮かべたまま、いつの間にか手に握られていた"刃渡り四十センチほどの大きな肉切り包丁"を蓮の頭部に向かって振りかざした。
「がっ━━━━あああああああああああああああああ!!!」
頭部への斬撃は間一髪で避けられたが、肩口にずさりと包丁が肉を切り、骨を断ち沈み込む。
正気でいられない灼熱の感覚と痛覚で意識が飛びそうになるが、更に深く切り込まれて、そのショックで意識が再び戻り、凄まじい痛みを感じる。
「こうやって、あなたの意識の中で意識の主体である「早見 蓮」を殺し続けることが私の目的、そしてこの精神世界をぐちゃぐちゃに歪ませることが私の本能にして目的。 これは、病院で植物状態で眠っている、現実の早見 蓮が見ている夢みたいなものなわけだから、現実世界のあなたの体が死ぬまで、あと数十年は、この酔狂な夢は覚めることはないわ……残念だね」
包丁を持つ絢音の手に力を込めて、引き抜かせようとするが、途端に力が抜けて、女子の筋力でさえも押し返せない。
否応なしに包丁はさらに深く沈み込み、心臓まで達すると、失血か、心臓が機能を停止したのか、蓮の意識は再びブラックアウトしていった。
蓮は気付けば、リタ、エナ、アサヒとそしてアリスの四人に囲まれて、アパートの居間の上に敷いた布団の上で横たわっていた。
「あ……」
左脚に感覚はあるし、声も出せる。
そして、なによりもアリスが生きている。
あれは全部、夢だったのだろう。
そう、結論付けて時計を見ると針は午後の五時を指していた。 なんでこんな時間まで眠っていたのかは、思い出せない。
だけど、そんなことよりも、そろそろ、夕飯の準備をしなくてはいけない。
寝起きの重い体を起こして、ハンガーにかけてある上着を着て、食材を買いに出かけようとすると━━━━エナの額から鼻にかけて血が垂れていることに気付く。
どこかで、怪我をしたのか? 手当をしてやろうと思って近付くと、みしみし、とスイカの皮を裂いていくような音がする。
その刹那━━━━エナの頭部はぱぁんと破砕音を立てて砕け散った。 頭蓋骨や脳の欠片が居間に散らかり、血液が部屋の住民全員を濡らす。
「━━━━は」
突然のことに蓮は理解が及ばない。 情緒が定まらない。
しかし、何よりも異常だったのは、目の前でエナが死んだというのに、さっきからずっと平気な顔でにこにこと笑っている三人であった。
「なんだよ……なんだよ、これ……」
状況の理解を拒む理性が、心臓を精一杯、飛び出すくらいにどくんどくんと鳴らして警鐘を鳴らす。
しかし、考える間もなくアサヒの胸部から股にかけて激しい裂傷が走り、大量の血を吹き出しながら倒れた。 トドメと言わんばかりに、傷口からありとあらゆる臓器が浮かび上がると、破裂。
そして全身の色が白から青色に変化、ありえないスピードで体が腐っていく。
まさか次は、と思ってリタとアリスを見ると、リタの腹部から白いワンピース越しに段々と赤黒い血が染みてきて、やがて血は足を伝い床に侵食。
ごふ、と音を立てて喀血を吐き出すと、首が何にもない空間なのに、三六〇度、透明な手に掴まれたように、ごきごきと音を立てて回転、でろんと胴体から首が垂れる形となった。
依然、アリスはにこにこと笑みを浮かべている。
アリスの白いワンピースに一直線の赤黒い線が刻まれる。 その線は段々と侵食していって、気付けば服の半分くらいを占めていて。
ぶちぶち、と音がして服と皮を引き裂いて肋骨が露出すると、心臓や肺が丸見えになって、そうしてそれらに無数の穴が開いたかのように、ぶしゅぶしゅと色々な部分から出血。 心臓が乾燥したように萎んでしまうと、アリスだったものは床に倒れ伏した。
「あ……ああ、ああああ」
理解を拒む理性が、防衛機制の手段として発狂を選択した。
ああああああああああああああああああああああああ
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ああああああああああああああああああああああああ
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はは、と狂った笑い声が漏れると、左胸部に鈍い痛み。
「いた……い」
痛みは加速度的に鋭くなっていって、気付けば白いTシャツの左側には血がべったりとついている。
「い……た」
痛みが耐えられないくらいに強くなっていって、呼吸も乱れて、力も抜けて地面に倒れ伏すと、灼熱の感覚を覚えたあとに、一際強い痛みに襲われる。
今度は痛みが引いていって、全身が鳥肌が立つくらいに冷たくなる。
自分の意識が体を挟んで、死んでいくというのが分かる。 体は、まるで冷凍室にいるかのように冷たくなっていく。
「な……で」
ぎぃとフローリング床が軋んで、居間の引き戸が開けられる音を最後に、音が聞こえなくなって蓮の意識はブラックアウトした。
◇
ふと、目が覚めた。
何か、酷く悪い夢に魘されていた気がするが、その内容は全く思い出せないでいる。
蓮は実に何の感情も介さずに、現状を把握することができた。
辺りを見回すと、周りには乱雑にゲームの箱や本、桐箪笥から飛び出ている女物と見て取れる服に、木造の勉強机の上には栞の差された読みさしの本が置いてある。 そして自分は柔らかくて白いもの、ベッドの上で眠っている。
部屋はカーテンが閉められているので、暗くてよく見えない。
しかし、見覚えのある部屋━━━━
そう、ここは絢音の部屋だった。
なぜ? 頭の中に疑問符が浮かぶが、それは特に肥大化するということはなく、小さな疑問のまま頭の中を渦巻いている。
ぎぃぎぃとフローリング床が軋む音。
がちゃと音がして、ドアが開けられ、光が部屋に射し込む。
ドアの前には、絢音がにこにこと微笑んで立っている。
なぜか、蓮にはその光景が酷く、怖気の走るものに思えた。
絢音は床に散らばっているゴミや本の山を容易に飛び越えていくと、ベッドに向かっていって、そのまま端の方に座った。
「起きた?」
絢音は相変わらず、誰かを思い出させる笑顔を浮かべてそう言う。
「あぁ、だけど……どういうことなんだ? 俺はこの家を出て……」
蓮は絢音の家を不特定の事情で出たという認識でいた。 なぜ彼女の家にいたのか、なぜ彼女の家を出ていかなければいけなかったのか、彼女とはどういう関係なのかは分からないが、絢音という人物についてはよく知っていた。
「少し、思い出そうか」
絢音は自分の隣をぽんぽんと叩いて、座れという。
蓮は特に抵抗もなかったので、素直に、しかし間隔をあけて隣に座ることにした。
「私はあなたの倫理のトリガー。 「これはやってはいけない」っていう意識なの」
絢音の言うことは、あまりにも突拍子がなくて信憑性以前に、理解ができなかった。
「なんだよ……それ」
絢音は変わらずにこにこと笑みを浮かべたまま語り出した。
「そして、あなたの意識のバランスを保っていたハートが彼女……アリスなの」
アリス。 その言葉を聞いて、蓮は落雷に打たれたかの如く衝撃を受ける。
そして、アリスの存在を思い出し、彼女との逃走劇、目の前で彼女を殺されたこと、自分が死んでしまったことを、血の味を、あの凄まじい灼熱を、痛みを、憎しみを思い出す。
なぜ、忘れていたのだろう。
なぜ、自分は生きているのだろう。
一つ、また一つと疑問符が生まれてはそれらが肥大化、頭の中がパンクしそうなくらい「わからない」に溢れる。
しかし、そんなことよりも━━━━蓮は"アリスが死んでしまったこと"を受け止められず、事実を拒絶する為に、理性が発狂を選択した。
ああああああああああああああああああああああああ
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隣で鼓膜が傷付くくらいに叫ばれているというのに、絢音は苦笑も畏怖もせず、笑顔のままで蓮を覗き込む形で問いかけてきた。
「ねえ、どんな気持ち?」
ふふと笑って耳元で囁く。
「家族を殺されて、新しくできた家族もまた失って、自分も殺されて、なんにもなくなって、どんな気持ちなの?」
なんで、そんなことを言うんだ、と怒鳴りかけるが無力感に押し潰されて何もできない。
アリスのいない人生など、無意味である。 何をして、意味がない。
蓮はそのまま、操り師のいなくなってしまった人形のように、全身の骨を抜かれてしまったかのように、ベッドに倒れた。
ベッドに沈み込むと、悪夢? の内容が、四人がにこにこと、笑顔のまま死んでいく様が、これほどかというくらい鮮明に思い出されて、思わずベッドの上に吐瀉物を撒き散らす。
そして、さっき死ぬ間際に居間に侵入してきた女、絢音のことを思い出す。
「何者なんだ……お前は。 何が目的なんだ……」
胃の中のものを残らず吐き出して、顎についた吐瀉物を手の甲で拭うと、絢音を睥睨した。
「言ったでしょ? 私はあなたの倫理のトリガー。 早見 蓮の中のもう一つの人格だから"早見 絢音"……とでもいったところかな」
絢音はにこにこと薄い笑みを浮かべたまま、いつの間にか手に握られていた"刃渡り四十センチほどの大きな肉切り包丁"を蓮の頭部に向かって振りかざした。
「がっ━━━━あああああああああああああああああ!!!」
頭部への斬撃は間一髪で避けられたが、肩口にずさりと包丁が肉を切り、骨を断ち沈み込む。
正気でいられない灼熱の感覚と痛覚で意識が飛びそうになるが、更に深く切り込まれて、そのショックで意識が再び戻り、凄まじい痛みを感じる。
「こうやって、あなたの意識の中で意識の主体である「早見 蓮」を殺し続けることが私の目的、そしてこの精神世界をぐちゃぐちゃに歪ませることが私の本能にして目的。 これは、病院で植物状態で眠っている、現実の早見 蓮が見ている夢みたいなものなわけだから、現実世界のあなたの体が死ぬまで、あと数十年は、この酔狂な夢は覚めることはないわ……残念だね」
包丁を持つ絢音の手に力を込めて、引き抜かせようとするが、途端に力が抜けて、女子の筋力でさえも押し返せない。
否応なしに包丁はさらに深く沈み込み、心臓まで達すると、失血か、心臓が機能を停止したのか、蓮の意識は再びブラックアウトしていった。
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