呪われた令嬢の辺境スローライフ

文字の大きさ
9 / 29

第9話 不安の種

しおりを挟む
 クロエは、ソードマスターの剣の乱舞を全てギリギリで躱していた。
 しかし、徐々にクロエの白い肌が、傷付き、血で染まっていく。

「オラオラ!どうした?防戦一方じゃ勝てないぜ?それとも降参して従魔になるか?」

 男は、クロエを屈服させる為に、敢えてギリギリで躱せる攻撃を繰り返していた。

「クッ!」

 実力差があり過ぎる。 
 クロエは、自分の弱さを痛感して悔しそうに男を睨んだ。
 だが、それすらも男を喜ばせるだけだった。

「素直に従魔になれば、痛い思いなんてしなくて済むぜ?むしろ最高に気持ち良くしてやるよ!」

 男は下卑た笑みを浮かべて、クロエの発育した胸元を見る。
 Dカップの胸は、薄いシャツの下で、柔らかそうに揺れている。
 禁断の果実を捥ぎ取る様に、その胸を揉みしだきたい欲望が男の身体を熱くし、炎が大きくなる。

「あなたには無理よ」

 クロエは、周囲に見えない風の刃を無数に創り出した。
 ソードマスターと近接戦闘は流石に分が悪いと判断したクロエは、後ろに跳んで距離を取ると同時に風の刃を男へ放った。
 
「おっと!」

 しかし、男は、見えないはずの風の刃を全て躱して、逆にクロエの懐に潜り込み、鳩尾にシミターの柄の部分で打ちつける。

「うぐっ!?」

 激痛で呼吸が止まる。
 胃の中身を全て吐き出してしまい、クロエは膝を着いて、立ち上がれなくなった。

 敗北の二文字がクロエの頭に浮かんだ。

「そろそろ、終わりってところか?」

 男は勝利を確信して、クロエの髪の毛を鷲掴み、地面に押しつけた。
 血溜まりに顔が半分沈み、クロエの顔が赤く染まる。

「降参しろ」

 男は、クロエの耳元で囁いた。

「降参しないなら、手足を切り落として、ダルマにするぞ?」
 
 男がシミターをクロエの目の前に突き立てた。
 クロエの身体がビクッと震える。
 男の殺気に満ちた声から、それが脅しでは無いことが分かった。
 
「ハハッ!恐怖を感じたな?心の底から俺に従う様にしっかり調教して従順な雌犬にしてやる!お前を手に入れれば、部下を失ってもお釣りがくるってもんだ!飽きるまで抱いてやるから覚悟するんだな!」

 クロエは、心が凍りついていく中、考えていた。
 自分の求めていた理想の男は、この男なのだろうか?
 オラオラしていて、無理矢理奪ってくる様な強い男だ。

 だけど、何かが足りない。

 まだ、刺激が足りない。

 その根本は理解できないが、この男がクロエの運命の相手では無い事は分かった。

「降参・・・」

 クロエが呟くと、男は、ニヤリと笑みを浮かべて、勝利を確信した。

「するわけないでしょ!」

 クロエは、風の衣を纏い、男を吹き飛ばした。

「ちっ、強情な雌犬だな」

 男は、舌打ちして、再び剣を構えた。
 クロエは、顔半分に塗られた赤い血をペロリと舌で舐めとる。
 
 ・・・甘い。

 クロエはしゃがみ込んで、血溜まりを両手で掬い上げた。

「おいおい、何をするつもりだ?」
 
 男は、クロエの奇行が理解出来ずに、動けずにいた。
 すると、クロエは掬い上げた血を口に含む。

 ゴクンッ!

 クロエは、口の中にあるドロリとした蜂蜜の様に甘ったるい血を飲み干した。
 
「甘くて、美味しくて・・・力が漲ってくる」

 血を飲んだ瞬間、クロエの全身に力が漲ってきた。
 まるで、さっきまでの自分は、餓死寸前の空腹状態だったんじゃないかと思えるくらいだ。
 血が全身に行き渡り、細胞の一つ一つまでが活力を得て喜びに震えている。

 傷付いた肌は瞬時に治り、全身の痛みが消えた。

「まいったな、眠れる獅子を起こしちまったか?」

 男は、クロエから感じる凄まじい魔力と殺気を感じて、危険を察知した。

 次の瞬間、今までの倍以上の速度でクロエが踏み込んできた。
 鋭い手刀は、男の動体視力では見るどころか、反応すら出来ない速さだ。

 ガキンッ!

 しかし、それをシミターで受け止めれたのは、男の勘と経験によるものだった。
 2本のシミターを十字に合わせて、クロエの爪を受けた瞬間、凄まじい力で男の身体が後ろに吹き飛ばされて、数十メートル先の木にぶつかった。

「ガハッ!?」

 まるで肺が潰されたかの様な苦しみに、男が初めて苦悶の表情を浮かべた。
 男は、それでもシミターを構えて、闘いを継続しようとする。
 しかし、その瞬間、シミターにベキベキと亀裂が生じ、砕け散った。

「あ~・・・やべぇな」

 男は、即座にシミターを捨てて、腰のポーチからスクロールを取り出した。
 同時にクロエは、男の喉を切り裂く為に爪を振るう。

「テレポート」

 僅かに男がスクロールに込められた魔術を発動する方が早かった。
 クロエの爪が男の喉を切り裂く寸前で、男の姿が消えた。

「・・・逃げられた」

 クロエは、苦虫を噛み締める様な表情で拳を握りしめる。
 厄介な相手を逃してしまった。
 しかも、自分の正体を知っている相手だ。
 今後、不安の種になる事は避けられないだろうとクロエは確信した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―

酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。 でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。 女神に導かれ、空の海を旅する青年。 特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。 絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。 それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。 彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。 ――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。 その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。 これは、ただの俺の旅の物語。 『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...